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楽園 主人公+菜々子+陽介




「おーっ、橿宮に菜々子ちゃん!」
 日曜日の早朝。ジュネスの食料品売場に菜々子と来ていた日向は、耳慣れた声に足を止めた。
 両手に段ボールを抱えた陽介がやって来る。そして「おはよう橿宮。それに菜々子ちゃんも」と営業スマイルではない笑顔を見せて言った。
「おはよう、陽介お兄ちゃん!」
 元気良く挨拶を返す菜々子に陽介は目を細め、「んで、どうしちゃったの。こんな朝早くからジュネス来て」と日向に聞いた。
「朝のパンのジャムがきれたから買いに来たんだが……。お前は何やってるんだ?」
 日向が陽介の身体を上から下まで見る。動きやすい格好にジュネスのエプロン。どうみたってバイト中だ。
「こんな朝早くからバイト……?」
「今日だけな」
 陽介はうんざりしたようにバックヤードへの扉を振り返った。
「急におばちゃんバイトの一人が休んじゃって。人手が足りないからってヘルプにな。ったくこっちは気持ち良く寝てたってのに……」
 語尾が欠伸に取って代わり、陽介は急に首を振る。そして目をしばたく様子はまだまだ眠そうだ。
「マジでねみい……。……腹減ったぁ」
 ぼやく陽介を菜々子はじっと見上げる。そして日向の服の袖を小さく引っ張った。
「菜々子?」
「ねえ陽介お兄ちゃんもあさごはんいっしょできないかな?」
「あ、そうか」
 意を得たように頷き、日向は陽介に聞く。
「陽介。その仕事はいつ終わるんだ?」
「もうちょっとで終わっけど……」
「よし、じゃあその後家に来い。ここで会えたのも何かの縁だし、朝ごはんご馳走するよ」
「えっ、マジ!?」
 突然転がり込んできた誘いに、陽介の表情は明るくなる。さっきまで陽介を引きずり落とそうとした眠気も、一気に覚めてしまった。
「菜々子の提案だし。どうせあんまり朝ごはん食べないほうなんだろ? ちゃんと食生活を見直すいい機会だ」
「お兄ちゃんのごはんおいしいよ」
「そうだね。俺もよく知ってるよ」
 何度か弁当を作ってもらっているから、身をもって実感している。陽介は菜々子の言葉に心から同意した。
「よし、じゃあ決まりだな。仕事終わったらメールくれそれまで待ってるから」
「サンキューな!」
 じゃあ、と手を振って二人と別れた陽介は俄然やる気が出てきた。両手を塞ぐ段ボールを持ち直し、歩きだす。
 終わったら、楽園が俺を待っている。そう思うとあっという間に仕事が終わってしまう予感がした。

