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思い出作り 堂島家



 こたつを囲み夕食を済ませた後、日向が堂島と菜々子を見て「ちょっと聞いてほしいことがあるけど」と話を切り出した。心なしか緊張しているようで、湯呑みを傾けていた堂島は菜々子と顔を見合わせる。
「話?」と堂島は湯呑みをこたつに置き、日向へ視線を移動させた。仕事柄、つい目つきが鋭いものになり日向が眉を寄せた。考えていることを見通され「何かやらかした訳じゃない」と釘をさされてしまう。
「……お父さん」
 菜々子からも非難めいた声を上げられ堂島は慌てた。
「いや、そういうつもりじゃないんだ。……すまん」
 頭を掻きながら堂島は謝った。きっといくつになっても、娘のあの目には敵わないと思う。
「菜々子。そんな顔してたら可愛いのが台なしだよ」
 さりげなく堂島のフォローをした日向が、菜々子に笑いかけながら席を立った。台所にある電話の下から、隠していたらしい折り畳んだ紙を持って戻る。
「これ」
 紙が堂島と菜々子から読める向きにして差し出された。それは天城屋旅館のパンフレットで、宿泊プランの所に丸がしてある。
「叔父さんも現場復帰はまだだし、菜々子も俺も冬休みだから」
「お前まさかもう予約したとか言うんじゃないだろうな」
「天城が少し負けてくれたからそこに書いてある料金より安いよ」
 料金も俺持ちだし。あっさり日向は言い、堂島は呆然とする。思わずパンフレットを見返すと、高校生がおいそれと出せる金額が示されている。
「菜々子、もう一回広いお風呂入ってみたいだろ?」
 薄々情況を察し、そわそわしていた菜々子は日向の言葉に、「え、もういっかい入れるの?」と途端に目を輝かせた。うん、と日向が頷けば、可愛らしい笑顔が広がる。
「やったぁ! かぞくみんなでおふろだね!」
「ちょ、ちょっと待て」
 置いていかれたまま話がどんどん進んでいく。堂島は焦って話を遮った。
「気持ちはありがたいがそこまでしなくても」
「叔父さん」
 日向が静かに笑った。
「友達との思い出もたくさん欲しいけど、家族の思い出だって俺はたくさん欲しい。それに帰るまでに少しぐらいは孝行させてくれたっていいと思うけど。迷惑もかけたし」
「……日向」
 迷惑、とは菜々子が失踪する前の辺りからのことを言っているんだろう。堂島はいいや、と首を振った。
「子供がそんなことを気にするな。元はと言えばお前を信じなかった俺が悪い」
「でもそれは」
「それ以上は言うなよ」
 堂島は日向の言葉を止めた。あの時甥の口から語られたことを、堂島は今も全て信じられずにいる。テレビの中の世界やペルソナなんて非常識過ぎる。でももう少し信じられたら、何かが変えられるんじゃないかと思うときだってあった。日向一人の責任じゃない。
 仕方ないな。堂島はため息をつく。娘に弱いのは自覚してたが、甥にまでそうなった気がしてきた。
「予約はいつ入れたんだ?」
「え?」
「お父さん?」
 日向と菜々子が同時に驚いて堂島を見た。
 堂島は苦笑を浮かべ「準備しなきゃ行けないだろ」とパンフレットを手元に寄せる。皆で行けると菜々子が「みんなでおんせんだ!」と両手を大きく上げて喜んだ。
「金も俺が払う」
「……叔父さん」
「お前の言うとおりだ。もっと家族でも思い出を作らないとな」
 何を準備しようか考えはじめる堂島に「ありがとう」と日向は目元を緩ませる。
「でも料金は俺が言い出したことだし、折半にするから」
 そして意見を譲らない断定とした口調で言われ、「わかったわかった」と堂島は苦笑いをした。

