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二次創作(小説のみ)やオフラインの情報を置いてます。

経験者は語る 主人公+菜々子+完二



 鮫川に向かって歩いていると、河川敷のほうから見えてくるのは密かに憧れている先輩の姿。小さな女の子と手を繋ぎ、もう片方の手にジュネスのビニル袋を持っているから、恐らく夕飯の材料を買いに行っていたところだろう。
 その様子から、完二は一緒にいるあの子は、日向が居候している家の子だと気付いた。陽介や雪子から話は聞いているが、こうして見掛けるのは初めてだ。
 ふと、完二はやけに真剣な陽介が言っていたことを思い出す。

『――前もって言っとく。橿宮は見事なシスコンに進化してる。だから、菜々子ちゃんを落ち込ませるような言動を、アイツの前で絶対するなよ。怖い目にあいたくなかったらな』

 一体どういう意味だろう。具体的に教えてくれなかったので、どう恐ろしいかいまいち理解しにくい。
 どうせ花村先輩が言っていることだ。大袈裟に言って、オレをからかってるんだろう。完二はそう結論付ける。これでも、かつて一人で暴走族を潰したこともある。怖いものなんて、ない。
 完二は「先輩」と呼びながら近付いた。
 しかし、声に気付いた日向がこちらを振り向くよりも、何故か菜々子が完二を見て「わぁ!」と歓声を上げるほうが早かった。
「ぼーそーぞくのお兄ちゃんだ!」
「……は?」
 飛び出した思わぬ言葉に、完二は固まってしまう。今、何と言われた?
「テレビに出てたお兄ちゃんだよね。菜々子テレビに出てたのみてたよ」
 無邪気に菜々子は笑う。
 そうだな、と菜々子に同意しながら日向は苦笑いを浮かべていた。
 完二は、誘拐されテレビに放り込まれた切っ掛けとなったあの特番を思い出す。あの時は暴走族のリーダーだと勘違いされ、カメラを向けられてしまった。実際はその暴走族を潰した方なのに。
 その間違った認識で、菜々子は完二を見ているらしい。それでも怯えられそうなものだが、逆に「かっこいいね!」と笑顔で言われ、複雑だ。
「……オレはゾクじゃねえんだけどよ」
 世話になった日向が可愛がっている菜々子に怒る訳にもいかず、完二は困り考えながら呟く。この誤解は解いておきたい。
「……ちがうの?」
 きょとんとして、菜々子は完二を見上げる。
 完二はなるべく怖がらせないよう屈みつつ「だから」とさらに口を開いた完二の背中に、
「完二」
 ぞわりと寒気が伝った。
 日向が、じっと完二を見つめている。菜々子がいる手前笑っているが、完二からすれば全く笑ってないようにしか見えない。

 ――菜々子の夢を壊すなよ。

 ペルソナも呼び出せそうな取り巻く雰囲気を纏い、そう無言の圧力を掛けている。一瞬、日向の後ろに大剣を振りかぶったイザナギが見えたような気がした。
「どうしたの?」
 本気の殺気に固まった完二を、菜々子は心配する。物怖じせず、きっと普段と変わらず接してくれてるだろう菜々子は、こちらの言葉をちゃんと聞いてくれるだろうけど。
「……なんでも、ねぇ」
 今の日向を前にして、誤解を正す勇気は、なかった。

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