恋を嘲うのかね ペルソナ4 Desire of fool 2014年10月03日 pixivにのせてるやつの続きをちまちま書いてます 八十神高校。昼休み。 鉄製の扉がサビの浮いた音を立てて、開かれる。 トートバッグを手に、日向がまず屋上に足を踏み入れた。その後ろを尚紀が戸惑いを隠せない顔で続く。 空は曇っていた。雨が降る前触れのようにじめじめとした湿気が、まとわりつくようだ。そのせいか、屋上にいる生徒の数は疎らで、閑散としている。「ええと」と、日向が屋上を見回した。フェンス側の隅に目を留めて「あそこにしよう」と歩き出した。 数秒遅れで「ま、待ってくださいよ」と尚紀が慌てて追いかける。「尚紀、屋上ダメか?」 フェンスの根元にある段差に腰を下ろし、日向が尚紀を見上げた。「ダメじゃ、ないですけと。ただ、ちょっとビックリしただけで」 ぼそぼそと言う尚紀に「ビックリ? どうして?」と日向が尋ねた。 すると驚いた尚紀の目が丸くなる。「あんた、わかってないんですか? いきなり一年の教室に入ってきて、すごく注目浴びてましたよ」「そうだったのか」 全然気づかなかった。思い返してみれば、尚紀の教室にやってきた時から、視線が四方八方から飛んできた気がする。「あまり気にしてなかった」「……ははっ。そういうところ、先輩らしいですね」 半分呆れたように笑う尚紀に、日向が「それよりもこっち」と自分の隣をぽんぽん叩く。「座ってくれ」 尚紀が言われた通りに日向の隣へ座った。それを見届け、日向は膝の上にトートバッグを置く。「尚紀には、いろいろ世話になったから」 日向はそう言って、トートバッグから弁当の包みを二つ取り出した。そのうちの一つを尚紀に渡す。 両手で受け取った尚紀は、思わぬ重さに急いで弁当を持ち直す。「……見た目に反して、なんか重いんですけど」「その重さは、俺の感謝の気持ちだ」 真っ直ぐ日向は尚紀を見つめた。 たくさんの人の力を借り、最終的には千枝の直感によって目的の酒は見つけ出すことが出来た。日向はその後フードコートで千枝と肉料理を食べたその足で、酒を頼んだ男に押し付けてきた。 もう、あのへらへらしたしまらない顔を見なくて済む。それだけで、随分心穏やかになれた。それも仲間や尚紀が力を尽くしてくれたから。「ありがとう。尚紀の助けもあってようやくあの煩わしさから解放された」 真顔で紡がれる礼に、尚紀はぽかんとクチをあけた。そして吹き出すように笑われ、日向はきょとんとする。「……?」「あ、いや、すいません。そんな顔でお礼言われるとか思ってもいなかったから。本気でイヤだったのが、よく伝わってきましたよ」 クチを手でおさえ「ありがとうございます。そういうことなら、ありがたくいただきます」と尚紀は笑顔になった。「どうぞ召し上がれ」 尚紀に箸をすすめ、日向は自らも手を合わせる。尚紀もそれにならった。「……うわっ、これ先輩が作ったんですか?」 蓋を開けるなり、尚紀は驚いた。 弁当は二段重ねになっていて、一段目には俵型のおにぎりが整列している。それぞれ梅干しやわかめ、ちりめんじゃこと具材が混ぜ込められている。二段目にはおかずが詰められていた。出し巻き卵にシャケの切り身。マカロニサラダ。そして――。「……これ、コロッケですか」 メインのおかずであるきつね色に揚げられた衣を見つめる尚紀に、日向は頷いた。「完二から聞いたぞ。尚紀の好物だって」「いやそれは……」 尚紀は否定しかけたが、途中でクチを閉ざした。箸で半分に割ったコロッケを食べる。「……うまい、です」 コロッケを咀嚼した尚紀は、小さい声で簡単な感想の述べる。「その割りに、浮かない顔してるのはなんでた?」 そう言った日向に、尚紀は再びクチをつぐんで黙った。 [0回]PR