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恋を嘲うのかね

じわじわ書いてます



 気まずい表情をする尚紀の箸は止まったままだ。
 日向は追求せず、弁当を食べている。
 しばらくしてから、尚紀は俯いて呟いた。
「子供の頃、完二の家で食べたコロッケ思い出して。そうしたら、なんか……姉ちゃんのことも思い出しちゃって」
「うん」と日向は相槌をうった。
「姉ちゃん、昔から人使い荒いし……しょっちゅう俺をからかったりもして」
 苦味が混じった微笑を口の端に滲ませ、尚紀はほそぼそとした声で語った。川で遊んだ時、ひとりでひょいひょいと岩場を飛んで向こう岸まで渡る姉の姿に、落ちるんじゃないかとひやひやしたこと。そのまま姿を消してなく尚紀を、後ろから驚かせたこと。
「昔っから、変わってないんですよね。つい最近じゃ、冷蔵庫に入れておいた俺のシュークリームを勝手に食べちゃったんですよ。前にも同じことされたから、ちゃんと名前書いておいたのに。ひどいと思いませんか」
「そう……だな」
 微妙に視線を尚紀からそらして、日向は言った。それに気づかず、尚紀は話を続けた。
「本当、ひどい姉ちゃんですよ。乱暴で、人使いも荒くて、文句言えばすぐに言い返してくるし――」
 尚紀は持っていた箸にぎゅっと力を込めた。
「でも……もういないんですよね、姉ちゃん。俺が文句言いたくても、もう、どこにも……いないんですよね」
 尚紀は箸を持つ手を膝にのせる。心なしか、声が震えていた。不用意に後ろから押したら、崩れ落ちてしまいそうだ。
「……親父も、たぶん俺と同じことを思ってるんでしょうね。あんなことがあった後だったから」
「それって、噂のことか?」
 日向は尋ねた。
 千枝が教えてくれた噂話。
 テレビの中の世界にあった、コニシ酒屋だったところ。そこで聞こえてきた、小西早紀と父親の口論。
 その二つは繋がっていると察するのは、あまり難しくない。
「……先輩も知ってたんですね」
 尚紀が日向を見て「まあ、色んなところまで広がってたから、先輩も知ってておかしくないか」と自嘲する。
「一時家出したって聞いた」
 日向はぼかさず、直球に質問を投げる。
 尚紀は目を伏せた。
「そうです。結果はわかってると思うんですが戻ってきて、すぐに親父と口喧嘩になって……。そっからはもう、姉ちゃん親父とクチ聞かなくなって……。それで」
 尚紀は唇を強く噛んだ。
「あんなことになっちゃったんですよね……。訳がわからない状態で殺されて、もう戻ってこないんだ」
「尚紀……」


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