悪影響 花村+一条 ペルソナ34Q小話 2013年05月03日 グラウンドに歓声があがる。 一組と二組の合同体育で行われているサッカーの試合で、味方から飛ばされたパスを、日向がうまく胸で受け止めた。ざっとフィールドを見渡し、ゴールに向けてボールを蹴る。「うわ、橿宮はりきってんなー」 試合を横で観察している陽介に、同じく見学を決め込んだらしい一条が近付いてきた。感心するように言う一条に「橿宮は手の抜き方知らねーしな」と陽介も頷いた。「みるみるうちにあんなにゴールに近付いてるし」 ほんの少しの間で、日向は味方とパスを繰り返し、確実にゴールへの距離が縮まっていた。 日向の元に、再びボールが戻る。 右足を振りかぶり、シュートが放たれた。 その瞬間、ボールは鋭い音を立て、ゴールネットに突き刺さっていた。ゴールに立っていたキーパーが、動く隙もなく。 わっと日向のクラスメートが一際高い歓声を上げる。「はぁー……。何だよあの殺人シュート。アイツバスケ部なのにな」 長瀬が見たら勧誘してきそうじゃね、と続けながら隣りの陽介に同意を求めようと振り向く。 だが陽介は神妙な顔で日向を見ていた。相棒と言って憚らない友人の活躍が、嬉しくないんだろうか。「まぁ、な……」 言葉を濁しながら、ようやく陽介が応える。「里中直伝の足技だし。強くて当たり前なんだろうけど」「えっ!?」 陽介から出てきた名前に、思わず一条は驚いてしまった。「なっ、ななな、なんで里中さんの名前が出て来るんだよ!?」 つっかえながら尋ねると、陽介はその勢いに気おされたように一歩引いて答える。「なんでって、一緒に修行とかしてるみたいだし。その成果があれだろ」 ゴールに入ったままのボールを指差す。 だが一条は冷静でいられない。つい陽介の肩を掴み、「それって、デ、デートとか、なの?」とうわずった声で尋ねてしまう。勘が良い人だったら、一条の問いは千枝に対する好意察しそうなものだったが、幸い陽介は気付かずに身体を震え上がらせた。「いや、まだデートのほうがマシだな。可愛げがある」「……は?」「一緒に修行だかやってるせいで悪い影響受けたんだか知らないけど。橿宮の奴、最近口より先に足が出るようになってよ……」 この前だって、と自分を抱き締めながら呟く陽介に、一条は眉を寄せる。「この前がどうしたって?」 陽介は口を開きかけ、いや、と青ざめた顔で首を振った。「……聞くな。それがお前の為でもある」 危機感迫った口振りに、一条はただ首を捻るしかない。 冷えていく空気の向こう、また唸るシュートの音が聞こえ、歓声が沸いた。 [0回]PR