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スーダン 九頭龍と日向と 2


前回の続きっぽく



 夕方の食堂は、多くの生徒で賑わっていた。
 食事をのせたトレイを持って、誰もが空いたテーブルを探している。夕食時は人が多すぎて、すぐに満席になってしまう。
 九頭龍も他と同じように空席を探していた。
 超高校級の料理人が考案した料理は、どれも絶賛されている。それを手にしていながら、なかなか食べれないもどかしさは辛い。
「……お」
 九頭龍は見慣れた背中を見つけた。
 日向が、こちらと同じように夕食のトレイを持って辺りを見回している。
 一人の食事も味気ない。折角だし声をかけて一緒に――。
 そう思った九頭龍が、日向に近づき声をかけようとした。
 だが横から割り込んだ声が、九頭龍の行動を阻む。
「ひーなたっ」
 突然の大声に、呼ばれた当人のみならず、周りの生徒らもふりかえった。注目を浴びて、日向は恥ずかしさに頬を赤くする。
「……左右田。大声でいきなり呼ぶなよ。驚いたし、恥ずかしいだろ」
 集まる視線に萎縮して肩を竦める日向に、手ぶらの左右田和一は悪びれなく笑う。
「悪い悪い。お前見つけてつい」
「つい、じゃないだろ……」
「おっ、うまそーだな」
 呆れる日向のトレイに、左右田が指を伸ばす。皿にのっていた唐揚げをひとつ摘まんでクチに運んだ。
「ん、やっぱここのメシはうめーな」
 唐揚げが一つ減った皿と、それを頬張る左右田を交互に見つめ、日向が「って、勝手に食べるなよ!」と怒った。
 しかし左右田は悪びれず、両手を頭の後ろにおいた。
「悪い悪い。オレのやるからさ」
「お前何も持ってないじゃないか……」
「今から。今から取りに行くんだよ。一緒にメシ食おうぜ、なっ」
「……しょうがないな。じゃあ席を探しとくから、お前は早く取りに行ってこいよ」
「よっしゃ、じゃあ行ってくるけど、先に食べてんなよー!」
 騒がしくその場を後にする左右田を見送った後で、九頭龍は日向に声をかけた。もちろん、相手を驚かせない大きさで。
「ったく、アイツはうるさすぎるんだよ」
「九頭龍」
「お前も、ちったぁガツンと言ってやれよ。ああいうのは少し厳しいぐらいが丁度いいんだ」
 苦言を呈する九頭龍を、日向がちらりと横目で見た。
「いや、そこまでは……」
「甘ちゃんだな。左右田のヤツがつけあがるのが目に浮かぶようだぜ」
 九頭龍は大袈裟にため息を吐く。
 うっ、と日向は呻いて、九頭龍から視線を外した。
「そ、そうだ。九頭龍も一緒にご飯食べないか。一人よりマシだろ」
 指摘された図星を誤魔化すように誘われ、九頭龍は考える。別に一人で食事を済ませても構わない。
 だが。
 九頭龍の脳裏に、さきほどの左右田が浮かぶ。日向との会話に、左右田は強く押しをかけていた。
 日向は押しに弱い。迷っていても、相手から強く出られたら断りにくいところがある。
 そして左右田が日向に対し、友情以上の感情を抱えているのを知っていた。たくさんの人の中、真っ先に日向を見つけて駆け寄るぐらいには。
 あわよくば手に入れて食ってやろうと、尻から狼の尻尾が見え隠れしているようだ。
 ――だから、放っておけないんだよ。変な虫が飛び回ってるんだからな。
「いいぜ。つきあってやるよ」
 誘いを受け入れた九頭龍に、日向は嬉しそうに頷いた。無防備な笑顔は、九頭龍の保護欲をくすぐる。
「じゃあ席三つ空いてるところ探さないとな」
 日向は再び辺りを見回す。そして、食事を終えた生徒が立ち、出来た空席に急いで向かった。
 ようやく席を確保した日向は、トレイをテーブルに置いた。小さく手招きをして、九頭龍を呼んでいる。
 オレにとって、日向は大切な弟分だ。オレの目が黒いうちは日向に手を出そうとしたらぶっ潰す。
 そんな物騒なことを考えながら、九頭龍は日向が待つテーブルへ歩き出した。

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