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コロッケ 尚紀




 晴れた日にはいつもここで食べるんだ、と日向に連れてこられたのは屋上だった。
「尚紀、こっち」
 入り口で立ち止まったままの尚紀を余所に、日向は真っ直ぐいつも座っているらしい場所に進んでいく。そして戸惑う尚紀を見て、早く来い、と言うように手招きする。
 ゆっくり歩いて近付くと、日向は持っていた弁当の包みを解いていた。明らかに一人分にしては多い。最初から誰かと食べるために作られたのだと分かる。
 それが自分だと思うと、尚紀は何とも言えない気分になった。嫌ではないけれど。
「……座らないのか?」
 立ったままぼんやり見下ろす尚紀を見上げ、日向が首を傾げた。はっと我に返り「す、すいません」と尚紀は日向の隣りに腰をおろす。昼休みを一緒に過ごすのは初めてなせいか、少し緊張した。
「はい」
 弁当が差し出される。受け取ると、自分の母親が作るものよりも美味しそうだった。
「……これ、橿宮さんが作ったんすか?」
 うん、と日向が頷く。
「口に合うか分からないけど、どうぞ」
 そう言って日向は自分の弁当を食べ始める。
 手渡されて返すのも失礼だろう。尚紀は恐縮しながら、箸をつけることにした。
 とりあえず、目に付いたコロッケを口に運ぶ。
「……あ」
「どう?」
「その、すげーうまい、です」
 ぼそぼそ呟くように言ってしまったが、それを聞いた日向は、そうか、と僅かに目許を緩めて笑う。
「昔完二が作ったのと、どっちがおいしい?」
「……え?」
 それは夏休みに会った時、出くわした完二との会話で話していた内容を言っているんだろうか。尚紀は弁当を見つめる。十年前、完二が作ったコロッケの味を思い出しつつ、もう一口目の前のコロッケを食べた。
「アイツが作ったのもうまかったすけど、橿宮さんのも美味しいですよ」
 出たのは曖昧な答えだったが、日向は気を悪くした様子もなく、完二も料理がうまいみたいだしな、と箸に挟んだ卵焼きを一口で食べた。かみ締めながら何か考え込み、不意に顔を上げる。
「今度は完二にも作ってもらおうか、コロッケ。で、食べくらべてみるとか」
「えっ?」
 突然の思い付きに箸が止まり、尚紀は日向を見た。良い考えだと思ったらしい日向は既にやる気を見せていた。
「俺も完二の料理、一度食べてみたかったし」
 断られる展開は日向にはないらしい。尚紀が唖然としている間に、着々と話が進んでいく。
「あの、橿宮さん……。断られるって可能性は考えないんすか?」
「なんで?」
 恐る恐る口を挟んだ尚紀を、心底不思議そうに日向は見た。
「なんでって……。アイツですよ?」
 昔ならいざ知らず。今の完二は、稲羽では族の頭とも呼ばれている不良だと恐れられている。いくら日向の頼みでも、大人しく聞いてくれるだろうか。
 だが日向は、大丈夫、と心配のかけらもなく言い切った。
「大丈夫。完二ならきっと俺のお願い聞いてくれるから」
「……」
 その自信はどこから来ているんだろう。聞いてみたかったが、どんな答えが返ってくるかと思うと、なんだか恐ろしくなる。
「よし、じゃあ後で頼んでみる」
 意気込む日向に、尚紀はそうっすね、と力なく答えるのが精一杯だった。

