補給 スーダン 眼日 ダンガンロンパ小話 2014年10月18日 アイランドモードだよ 日向は窓際のソファに座り、図書館で借りた本を開いた。 隣には田中が座っている。こちらは自分のコテージから持ってきた分厚い本を読んでいた。英語で書かれているページに、俺だとちょっと読むのだけで一日かかりそうだ、と日向は思う。まず辞書を用意するところから始めないと。 ページに視線を落とす田中の横顔を、日向はちらちら見た。真剣な表情をして、文章を目で読んでいる。 あんまり見てると気づかれるし、邪魔しちゃうよな。日向は読書に戻るが、それも僅かな時間だけ。すぐ横にいる田中が気になって、視線を向ける。 ごく近い距離。 以前だったら田中はこんな時――。「……何を見ている」 横からの視線に気づいた田中が、日向を見た。 突然視線が絡み合い、日向の心臓がびっくりして弾む。反射的に顔を反らして、わざとらしく本のページをめくる。「い、いや、別に?」 曖昧に濁して誤魔化すつもりだった。しかし上擦った声は信用性が薄い。 や、やっぱりバレてる、よな。どきどきする心臓を日向は宥める。だが、横から聞こえるため息と本をテーブルに置く音に、心拍数が上がってしまいそうだった。「……稚拙な演技で俺様をだまそうとは片腹痛い」「だ、だまそうって。人聞き悪いな。俺はそんなこと考えていないぞ」 日向は思わず田中を見て反論する。 ほう、と田中は細めた目に、追求の光をともした。「ならばなぜ俺様を盗み見る? やましいことがなければ、目を反らさずともよかろう」「う……」 答えに詰まる日向を、田中は静かに見つめた。 目が反らせない。はぐらかしても論破してやる雰囲気が田中からにじみ出ていた。 これは、逃げられない。日向は早々に観念した。 恥ずかしさから目を伏せ、先ほど考えていたことをクチにする。「いや……。最近の田中は魔力の補充しないのかなって、思ってさ」「……ム?」 田中が怪訝そうに眉を潜め、腕を組む。 うわあ、何のことか考えてるよ。俺ばっかり意識してるみたいじゃないか。日向の頬に赤みがさす。しどろもどろに両手の指を絡ませた。「だ、だからその! 前は魔力が足りないとか言って俺のことその……ぎゅっとしたりしてただろ。そ、それが最近ないから……た、足りてるのかよって、魔力」 もごもごと言う日向に対し、田中の顔が徐々に赤くなってきた。どうやら真意を察したようだ。さっきの日向みたいに慌てだし、忙しなく辺りに視線を動かしている。 日向も田中から身体ごと視線をそらしてしまった。背中を向け、ソファの上で膝を抱える。 自分から切り出したことだけど、すごく恥ずかしいぞ。穴にあったら入りたい心境だ。 この状況からどうすればいいんだよ。日向は顔を膝に埋める。考えなしの行動が、日向を追いつめる。 ふと、日向の肩に手が置かれる。ぐっと後ろに引っ張られ、後ろを振り返る。 すぐ近くに、田中の顔があった。鼻先が触れ合いそうな距離に、日向は息を飲む。 うわ、と思っているうちに日向は田中に抱きしめられていた。上体を捻っている状態は少し窮屈だ。身を捩る日向を、田中は包むように腕を回した。「た、田中……」「……俺様としたことが、どうやら失念していたようだ」 耳元に田中の声が吹き込まれる。低めのそれに、背筋が震えた。「貴様と共に在るようになって、随分と経つ。故に特異点である貴様が近くにいるだけで、我が魔力は安定を保てるようになっていた」「そ、そうなのか?」「ああ。……だが、己のことばかりにかまけ、貴様にも魔力を与えねばならぬことを忘れていた。だからその分、今貴様にわけてやろう」 そう言って田中は無言のまま、日向を抱きしめつづけた。田中の胸に顔を埋めた日向は、ちらりと視線を上げる。見えた耳たぶや、マフラーからちらりとのぞく首筋が赤くなっていた。 たぶん俺も顔が真っ赤だよな。 この後、どうすればいいんだよ。 なすがまま田中に抱きしめられた日向は、嬉しくも途方に暮れる。 どうするか決めるまではこのまま離れませんように。そんなことを思いながらも、日向の脳はうまく働きそうになかった。 [2回]