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交換 特捜隊メンバー



 真面目に学校へ通い始めてから一週間が経とうとしていたある日。日向ら特捜メンバーに誘われて、完二は一緒に昼食を取っていた。天気がいいから、と連れてこられた屋上で円を描くように座り、それぞれが持ってきた弁当を広げる。
 育ち盛りなんだし、たくさん食べて成長しないとね。そう言う完二の母親が作った弁当はとても量が多い。二段重ねの弁当箱にはおかずもご飯もぎっしり詰められている。今でさえ十分でかくなってるのに、これ以上成長させてどうするんだ、と弁当の蓋を開けて完二はいつもそう思う。
「うわー。完二くんとこのお弁当すっごく美味しそうだね!」
 完二の向かいに座っていた千枝が、見えた弁当の中身に声を上げて感心した。
「そっすか? オレはあまりそう思いませんけど」
「そりゃあ完二くんは毎日食べてるからじゃない。いいなぁ」
 そう言いながら、千枝はじっと完二の弁当を見つめる。余りにも物欲しそうな視線を注がれ、完二は思わず「良かったら好きなモンお一つどーぞ」と千枝におかずの詰まった弁当を差し出した。
 えっ、と千枝が驚いて、差し出された弁当と完二の顔を交互に見た。
「いいの? もらっちゃって」
「いっすよ。あんな物欲しそうな顔されちゃ、あげねー訳にもいけねえし」
「え? え?」
 千枝は箸を持ったままの右手で頬を押さえた。
「あたしそんな顔してた?」
「うん。してた」
 千枝の隣に座っていた雪子が、完二の代わりに答える。
「じーっと完二くんのお弁当見て、すごく欲しそうな顔してたよ」
「ちょ、ちょっと雪子……」
 そこまではっきり言わなくても、と言いたそうな顔をした千枝の頬に朱がさす。しかし雪子は「私も一つ貰っていいかな? そのコロッケ美味しそう」と自分のペースを崩さずに言った。
「卵焼きと交換しよう?」
「あ、じゃああたしはウィンナーあげる!」
 頬の赤みが引かないままの千枝にも言われ、完二は肩を竦める。いらないと遠慮しても押し付けられそうだ。
「はいはい。何でもいいっすから早く取ってくださいよ」
 差し出したままの弁当を軽く揺らすと、さっそく二人の箸が完二の弁当に伸びる。
「……なあ、天城」
 三人の会話を聞いていた日向が、ふと真剣な顔で口を挟んだ。
「その弁当は誰が作ったんだ?」
「板長さんだよ。たまにお客さんの朝食作りのついでに余ったものを詰め込んでくれるの」
「じゃあ俺にも卵焼きくれないか?」
 明らかにさっきより安堵した声で日向が言った。どうしてそこまで慎重なんだろう、と日向の横で完二は不思議がる。
「代わりに好きなおかず取っていいから」
「わ、本当? 嬉しい」
 見せられた日向の弁当から何を貰おうか選別しつつ、雪子は「橿宮くんのお弁当はどれもおいしいから困っちゃうな」と贅沢な悩みを言う。迷った揚句、ポテトサラダを貰い「ありがとう」と嬉しそうに笑う。
「……橿宮先輩って料理上手いんすか?」
 雪子の喜びようを見て、完二が思ったことをそのまま口に出した。確か日向は叔父と従姉妹が住んでいる家に居候している。刑事である叔父の忙しさと、小学校に入ったばかりの年齢である従姉妹のことを考えれば、そこまで見事な出来栄えの弁当を作れるのは、日向しかいないだろう。
「すっごい上手いよ」
「うん。見事としか言いようがないくらいにね」
 完二の疑問に、千枝と雪子が自信を持って答えた。女子二人から太鼓判を押される腕前に、完二も興味が沸いてきた。ちらりと視線を日向に向けると、「良かったら完二も何か食べる?」と尋ねられる。
「お、オレは……」
「その代わり俺にも何かくれたら嬉しい。その筑前煮とかちょっと食べてみたい」
 気兼ねさせない為か、交換を持ち掛けてくる日向。
 完二は小さく笑うと「仕方ねーな」とわざとらしく面倒そうに言いながら、弁当を日向に差し出した。


