専売特許 ダンガンロンパ小話 2015年10月01日 未来機関な眼日スーツでメガネでコーヒーな日なので 未来機関のロビー。 休憩中の日向が、自動販売機で買ったカップコーヒーを飲んでいた。疲れた身体には、多めに入れた砂糖とミルクのまろやかな甘さが心地よい。激務の最中だから尚更か。 疲れを押し出すようにため息を吐く日向は、やってきた人物の異変に眉を跳ね上げた。「田中、目が悪かったか?」 通りすがりなのか、ファイルを手にロビーを横切っていた田中が、日向の声に足を止めた。その顔には見慣れないメガネがかけられている。「日向か。これはアカシックレコードが秘された石板と長時間向かい合うのは、俺様の目といえど悪影響を及ぼしかねないからな……。結界の魔具を用いることもある」 パソコンのブルーライトから目を守るためにつけているようだ。日向は「へぇ……。そうなのか」と納得する。 テーブルに飲みかけのカップを置いて、田中に近づいた。「……む、不用意に距離を縮めるな。心の臓の脈に負荷がかかる」「いいじゃないか。俺の覇王様はそんなに心が狭くないだろ」「……時と場合による」「だって、メガネかけてる田中とか、滅多に見れないだろ。ほら、こっち向いて俺に見せてくれよ。じゃないともっと顔近づけるぞ」 ちっとも怖くない脅しに、しかし田中には効果がてき面だった。困ったように眉を寄せ、「……しかたあるまい。これで、いいだろう」 日向に顔をしっかり向ける。気恥ずかしさから、目元がほんのり赤い。 対して日向は、無遠慮に田中を見つめる。「メガネだからかいつもと印象が違うな。度は入っているのか」「いや。これはあくまで石板から発せられし蒼き光を遮るもの。視力を補うものではない」「なら、ちょっと貸してくれよ」 言うが早いか、日向はさっと両手で田中からメガネをとって自分にかけた。「っ。おい」「本当だ。普通に見えるな。俺、似合うか」 メガネのブリッジを押し上げ、日向はにっこり笑いかけた。 途端に、田中は落ち着きなく体を揺らし「ま、まあまあじゃないですかね……」と声をどもらせる。「なんでいきなり微妙な言葉使いなんだよ。……あ」「こ、今度はなんだ」「ネクタイが歪んてる。ほら、背筋伸ばせよ」 言われるがまま無言で背筋を伸ばした田中のネクタイを、日向は器用に結び直した。 こうしてると、なんか新婚さんみたいだな。つい恥ずかしいことを考え、日向の頬がほんのり赤く色づく。「これでよし! ほら、これも返すよ」 日向はメガネを外し、田中に返した。「あ、ああ……。ありがとうございます」「俺も、目の保養が出来たから」 もうそろそろ休憩が終わる。持ち場に戻らなければ。 最後にこれだけ。 日向のかかとが緩やかに上がる。ついばむ音を一つ立て、驚きに固まる田中に柔らかく微笑む。「じゃ、また夜な!」 一方的な約束をとりつけ、日向は素早く残っていたコーヒーを飲み干し、残してきた仕事をやっつけに走り出す。「……日向め。まだあれほどの力を隠し持っていたとはな……」 ロビーで立ち尽くしたままの田中は唇を押さえる。 日向が飲んでいたコーヒーの香りが、まだ微かに残っていた。 [1回]PR