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毛繕い 主人公+クマ+陽介




 陽介はジュネスのフードコートで、日向とクマの姿を見つけた。クマは長椅子に着ぐるみの格好で座り、その後ろに日向が場所を取っている。
 興味を惹かれた陽介は、何やってんだろう、と二人に近づく。
「よぉ、クマと二人で何やってんの?」
「陽介」
 やって来た陽介に、日向は軽く手を上げて挨拶を返す。その手にはブラシが握られていた。すぐ側のテーブルに見慣れたロゴのビニル袋があるから、さっき買った物だろう。
「ちょっとクマの毛繕いしようかと」
「そうクマ!」
 クマがはしゃいで両手を上げた。椅子がぐらつき、咄嗟に日向がクマの頭を、陽介が椅子のひじ掛けを押さえる。もし転んだら、後ろの日向も巻き込み、ちょっとした惨事だ。
「馬鹿、椅子の上で暴れんな! こけたらどーすんだよ!」
 クマが危ないことをしたら叱るのは、もう陽介の中では当たり前のことになっている。した時にちゃんと言い聞かせておかないと、クマはまた同じことを仕出かしてしまう。
「そうだな。もう少し落ち着こう」
 日向にも窘められクマは「……ゴメンクマ」とない肩を落とした。それを許容するようにクマの頭を撫で「じゃあやろうか」ともう片手に持っていたブラシを握り直す。
 するとすぐにクマが喜色の滲んだ笑みを浮かべた。
「で、何するつもり?」
 倒れないよう押さえていた椅子から手を離し、陽介は尋ねる。
「だからクマの毛繕い」
 そう言って、日向はクマの毛に、ブラシを通した。毛の流れに逆らわず、流れるように丁寧な動き。
「たまに近寄る猫にするんだ、って言ったらクマもされたいって言い出して」
「それでわざわざクシ買ってまでブラッシングってか? お前もクマに甘いよな」
「でもこう言うの好きだから」
 そう言った日向の頬は緩んでいる。堂島家の近くをすみかとする猫を、何時間構っている彼にとっては何時までも飽きのこない楽しみなんだろう。丁寧なブラッシングに、クマも気持ち良さそうだ。
 近くを通りすがった子供が「ぼくもクマさん撫でたい!」と母親に手を引かれながら言っているのが聞こえる。クマを撫でれる催し事したら、人が集まるかな、と思いながら陽介は近くから椅子を引き寄せ二人の側に座った。
「そこそこ。もうちょっと右っクマ」
「ここ?」
「そこクマ。……っあー、気持ちよかとばいねー」
 手の行き届かない場所をブラッシングされ、クマの身体が気持ちよさそうに震えた。うっとりしている目に「お前はおっさんか」と陽介は突っ込む。これで中身は金髪美少年だから、ある種の詐欺だ。
「気持ちいいものは気持ちいいクマ」
 横から茶々を入れられ、不機嫌にクマは陽介を睨むが、また日向がいいところをブラッシングしたのか「うおぅ」と気持ちよさそうな声を上げた。
 無心でブラシを動かす日向に陽介は尋ねる。
「橿宮楽しい?」
「うん」
 即答で答えた辺り、どうやら相当のようだ。陽介は小さく吹き出し「そっか」と言った。
「でも程ほどにしといてくれよ。あんまり甘やかすとクマが付け上がるから」
「大丈夫。ちゃんと代金貰うから」
「えっ、お金取るクマか!? 聞いてないクマ!!」
 代金と聞き、ぎょっと目を剥くクマに日向は「冗談だ」と笑う。
「お前の冗談、分かりづらいから脅かしてやるなっつうの」
 そう言いつつ陽介も笑い出す。二人に笑われクマが「クマを弄んだクマー!」と怒るが着ぐるみ姿では迫力もなく、笑う声はさらに大きくなっていった。