「……お前ら、楽しそうだな」
 購買で買ったパンを片手に、ずっと黙っていた陽介が恨めしそうに言った。
「弁当忘れた花村が悪いんでしょ」
 呆れながら言って、千枝は完二から貰ったおかずを食べて「うっまー!」と感嘆した。美味しさに頬を緩ませながら、完二に笑顔を向けた。
「完二くんとこのお母さん料理上手いね! すごく美味しい!」
「それを言うなら里中先輩ん家のも美味いっすよ。天城先輩のも」
「ありがとう。板長さんに言っておくね」
 和やかに友好が深まる雰囲気が漂う。そこから取り残された陽介は、食べかけのパンを持った右手を腿の上に落としてうなだれた。
「陽介」と慰めるように日向が肩を叩いた。振り向いたその口先に、箸でつまんだハンバーグを突き付ける。
「これやるから泣かない」
「泣いてねー!」
 がなりながらも、陽介は仏頂面で口を開け、ハンバーグを一口で食べた。

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桜 菜々子+クマ



 淡く桃色の蕾が綻び、春の空に桜が咲いている。青空に映える柔らかな花は、見ている人間の表情を和ませそうだ。しかし桜の下で花を見上げる菜々子のそれは、今の天気とは裏腹にどんよりと曇ってしまっている。
 寂しそうな目をする菜々子を「どーしたの、ナナチャン?」と連れ立って散歩に来ていたクマが心配そうに覗き込んだ。青い瞳に見つめられ、菜々子は、はっと我に返り慌てて首を振る。
「ううん。なんでもないよ」
 そう言った菜々子に、クマは不満そうな顔をした。
「ウソはダメよ、ナナチャン」
「えっ?」
「だってすっごく悲しそーな顔してる。ナナチャンにはそういうの似合わないクマよ」
 クマに指摘され菜々子は両手で頬を押さえた。自分の考えていることが顔に出ているなんて、思わなかったから。「やっぱり何か考え事してたクマね」
 菜々子の反応に確信を持ってクマが言った。頬を押さえた両手を下ろし、菜々子は頷く。
「……菜々子ね、お兄ちゃんとさくら見たかった」
 時期的に無理だと、菜々子はわかっている。しかし、どうしても一緒に見たい気持ちもあった。菜々子は母親を亡くしてからずっと、わがままを言わないできた。忙しい父親を気遣ってのことだったが、それも日向と過ごした一年で随分気持ちに変化が表れている。
 もっと一緒にいたかった。
 あの別れの日、兄のような存在に抱き着いて零した言葉も――涙も、偽りない菜々子の気持ちだった。困らせてしまっているのに、涙が止まらなくて離れたくなくて。そんなわがままを日向は優しく笑って聞き、そして頭を撫でてくれた。
 菜々子は俯き、下ろした手を握りしめる。
「お兄ちゃんに、あいたいな……」
 ぽつりと叶わないわがままを呟く。こんなに綺麗に桜が咲いているのに、日向がいないと色褪せて見えた。
「……ナナチャン」
 俯く菜々子をクマが見下ろす。
 クマには寂しがる菜々子の心情がとても理解出来た。自分もまた同じような気持ちを抱えているから。日向や陽介がテレビの中にやってきたことがきっかけで、クマはこうして外の世界に存在している。じゃなきゃ、きっと霧に埋もれた世界にいたままだろう。
 クマはそっと菜々子の手を包み込むように握りしめた。寂しさを共有するように。でも菜々子は一人じゃないと教えるように。
「……クマもセンセイと離れ離れで寂しいクマ」
 桜を見上げ、クマは菜々子に言った。鼻の奥がつんとする。わざとらしく鼻を啜ったふりをして涙を堪えた。
「クマさん……」
 菜々子はクマを見上げ、繋いだ手にぎゅっと力を込める。
「あのねクマさん。菜々子お兄ちゃんいなくてさみしいよ。でもね、今クマさんがいてくれて、すごくうれしい」
「ナナチャン」
「ありがとう、クマさん。菜々子と一緒にいてくれて」
 ほわりと菜々子が笑う。
「ことしはムリだけど、らいねんはお兄ちゃんともいっしょに見ようね。やくそく」
「……うん。見よう。また皆で」
 約束を交わし、クマは菜々子と上を仰いだ。見上げたそこは桜で満開になっている。だけどクマは既に来年の春が待ち遠しくなっていた。

