スーダン 九頭龍と日向と1 ダンガンロンパ小話 2014年10月07日 九頭龍はいいお兄ちゃん とある日の放課後。 突然九頭龍の部屋にやってきた日向によって、即席のお茶会が始まった。 椅子に座る九頭龍の前で、日向は持ってきたかりんとうの袋を開ける。小鉢に入れて、さりげなく九頭龍が取りやすいようにテーブルに置く。「ここの草餅、好きなんだよ」 日向は嬉しそうに草餅を二つずつ皿にのせ、それぞれを自分と九頭龍の前に置いた。一緒に持ってきたステンレス製の水筒から緑茶を注がれた湯のみからは、白い湯気が細くのぼっている。「かりんとうも、そこの手作りなんだ」「へぇ、そうかよ」 九頭龍はかりんとうに目がない。さっそく摘まんだ一本をかじった。さくりと心地よい噛みごたえと共に、濃い甘さが舌を包む。「お、うまいな」 率直な感想に、日向がほっとする。「よかった。九頭龍って、そういうのうるさそうだったから気に入ってもらえるか心配だったんだ」「人様から貰ったものにケチつけるかよ」 心外な言葉に、九頭龍はクチを尖らせた。それどころか、日向が好物を覚えて、わざわざ買ってきてくれた事実が嬉しいのに。 ムッとしてしまった九頭龍に、日向は「悪い悪い」と苦笑いで謝った。「そんなつもりで言ったんじゃないんだ。ほら、かりんとうどんどん食べろよ。買ってきた分、全部あげるつもりだからさ」 日向が持ってきたかりんとうは三袋ある。しばらくおやつはそれだけで賄えそうな量だ。「買いすぎだっての……」 ため息を落とし、それでも九頭龍はすすめられるままかりんとうをかじった。クチの中に残る甘ったるさを、緑茶で流す。ほんのりした渋みによって、また甘さが欲しくなる。 やべえな。これは、あっという間にかりんとうがなくなるパターンじゃねえか。そう思っても、九頭龍の手は止まらない。「後で店の名前と場所、教えるな」 無心で貪る九頭龍に、日向はくすりと笑って草餅を食べ始めた。 九頭龍の好物がかりんとうなら、日向の好物は草餅。口の端っこに餅粉をつけ、ゆっくり味わう表情は、九頭龍のことが言えないぐらいに緩んでいる。 今日あったことを話しながら菓子をつまみ、茶を嗜む。のんびりと過ごす時間が、九頭龍には心地良い。 次があるなら、ペコも誘うか。コイツ相手なら、気を張る必要もない。草餅とかりんとうを買って。今度は俺が茶をいれてやってもいいかもな。 自然と九頭龍の頬が緩んだ。「そんなにおいしかったのか?」 日向には、かりんとうに満足したように見えたのだろう。封を開けてないかりんとうに目を向け「もうちょっと買ってくればよかったかな」と言った。「んな気遣いいらねえっての。店の場所と名前教えてくれるんだろ。それで充分だ」「そっか。ならいいけど」 草餅を一つ食べた日向は、餅粉がついて白くなった指先を見た。「しまったな。おしぼり持ってくればよかった」 どうしようか迷っている日向に「ちょっと待っとけ」と九頭龍が席を立つ。部屋の隅には、入学時に実家から持ってきた箪笥があった。一番上のひきだしをあけ、取りだした手ぬぐいを日向に「これで拭け」と差し出す。「え……。いいよ、悪いって」 木綿に手染めの手ぬぐいは見るからに高級品だ。遠慮する日向に「部屋を汚される方が迷惑なんだっての。いいなら使え」と九頭龍は手ぬぐいを強引に押し付けた。「……ありがとうな」 日向は受け取った手ぬぐいで、指を拭く。汚れを少なくさせたいのか、端っこで。 庶民的な行動を、九頭龍は席に戻って見ていた。コイツ、割と押しが強い奴に負けやすいんだよな。それに甘いところがある。非情に徹しきれず、顔見知りが弱っていたら放っておけないタイプだ。「これ、洗って返すよ」 日向は丁寧に手ぬぐいを折りたたむ。 九頭龍は右手で頬杖をつき、真っ正面から日向を見つめた。「そうやって無意識に気遣ったりすんのはお前のいいところだろうけどよ……。少しぐらいは出し惜しみしとけって」「え? 出し惜しみって、やろうと思ってやってるわけじゃないさ……」「そこだよ」 九頭龍は左の人差し指を、日向に突きつける。「そんなこと言って、ほいほい優しくするところが甘いんだよ。そんなだから、まわりから厄介な虫を引き寄せてるんだっつうの」「……虫?」 意味がわからず、日向は首を傾げる。 ほら、やっぱりわかってねえ。九頭龍はこれみよがしにため息をつきたくなった。草餅よりも、かりんとうよりも甘い考え持ってやがる。続きます [1回]PR