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かわいい りせ+直斗



 一瞬、直斗は何が起こったのかわからなかった。
 終礼が終わって、担任が教室を出ていった時のことだ。まるでタイミングを見計らったように、勢いよく後ろの扉が音を立てて開いた。
「なーおーと!」
 鞄片手に現れたりせが、ツーテールを揺らして教室に入ってきた。休業しているとは言え、彼女の存在は人の目を引き付ける。まっすぐ直斗の席へ向かうりせを、直斗だけじゃなく、教室中の誰もがあっけにとられて見つめていた。
「一緒に帰ろう?」
 にっこり笑って、りせは誘う。声はかわいらしいが、どうにも抗えない力が含まれていて、直斗は考えるよりもさきに「はい」と頷いてしまった。
 それから先のことはよく覚えていない。と言うよりも流れに追いつくのに失敗してしまった。やった、と喜ぶ彼女に手を引かれ、学校を出て――。
 そして何故かりせの自室にいた。鏡台の前に正座させられ、直斗は固まってしまっている。
 後ろから、楽しそうなりせの声がした。
「一度ね、直斗ととことんきれいにしたいなって思ってたの」
 櫛を持つ手が直斗の髪を梳き、整えられていく。顔にはうっすらだがメイクが施されていた。普段はあまりしないせいで、学生服の自分が少し違ったふうに見える。
「元がかわいいし、そのままにしとくのはもったいないってずうっと思ってたんだから」
「そ、そんなっ……。かわいいだなんて」
 直斗の中でかわいいと思えるのは、菜々子やりせみたいな子だ。雪子はかわいいよりも綺麗の方が似合うし、千枝も健康的で活発な所が好ましく見える。
 とてもじゃないが、僕がかわいいだなんて――。
「えー、直斗はかわいいよ?」
 しかしりせは物おじ一つせず、さらりと言い切った。かわいいと思ってる子にかわいいと言われ、直斗は思わず肩を竦めて強張った。
 鏡の中、赤くなって固まる直斗の後ろで、りせは「直斗は自分のことわかってないなあ」と悪戯っぽく笑う。持っていた櫛を鏡台の棚に置き、直斗の両肩に手を乗せた。コロンでもつけてるのか、柔らかく甘い匂いがする。
「女のコは誰だってかわいくなれるんだから」
「そういう……ものですか?」
「うん。変わりたいと思ったり、誰かを好きになったりとかきっかけは色々だけど。そういうのを見つけたらもっとどんどんかわいくなれると思うの。直斗は今、そういうのたくさん持ってるだろうから、そのままにしとくの勿体ないと思っちゃって」
 だから無理矢理連れて来ちゃいました、とりせは舌を小さく出した。
「それにね、ずっと同い年の友達とこんな風に遊んでみたかったのもあるかな?」
「……そうですか」
「もしかして、やだった?」
 窺うように尋ねるりせの言葉に「いいえ」とはっきり直斗は首を振った。
「僕も最近久慈川さんと同じようなことを思うときがありましたから」
 探偵として、大人の中毅然と振る舞おうとしてばかりいたけど。こうして友達と他愛ない時間を過ごせる心の余白が持てるようになってきた。
 ちょっと遅いけど、こうして遠ざけてきた『女のコ』としての楽しみ方を知りたいと思えるようになったのも、成長した証かもしれない。
「久慈川さん。よかったらもっと色んな話を聞かせてもらえませんか?」
「え?」
「かわいい服がどんなものか……とか。僕は慣れてないので教えていただければ」
 直斗からの申し出に、りせはびっくりした目を瞬かせていた。だが直ぐに笑み崩れると「まっかせて!」と大きく頷いた。

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お迎え 主人公+陽介+菜々子




 テレビから戻った日向は、帰る前に食料品売り場で買い物をしていた。すぐ側にはそれに付き合う陽介の姿。ぐるりと売り場を周りながら、今日はあれが安い。あれは今度安売りするからもうちょっと待ったほうがいい、と助言している。
「教えてくれるのはありがたいけど」
 パック詰めされた豚肉を手にとって品定めする日向は、心配するように言った。
「そんな安売り情報買ってにべらべら喋っていいのか?」
 陽介が齎してくれる情報に助かっているのは事実だ。しかし、他の買い物客に抜け駆けしているような気がして、時たま罪悪感に捕われる。
 だが陽介は「いいって」と歯牙にもかけず笑った。
「どうせ明日にはチラシで出るんだし。橿宮はお得意さんだし。これぐらいのサービスぐらいは全然許されるだろ」
「軽いな……」
 閉口しつつ、陽介がそういうならいいのかも、とほだされかけた日向の制服から携帯が鳴った。いつもと違う着信音に陽介が目を見張る。携帯に掛かってくる着信で普段と音が違うのは特定の人物しかいない。
「菜々子ちゃん?」
「うん」
 豚肉のパックを元に戻し、携帯を取り出した日向はすぐに通話ボタンを押した。
「菜々子?」
『――あ、お兄ちゃん。いまどこにいるの?』
「ジュネスだけど……。菜々子はどこにいるの?」
 夕方に近い時間、菜々子は大低家にいる。しかし耳を澄ませてもつけているだろうテレビの声が聞こえない。その代わり、ぱちゃ、と水が飛ぶような音がする。
『んとね、今おそとにいるの。お兄ちゃんかさもってなかったから』
「あ」と日向は声を上げた。呆然としている姿に、陽介が怪訝に眉を潜める。
 すっかり忘れていた。いつも天気予報で確認しているのに、今日に限ってうっかり傘を堂島家の玄関に置いたままだった。降水確率は低いから大丈夫だろうとたかを括っていたが、テレビに潜っている間降り始めたらしい。
『だからね、お兄ちゃんのおむかえにいこうって思って電話したの。ジュネスにいるんだよね』
「うん。……ありがとう」
 簡単に待ち合わせ場所を決め、日向は電話を切った。何を話していたか知りたがっている目で見ている陽介に、一部始終を伝える。
「じゃあ菜々子ちゃん橿宮迎えにくるんだ」
「うん。――急ぐぞ」
 突然日向が来た道を戻りはじめた。カゴに入れていた食品を、次々元の場所へ戻していく。
「橿宮?」
「せっかく菜々子が迎えに来るのに、待たせるなんて俺にはできない」
「だろうな。お前菜々子ちゃんバカだし」
「ああそうだ、だから待ち合わせてからまた買い物する」
「認めちゃってるよこの人あっさりと」
 らしいっちゃらしいけど、と乾いた笑いを浮かべる。今更指摘するものでもない。
 おいてきぼりにされないよう陽介も、その後に続いた。どうせなら、フードコートでお茶でもしようぜ、と急ぐ日向に提案しながら。