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衣替え 主人公+千枝



 いつも上はジャージなあたしだけど、夏服の間だけは別だ。冬服と違って動きやすいし、デザインも可愛い。お母さんは、クリーニングとかで準備が面倒だっていっつも文句を零すけど、あたしは毎年この時期が来るとわくわくしちゃう。
 今年も梅雨が近づいて、衣更えの季節がやって来た。
 あたしは、前日の夜にクリーニングの袋から出しておいた夏服に袖を通してさっそく登校する。通学路には同じように夏服の子の姿。だけど冬服のまんまって子も中には混じっている。まだ移行期間だから校則違反じゃないけど、ちょっと変な感じ。暑くないのかなって思う。最近は夏の近づくのも早い気がするし。
「……おっ」
 あたしは目前を歩く橿宮くんの姿を見つけた。鞄を脇に挟んで、のんびりとした歩調。学ランや私服の黒い色が印象に残ってるせいか、白のシャツを着ている橿宮くんはこれまた不思議な感じがした。何て言うのかな。珍しくて、新鮮、って言うのかな。
 あたしは、おーいって大声で呼び止めて橿宮くんのところまで走った。おはよう、って挨拶をすると橿宮くんも、おはよう、って返してくれる。そして彼はあたしの方をじっと見た。
「ちゃんと夏服来てるんだ」
「さすがに暑い時に長袖ジャージは着れねーっすよ」
 すっかりあたしのイメージがジャージで定着しちゃってることに肩を竦めながら「夏の間は腰に巻いてるの」と前で結んだジャージの袖の端を掴んで見せる。
「あたし夏服のが好きなんだ。だから衣更えの時期はいっつもうきうきしちゃってねー」
「里中らしいな」
 橿宮くんが愉快そうに口元を上げる。
「うん。似合ってるよ」
 続けて言われた言葉に「もうっ、橿宮くんったら褒めすぎ!」とあたしは照れて彼の背中を強く叩く。ばしん、と音がして顔をしかめた橿宮くんはよろけてしまう。
「里中、元気が良すぎ」
「あはは……」
 あたしは不可抗力だと叩いた手をひらひらさせたが、無言の圧力にあっさり折れた。
「ごめんなさい」
「よし」
 もともと怒ってなかったのか、あっさり橿宮くんは許してくれた。とても懐が広い彼の寛容さは、見習うべき所だと思う。
 あたしは小さく笑って隣を歩く橿宮くんを見た。うん、やっぱり橿宮くんの白ってすごく新鮮だ。
「……じっと見られると照れるんだけど」
 前を向いたまま橿宮くんがぼそりと呟いた。恥ずかしがっている様子がかわいい。
「ね、朝初めて会ったのってあたし?」
 急に尋ねられ、橿宮くんは疑問詞を浮かべたような表情で「うん」と頷いた。
 あたしはあることを思い付いて、携帯を取り出す。
「じゃあさ、写メ撮っていいかな? 花村に自慢してやろーっと」
「自慢って……」
「だって橿宮くんの白って新鮮で貴重っぽい感じがするし! はーいいくよー」
 カメラを起動させた携帯を構え、チーズ、と合図を送ると、彼もノリよくピースをしてくれた。割と橿宮くんはこういうことに乗ってくれる。そのノリの良さは、どことなく雪子に似ていると思う。
「ご協力感謝!」
「うまく撮れた?」
「もち!」
 ぐっと親指を立ててから、あたしは早速花村にメールを送る。いつも橿宮くんと一緒にいるんだから、少しぐらいは優越感を覚えたい。これ見た時の花村がどんな顔をするか見れないのが残念だけど。
 メール送信の画面を見届けて、携帯を閉じた。爽やかな朝にあたしは大きく背伸びをして、隣の橿宮くんを見る。
「今日も一日、頑張ろー!」
 ガッツポーズを決めるあたしに、「うん」と笑って橿宮くんは頷いた。