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起こす方法 男子組





 横から妙な声が聞こえ、眠っていた完二は目を覚ました。
 まだ重たい瞼を開けると、見慣れない部屋に一瞬驚くが、すぐに今日は天城屋旅館に泊まったのだと思い出す。ついでに昨晩降り懸かった不運の数々も思い出し、爽やかな朝とは対照的に憂鬱な気分になった。
 どうしてイベントごとになると、決まって酷い目にあうんだろう。釈然としないまま、大きく伸びをする。
「――おっ、起きたか?」
 どこからか足音が聞こえ、からかうような声が掛けられる。
 起き上がり、部屋を見回すと洗面所のほうから陽介が出てきた。大分早く起きたらしい。服も着替えて、すっかり身だしなみを整えていた。
「おはよーさん。よく眠れたみたいで良かったな」
 揶揄するように陽介はにやにや笑う。
「なんも出なかったみたいだし。――お化けとか」
「う、うっせえなぁ。一々話を蒸し返すなよ」
 大体殺された山野アナが直前まで泊まっていた部屋だと分かった時、怯えていたのは陽介も同じだろうに。つい言いたくなるが、ぐっと堪える。言ったら、また他のことも蒸し返されそうだ。昨日のことだけに、まだ傷は深く癒えていない。
 憮然としながらも、完二は「……それにしても随分早起きっスね、花村先輩」と話を変えた。
「俺は髪のセットとか、時間掛かるからな。自然と早起きになんだよ。お前だってそうだろ?」
 陽介は下ろしている完二の頭を見た。そして洗面所の方を指差す。
「俺は終ったから。使っていいぜ」
「……そりゃどうも」
 起き上がるついでに、完二は枕元へ置いていた携帯電話で時間を確認する。慣れない布団で寝たせいか、いつもの起床時間より少し早い。これなら、身支度を整えても少しゆっくり出来るだろう。
 欠伸をしながら、布団から抜け出す。
「……ん。……キチャーン」
 隣りの布団で眠っているクマの寝言が聞こえる。眠りから覚ましてくれた妙な声は、これだったようだ。
 見れば、なぜか枕の方に足が向いている。クマの寝相は酷いらしい。
 そしてふと気になり、反対の方を向いた。
「……」
 陽介が寝ていた布団の向こう、日向が寝ているそこにはぴくりとも動かない山がある。確か、寝る前から全く動いていない気がした。
「……花村先輩」
「んー?」
「橿宮先輩生きてます?」
 座ってテレビの電源を入れた陽介は、リモコンを手にしながら苦笑する。
「生きてる生きてる。大丈夫だから」
 そう言われても完二はなんだか不安になった。あそこまで微動だにしない人もそういないんじゃないだろうか。
 寝相の悪いクマと全く動かず眠る日向。両極端すぎて、なんだかシュールだった。
「……ま、起こす時がアレなんだけど」
 頬杖をついて天気予報を見ながら、陽介がぽつりと疲れたように呟く。実感が篭っている声に、思わず眉を寄せて陽介を見た。
「は?」
「見れば分かっから。お前は準備済ましちまえよ」
「……でも先輩は?」
「いいよ。どうせどんなに揺すっても起きないし。もちょっとしたら菜々子ちゃんに電話するからそれまで寝かしとこうぜ」
 どうして日向を起こすのが、菜々子へ電話するのに繋がるんだろうか。不思議になりながらも、完二は陽介に急かされて洗面所に向った。


