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チェンジ 主人公+クマ




「クマって陽介の家に居候してるんだよな?」
 日向に突然聞かれ、クマは瞬きをしながら彼をじっと見返した。そして頷き「そうクマよ」と答える。
「ママさんがいてもいいって言ってくれたから厄介になってるクマ」
「陽介のお母さんが?」
「そうクマ」とクマが今度は深く頷いた。
「ママさんがヨースケの家では一番偉いクマ。だって怒るとすごく怖いクマよ」
「まぁ、それはわかる」
 陽介が隠し持っていたとあるモノを見つけた時、その母親がどんな対処を取ったか。それを陽介から聞かされただけでも、きっと家では強いんだろう、と日向は内心思っている。きっと怒らせてはいけない類いの人だ。
「パパさんはヨースケに似てるとこがあるけど、とっても優しいクマ」
 にこにこ笑いながら話すクマに、日向はふぅん、と眼を細める。その声音に含まれている感情に気づいたクマが、日向に顔を近づけて言った。
「……もしかしてセンセイ、クマがうらやましいクマ?」
「……」
 日向は横を向き、クマの視線から逃げた。クマの言葉が当たりだと、肯定しているような反応だった。
「センセイって、意外とヨースケにベタ惚れ?」
 近づけていた身体を戻し、クマは腕を組んで首を傾げた。
「でもクマからしたら、センセイのがうらやましいクマ。だってナナチャンと一緒に住めるんだもの」
 帰ったら可愛い声で出迎えてもらって、そして一緒におやつやご飯を食べたり。テレビを見たり。ずっと一緒にいられる。
「クマ、ナナチャンん家の子になりたいクマ」
「……」
 うっとりと考えていることを言うクマを見つめ、日向は口を閉ざして考え込む。
 そうだクマ、と表情を明るくしたクマが、人差し指を立て、日向に提案した。
「センセイ、クマと立場チェンジしない?」
「……」
「センセイはー、ヨースケと一緒にいられてー、クマはナナチャンといられる。良くない?」
 どう? と眼で尋ねられ、日向はすぐに首を振った。
「いや、いいや。菜々子と陽介どっちかと言えば菜々子がいいから」
 即答した日向にクマは、がっくり肩を落とした。そしてゆっくりと首を振りつつ、溜め息を吐く。
「センセイはナナチャンが一番クマか……。かわいそヨースケ」
 眉間に寄せた皺に指を押し当てて言った言葉は、陽介に対しての同情が多分に含まれていた。

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着信 陽介+クマ




 みかんを食べ終えたクマは、満足しきったように頬を緩め横になると、こたつに潜り込んだ。足元から伝わる暖かさに、一層の幸せを感じる。
「ヨースケー、みかんもいっこ」
 身じろぎしながら落ち着く場所を探し、クマは当然のように言った。
「お前な……」
 向かいでぼんやりテレビを見ていた陽介は、厚かましいクマに呆れる。
「みかんぐらい自分で取りいけよ。お前が食べんだし」
 花村家では、みかんを一箱分買っているが、その殆どをクマが消費している。いざ食べようと陽介が箱の中を覗き、中身の少なさに愕然としたほどだった。元旦早々、出された料理を勢いよく食べていたせいもあり、クマに向けられる陽介の視線は冷えている。
 クマは上体を起こし「ちゅめたいなー、ヨースケは」と口を尖らせて抗議した。
「クマはジュネスのためにガンバって働いてるのになー」
「それと同じぐらい色々やらかしてんのも忘れんなよ……」
 去年とまったく成長が見られない口論に、陽介は閉口する。そして今年もこのノリについていかなければならないのか、と軽く目眩がした。
 溜め息を吐きつつこめかみを叩いていると、こたつの上に置いているクマの携帯電話が鳴った。クマがフリップを開いて、あっ、と眼を見開く。
「ナナチャンから電話クマ!」
 嬉しそうに笑って、何故かこたつから出たクマは興奮して立ち上がり、早速通話に出る。
「ナナチャン、あけましておめでとうクマー!」
 電話に出るなりクマは声を弾ませた。笑いながら、嬉しそうに正月の楽しさを語り出す。菜々子には見えないのに、大きい手ぶり身振りつきで。
「うん。初めてのショーガツ、満喫してるクマ。お節とかー、お雑煮とかー。ナナチャンはどう?」
 尋ねたクマは、ふんふんと携帯電話から聞こえる菜々子の声に、相槌をうつ。陽介に見せていた不遜さは、菜々子と話し出した途端失せている。
 その素直さをこっちに見せてくれれば可愛いげもあるのに。態度の違いに紛然とした思いを抱えていると、今度は陽介の携帯が鳴る。
「――橿宮?」
『クマどう?』
 携帯電話の向こうから、くすくすと笑う声がした。
 陽介は苦笑して、クマを見る。
「あー、喜んでんよ。さっきまで寒い寒いってこたつに潜り込んでたのに、菜々子ちゃんから電話が来るなり、立ち上がってる」
 見せてやりたい、と言うと、さらに日向が笑った。
『じゃあ、写メ撮って送って。菜々子にも見せるから』
「わかった。これ切ったら送るわ」
『菜々子も嬉しそうだよ』
「うん」
『もうちょっとしたら、二人で陽介ん家に行くから』
「分かった。……待ってっから」
 それじゃ、と簡単に挨拶を交わし、短い通話を切る。菜々子と二人日向が来てくれることに期待を膨らませながら、携帯電話のカメラを起動させ、立ったままはしゃいで話すクマにレンズを向けた。