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厚意 主人公+花村+直斗



 枝を掴み、強度や太さを確かめる。乗っても充分そうだ、と直斗は木の幹にかけていた足を枝に移動させた。
 木の葉が擦れる音が耳元でする。視界を遮る枝を折らないように払いつつ、更に上を目指した。
「直斗ー、行けそうかー?」
 下の方から心配そうな声が聞こえる。枝と枝の隙間から、こちらを見上げる日向の姿。そしてその横には陽介と――目を真っ赤にした女の子もいた。
「大丈夫です! この木けっこうしっかりしてますから!」
 直斗は主に泣いている女の子に対し、大きな声ではっきり返した。そしてまた手頃な枝を見つけどんどん上を目指していく。
 その先には、赤いリボンがついた帽子があった。風で飛ばされ木に引っ掛かったそれを、直斗は無事に救出する。幸い葉っぱが着いていただけで、大した被害もない。
 直斗はほっとして帽子の汚れを払い、「取れました!」とまた大声で告げる。すると下から歓声が沸き上がり、その中に女の子の嬉しそうな声が混じっていた。


「助かったよ。俺達じゃどうにもならなかったから」
 ありがとう、と戻ってきた帽子を被り何度もお礼を言う女の子を見送りながら、日向も直斗に礼を返した。
「そんな、大したことはしてませんから……」
 直斗は頬を赤くしながら恐縮する。自分がしたのは、木に登って、風に飛ばされた帽子を取っただけだから。
「いやいや、十分すげーよ。事情聞くなり直ぐさま木に登って、そうそう出来ないしな」
 感心しながら言う陽介は「こっちは二人掛かりで取ろうとしてこの様だしな……」と腰を摩る。肩車の上になった陽介が、バランスを崩して地面に落下した結果だった。
「大体肩車であの高さまで届く訳ねえし」
「陽介ならやってくれると思ったのに」
 そっぽを向いた日向の呟きを耳聡く聞き付け、陽介がきつく睨む。
「その言葉、俺の目を見て言えよ。その場しのぎだろ絶対!」
 怒る陽介を「お、落ち着いてください」と直斗は宥めた。
「あの女の子は橿宮先輩にも花村先輩にも感謝していました。何とかしてあげたい二人の気持ちは伝わってるでしょう。無駄じゃありませんよ」
「うん。直斗いいこと言った。だから陽介も落ち着け」
「何かさ、すっげ、すっげえ釈然としないのは気のせいか……?」
 憮然としながら、陽介は腰を労るかのような手つきで摩る。それを聞いて日向も「俺だって痛いの我慢してるんだ」と強かに打ち付けたらしい背に回した手を当てた。
「まぁ俺らはともかく、直斗が一番かっこいいのは目に見えてる。ので、フードコート行こうか」
「えっ?」
 脈絡もなく出てきたフードコートの言葉に、直斗はつい困惑する。日向の中でどう話題が変わるのか、たまに直斗は不思議になった。
「いいことをしたんだから、直斗にもいいことがないと。――奢るよ」
「そ、そんな。いりません」
 直斗は勢いよく首を振る。あれは、帽子が飛ばされた女の子の涙を止めてやりたかったから取った行動だ。直斗の中では当たり前で、そこまでしてもらう必要なんてない。礼なら帽子が戻ってきた女の子の笑顔で十分すぎる。
「そう言うな」
 日向が笑った。
「せっかくの厚意を受け取るのも、たまには必要なことだぞ」
「じゃあ俺にも何か奢ってくれるよなー相棒」
 陽介が二人の間に身を乗り出して、話に割り込んだ。にっこり笑う陽介に、日向が真顔で答える。
「いいよ。陽介が俺に何か奢ってくれるならね」
「それ何か奢りとは違くない!?」
 じゃれながら軽口を打ち合う二人に、顔を上げた直斗は思わず笑みを零してしまった。こんな時、日向を始め特捜本部の仲間と知り合えてよかったと思う。こうして笑える自分を発見出来た。
「じゃあお言葉に甘えてもいいですか? 先輩方に事件のこととか色々聞きたいですし」
 そう前言を翻すと日向は笑い、ああ誘いを受けてよかった、と直斗は思った。

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