 その後、菜々子の声一つで起きた日向に、完二はなんとなく納得してしまった。


 ――やっぱりこの人、兄馬鹿だ。

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悪影響 花村+一条




 グラウンドに歓声があがる。
 一組と二組の合同体育で行われているサッカーの試合で、味方から飛ばされたパスを、日向がうまく胸で受け止めた。ざっとフィールドを見渡し、ゴールに向けてボールを蹴る。
「うわ、橿宮はりきってんなー」
 試合を横で観察している陽介に、同じく見学を決め込んだらしい一条が近付いてきた。感心するように言う一条に「橿宮は手の抜き方知らねーしな」と陽介も頷いた。
「みるみるうちにあんなにゴールに近付いてるし」
 ほんの少しの間で、日向は味方とパスを繰り返し、確実にゴールへの距離が縮まっていた。
 日向の元に、再びボールが戻る。
 右足を振りかぶり、シュートが放たれた。
 その瞬間、ボールは鋭い音を立て、ゴールネットに突き刺さっていた。ゴールに立っていたキーパーが、動く隙もなく。
 わっと日向のクラスメートが一際高い歓声を上げる。
「はぁー……。何だよあの殺人シュート。アイツバスケ部なのにな」
 長瀬が見たら勧誘してきそうじゃね、と続けながら隣りの陽介に同意を求めようと振り向く。
 だが陽介は神妙な顔で日向を見ていた。相棒と言って憚らない友人の活躍が、嬉しくないんだろうか。
「まぁ、な……」
 言葉を濁しながら、ようやく陽介が応える。
「里中直伝の足技だし。強くて当たり前なんだろうけど」
「えっ!?」
 陽介から出てきた名前に、思わず一条は驚いてしまった。
「なっ、ななな、なんで里中さんの名前が出て来るんだよ!?」
 つっかえながら尋ねると、陽介はその勢いに気おされたように一歩引いて答える。
「なんでって、一緒に修行とかしてるみたいだし。その成果があれだろ」
 ゴールに入ったままのボールを指差す。
 だが一条は冷静でいられない。つい陽介の肩を掴み、「それって、デ、デートとか、なの?」とうわずった声で尋ねてしまう。勘が良い人だったら、一条の問いは千枝に対する好意察しそうなものだったが、幸い陽介は気付かずに身体を震え上がらせた。
「いや、まだデートのほうがマシだな。可愛げがある」
「……は?」
「一緒に修行だかやってるせいで悪い影響受けたんだか知らないけど。橿宮の奴、最近口より先に足が出るようになってよ……」
 この前だって、と自分を抱き締めながら呟く陽介に、一条は眉を寄せる。
「この前がどうしたって?」
 陽介は口を開きかけ、いや、と青ざめた顔で首を振った。
「……聞くな。それがお前の為でもある」
 危機感迫った口振りに、一条はただ首を捻るしかない。
 冷えていく空気の向こう、また唸るシュートの音が聞こえ、歓声が沸いた。

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経験者は語る 主人公+菜々子+完二



 鮫川に向かって歩いていると、河川敷のほうから見えてくるのは密かに憧れている先輩の姿。小さな女の子と手を繋ぎ、もう片方の手にジュネスのビニル袋を持っているから、恐らく夕飯の材料を買いに行っていたところだろう。
 その様子から、完二は一緒にいるあの子は、日向が居候している家の子だと気付いた。陽介や雪子から話は聞いているが、こうして見掛けるのは初めてだ。
 ふと、完二はやけに真剣な陽介が言っていたことを思い出す。

『――前もって言っとく。橿宮は見事なシスコンに進化してる。だから、菜々子ちゃんを落ち込ませるような言動を、アイツの前で絶対するなよ。怖い目にあいたくなかったらな』

 一体どういう意味だろう。具体的に教えてくれなかったので、どう恐ろしいかいまいち理解しにくい。
 どうせ花村先輩が言っていることだ。大袈裟に言って、オレをからかってるんだろう。完二はそう結論付ける。これでも、かつて一人で暴走族を潰したこともある。怖いものなんて、ない。
 完二は「先輩」と呼びながら近付いた。
 しかし、声に気付いた日向がこちらを振り向くよりも、何故か菜々子が完二を見て「わぁ!」と歓声を上げるほうが早かった。
「ぼーそーぞくのお兄ちゃんだ!」
「……は?」
 飛び出した思わぬ言葉に、完二は固まってしまう。今、何と言われた?
「テレビに出てたお兄ちゃんだよね。菜々子テレビに出てたのみてたよ」
 無邪気に菜々子は笑う。
 そうだな、と菜々子に同意しながら日向は苦笑いを浮かべていた。
 完二は、誘拐されテレビに放り込まれた切っ掛けとなったあの特番を思い出す。あの時は暴走族のリーダーだと勘違いされ、カメラを向けられてしまった。実際はその暴走族を潰した方なのに。
 その間違った認識で、菜々子は完二を見ているらしい。それでも怯えられそうなものだが、逆に「かっこいいね!」と笑顔で言われ、複雑だ。
「……オレはゾクじゃねえんだけどよ」
 世話になった日向が可愛がっている菜々子に怒る訳にもいかず、完二は困り考えながら呟く。この誤解は解いておきたい。
「……ちがうの?」
 きょとんとして、菜々子は完二を見上げる。
 完二はなるべく怖がらせないよう屈みつつ「だから」とさらに口を開いた完二の背中に、
「完二」
 ぞわりと寒気が伝った。
 日向が、じっと完二を見つめている。菜々子がいる手前笑っているが、完二からすれば全く笑ってないようにしか見えない。