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釣り曜日 二年生組

 雨の日だから、予感はしていた。
 アイツのことだから、きっと無茶をするんじゃないかって。
「は!? 橿宮の奴帰ったのか?」
 放課後、トイレから教室に戻ってきた陽介は、素っ頓狂な声をあげた。陽介の前である日向の席は、既にもぬけの殻となっている。
「うん。そうみたい」
 空になった隣の席を見て、千枝が陽介を見上げる。
「あたしは雪子と話してて気づかなかったけど……。雪子は?」
「私はちらっと見えた」
 座っている椅子ごと千枝の方を向いていた雪子もまた、陽介を見上げる。
「こそこそ隠れるように教室出て行ったけど……」
 声を潜め「……もしかして、喧嘩?」と不安そうに雪子が聞いた。
「ああ、いや、違う。喧嘩とかじゃねえから」
 陽介がすぐ首を振って、雪子の懸念を否定した。しかしその表情はありありと日向に対しての不満を表している。
「じゃあ、何でそんなに怒ってんの?」
 首を傾げ、千枝も疑問を口にする。陽介の表情と、先程雪子が言っていた、逃げるように教室を出ていった日向。二つを合わせて考えると、日向が陽介に隠し事をしているんじゃないかと思ってしまう。
 陽介は腰に手を当て、雨が降る外を見る。
「お前らも来てみれば、きっと俺の気持ちもわかると思うぜ」
「……?」
 訳もわからず、千枝と雪子は顔を見合わせる。


「あー……、なるほどね」
 陽介に連れられるまま、河川敷にやってきた千枝は、苦い顔をしている陽介の視線の先にあるものを見て、納得した。横では雪子が「すごいね」とさしている赤い傘の柄を持ち直しながら、感心している。
「雪子、そこは褒めるところじゃないと思う」
 千枝は降りしきる雨の中、川辺に立っている日向を見下ろす。傘もささず、彼は制服のまま、釣竿を垂れていた。長時間粘るつもりなんだろう。すぐ横にはバケツや釣り道具が置かれていた。
「こうなるだろうから、雨の日は橿宮のことも気をつけてんだ」
 釣りに勤しむ日向を睨み、陽介は言った。
「夏だからってずっと雨にうたれたら風邪引くし、せめて合羽着ろって言ってんのに、雨の日は釣り曜日なんだって聞かねーし」
 こめかみを押さえ、陽介が深く息を吐いた。呆れと怒りが篭るそれに、千枝は「そうだね……」と同意する。これは全面的に陽介が正しい。
「そんなに夢中になれるものがあるってすごいね」
「凄かろうが、それで風邪引いたらしょうもないだろ」
 状況とは的外れなことを言う雪子に言い捨て、陽介は「ちょっと行ってくる」と走り出す。雨で滑りやすい階段を、駆け足で降りても転ばない辺り、止めるのは初めてじゃないんだろう。
「花村君、橿宮君のことが本当に心配なんだね」
 仲良いね、と微笑む雪子に頷き、千枝は思う。今日はあたしも説教に入らせてもらおう、と。雨の日だから釣れる魚もあるだろうが、それでも心配なものは心配だ。
 陽介が日向の元にたどり着き、何やら大声で言っているのが聞こえる。千枝もさっきの陽介と同じような気持ちを込め、ため息を吐くと「あたし達も行こっか」と雪子を促し、川辺の方へ向かった。

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