起こす方法 男子組 ペルソナ34Q小話 2013年05月03日 横から妙な声が聞こえ、眠っていた完二は目を覚ました。 まだ重たい瞼を開けると、見慣れない部屋に一瞬驚くが、すぐに今日は天城屋旅館に泊まったのだと思い出す。ついでに昨晩降り懸かった不運の数々も思い出し、爽やかな朝とは対照的に憂鬱な気分になった。 どうしてイベントごとになると、決まって酷い目にあうんだろう。釈然としないまま、大きく伸びをする。「――おっ、起きたか?」 どこからか足音が聞こえ、からかうような声が掛けられる。 起き上がり、部屋を見回すと洗面所のほうから陽介が出てきた。大分早く起きたらしい。服も着替えて、すっかり身だしなみを整えていた。「おはよーさん。よく眠れたみたいで良かったな」 揶揄するように陽介はにやにや笑う。「なんも出なかったみたいだし。――お化けとか」「う、うっせえなぁ。一々話を蒸し返すなよ」 大体殺された山野アナが直前まで泊まっていた部屋だと分かった時、怯えていたのは陽介も同じだろうに。つい言いたくなるが、ぐっと堪える。言ったら、また他のことも蒸し返されそうだ。昨日のことだけに、まだ傷は深く癒えていない。 憮然としながらも、完二は「……それにしても随分早起きっスね、花村先輩」と話を変えた。「俺は髪のセットとか、時間掛かるからな。自然と早起きになんだよ。お前だってそうだろ?」 陽介は下ろしている完二の頭を見た。そして洗面所の方を指差す。「俺は終ったから。使っていいぜ」「……そりゃどうも」 起き上がるついでに、完二は枕元へ置いていた携帯電話で時間を確認する。慣れない布団で寝たせいか、いつもの起床時間より少し早い。これなら、身支度を整えても少しゆっくり出来るだろう。 欠伸をしながら、布団から抜け出す。「……ん。……キチャーン」 隣りの布団で眠っているクマの寝言が聞こえる。眠りから覚ましてくれた妙な声は、これだったようだ。 見れば、なぜか枕の方に足が向いている。クマの寝相は酷いらしい。 そしてふと気になり、反対の方を向いた。「……」 陽介が寝ていた布団の向こう、日向が寝ているそこにはぴくりとも動かない山がある。確か、寝る前から全く動いていない気がした。「……花村先輩」「んー?」「橿宮先輩生きてます?」 座ってテレビの電源を入れた陽介は、リモコンを手にしながら苦笑する。「生きてる生きてる。大丈夫だから」 そう言われても完二はなんだか不安になった。あそこまで微動だにしない人もそういないんじゃないだろうか。 寝相の悪いクマと全く動かず眠る日向。両極端すぎて、なんだかシュールだった。「……ま、起こす時がアレなんだけど」 頬杖をついて天気予報を見ながら、陽介がぽつりと疲れたように呟く。実感が篭っている声に、思わず眉を寄せて陽介を見た。「は?」「見れば分かっから。お前は準備済ましちまえよ」「……でも先輩は?」「いいよ。どうせどんなに揺すっても起きないし。もちょっとしたら菜々子ちゃんに電話するからそれまで寝かしとこうぜ」 どうして日向を起こすのが、菜々子へ電話するのに繋がるんだろうか。不思議になりながらも、完二は陽介に急かされて洗面所に向った。 その後、菜々子の声一つで起きた日向に、完二はなんとなく納得してしまった。 ――やっぱりこの人、兄馬鹿だ。 [0回]PR