 ――菜々子の夢を壊すなよ。

 ペルソナも呼び出せそうな取り巻く雰囲気を纏い、そう無言の圧力を掛けている。一瞬、日向の後ろに大剣を振りかぶったイザナギが見えたような気がした。
「どうしたの?」
 本気の殺気に固まった完二を、菜々子は心配する。物怖じせず、きっと普段と変わらず接してくれてるだろう菜々子は、こちらの言葉をちゃんと聞いてくれるだろうけど。
「……なんでも、ねぇ」
 今の日向を前にして、誤解を正す勇気は、なかった。

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上達の裏 二年生組



 昼休みに日向たちは、移動した机を合わせ、座りあう。それぞれが弁当や購買で買ったものを取り出す中、雪子が緊張気味に「あ、あのっ……」と日向たちを見回す。
 一点に視線が集中して、雪子は恥ずかしそうに頬を赤くしながら、出した重箱を合わせた机の中心に置いた。
「き、今日これ作ってきたんだけど……。みんなに食べてほしくて」
「え? 雪子の手作り!?」
 千枝の言葉に敏感な反応を示したのは陽介だ。林間学校の物体Xを思い出して、露骨に嫌そうな顔をしている。再び蘇ろうとしている惨劇に、ねーわ、と無意識に首を振り皺の寄った眉間に指を当てた。
「まだ手伝ってもらったりもしてるけど、大分自分一人でも出来るようになってきたから」
 そう言いながら、雪子は重箱を広げていく。出し巻き卵や焼き魚、きんぴらごぼうなど、和風のおかずが綺麗に詰め込まれていた。
「わ、雪子前よりすっごく上手になってない? すごいうまそう!」
「そうかな……?」
 褒める千枝に雪子は嬉しそうに頬を赤らめる。しかし陽介は見た目が綺麗でも、楽観視できなかった。林間学校のカレーに久保を捕まえた後の打ち上げに出されたオムライス。そのどちらも旨いものではなかったので、どうしても身体が身構えてしまう。
 陽介は隣りに座っている日向の様子を窺った。同じ酷い目にあっている筈の彼は、何故か落ち着いているように見える。
 日向がふと、陽介を見返した。大丈夫だと、声に出さず唇を動かした。
「食べてみていい?」
 用意された箸を手にした千枝に、雪子が「うん、いいよ」と頷いた。
「橿宮くんと花村くんも食べてみて?」
 重箱を差し出されて、勧められてしまっては断れない。花村は意を決して、出し巻き卵に箸を伸ばした。日向の作ってきたものを摘む時より、数倍の勇気を要した気がする。そもそも、弁当を食べるのに勇気は必要ないだろう。
 日向はきんぴらごぼうを口に運びかけている。それを見て陽介は、ぎゅっと眼を瞑ると、口の中に出し巻き卵を押し込んだ。


「どうした陽介」
 下校時間になっても、ぼんやり席に着いたままの陽介に、帰る準備を済ませ立ち上がった日向が振り向いて言った。
「いや……」
 腕組みをして深く考え込む陽介に、「天城の弁当のことか?」と尋ねた。
 そう、と陽介は頷く。必死の思いで口に運んだ出し巻き卵の味を思い出して、不安なまなざしを日向に向ける。
「確かにあのカレーよりは、全然マシだったんだけどよ……。何か、夢見てる気分みたいでだって思ってな……」
 不味いのを期待してた訳ではないが、美味しいと思っても、それが現実か疑ってしまう。
「大丈夫だって。俺も今まで天城に付き合って味見してきたけど、最初と違って食べられるようになってるから」
 ふーん、と頷きかけ、陽介ははっとして日向を見た。
「今まで? 今までってことは、俺の知らない時に何度も味見してきたってことか!?」
「うん。まあ」
 苦笑いをして日向は頷く。林間学校のことがあるのに、雪子の味見に付き合っていた日向に、陽介は感服した。そして同時に理解する。日向の犠牲があってこそ、雪子の料理は少しずつ上達しているのだと。
 陽介は席を立つと、日向の肩を叩き、引き寄せた。
「お前の健闘を称えて、今日何か奢るわ。何でも言え。何でも奢るから」
「大袈裟だな」
 日向は肩を竦め、それでも「じゃあジュネスで何食べるか考える」と苦笑混じりに返した。

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