恋を嘲うのかね ペルソナ4 Desire of fool 2014年10月05日 「姉ちゃんが死んでから、親父毎日のように言うんです。もっと話をすれば良かったって。もっと話を聞けば良かったって。でも、もう、遅いんですよね。姉ちゃん……もう死んじゃってるから」 日向は無言で話を聞いていた。尚紀から目をそらさず、じっと見つめる。「誰だって思わないすよね。まさか、よりにもよって、自分の家族があんな風になるとか」 行方不明になった早紀は、数日後無残な姿で発見された。電柱の上、逆さ吊りにされて。「……だから、親父もお袋も」 息急き切ったように喋り、尚紀は「……すいません」とゆっくり首をふって項垂れる。「先輩には情けないことばっかり言っちゃって」「別にいい。俺じゃなきゃ言えないこともあるだろ。そういう奴ぐらいも我慢するのよくない」 日向は自分の弁当から摘まんだコロッケを、尚紀の弁当に入れた。 増えたコロッケをぽかんと見つめ、尚紀の肩は力が抜けたように落ちる。「なんか、ちょっと完二が懐くのわかる気がした」「……尚紀は」「はい?」「尚紀も、後悔してる?」「……どんなんすかね。わからないです。まだ」 尚紀はフェンスの向こうへ、遠く視線を投げた。空は彼の姉が死ぬ前の日を思わせるように曇っている。「……いきなりでしたから」「そうか」 尚紀が日向の考えを探るような目を向けた。「先輩、やけに姉ちゃん、気にしますよね。やっぱり……あの人のことがあるからですか?」 日向は肯定も否定も出来なかった。 ただ静かに笑い、まつ毛を伏せる。「……わからないな」 そう、わからない。 自分のことなのに。 ――わからない。 [0回]PR