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来る年 堂島家



 しゅんしゅんと、火にかけていたやかんの注ぎ口から湯気が立ち上る。すぐ横で年越蕎麦のつゆを味見していた日向は、ガスを止めてやかんの湯をポットに移し替えた。
 居間からは、テレビの音が聞こえてくる。
 夜も遅くなり、普段ならもう布団に入っている菜々子は、買ったばかりのこたつに潜り込んでうたた寝をしていた。だが大晦日なのもあり、堂島も無理に起こしたりせず、部屋から持ってきた毛布を娘にかけている。
 それを見た日向の胸が、久しぶりにじんと暖かくなった。口許を緩め、出来上がったつゆの鍋にかけていた火も消し、居間に向かう。
「叔父さん。もう蕎麦の準備出来たからいつでも食べれるよ」
 堂島は、はす向かいに座る日向を見て「すまんな」と言った。
「今年は最後までお前に頼りっぱなしだったな。大掃除に正月の準備までやってもらっちまって」
 すまなそうに言う堂島に「俺がやりたくてやってるから」と日向はゆるりと首を振って返した。
「それにそう思うなら、はやく元気になってほしい」
「そうか……。そうだな」
 眠る菜々子を見つめ、父親の顔をした堂島が深く頷いた。そしてはだけた毛布を肩まで上げてかけ直す。
「でもだからって遠慮はするなよ。友達と約束とかあったら、そっち優先して構わないからな」
 念を押すように言う堂島に「それなんだけど……」と日向は話を切り出した。元旦は朝から仲間と初詣に行くことは言ってある。だが、それよりも早い時間で陽介に会うことも言っておかなければ。刑事である堂島は、何かを曖昧にごまかされることを嫌うのだから。
「……」
 話を聞いた堂島は一瞬難しい表情で眉を寄せたが、すぐに「仕方ないな」と趣旨を変えたように言った。
「いいの?」
 てっきり何か一言は言われると思ったのに、と日向はこっそり驚く。
「さっき言った言葉を撤回するわけにもいかないだろう。それにお前だったら何か馬鹿なことしないだろうし。だが年明けだからって、羽目は外すなよ? また補導されるとか、俺はごめんだからな」
 からかう堂島に「うん」と日向は苦笑した。稲羽に越してきた春先に補導されかけたことが、なんだかずっと昔のことのようだと思う。
「……叔父さん」
 ふと日向は堂島に向かって、居住まいを正した。
「今年は色々ありがとう」
「日向」
 静かに頭を下げる日向に、堂島が眼を見張った。
「いつか叔父さんは俺が来てくれて良かった、って言ってくれたけど。俺もここに来れてすごく良かったって思う」
 顔を上げ、真剣な眼で堂島を見る。
「だから、お礼を言いたくて」
「……お前」
 まじまじと日向を見返し、堂島は突然笑い出した。眼を丸くする甥の肩に、力強く手を置く。
「水臭いのはなしだ。言ったと思うが俺達は家族みたいなもんだろう。今更礼とか言うな」
 叔父の言葉に、日向は眼を瞬いて堂島を凝視した。そして、口元を緩やかに上げ「うん」と嬉しさを滲ませて微笑む。掛けられた、家族と言う言葉がくすぐったく、そして暖かく日向へ滲みていく。
 緩んでしまう頬を隠すように、日向は立ち上がった。
「もういい時間だし、蕎麦出すよ。もうちょっとしたら叔父さんは菜々子を起こして」
 早口で言い、慌ただしく日向は台所に引っ込んでいく。その際に赤くなった耳たぶを見た堂島は、優しく微笑んで「わかった」と台所の甥に応えた。

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たべもののうらみ 主人公+千枝+陽介




「や、やっと休憩かぁ……」
 疲れが滲んだ声で呟きながら、千枝がフードコートでようやく見つけた空席に座り込んでテーブルに突っ伏した。日向も陽介もそれに倣うように、無言で席につく。忙しいと覚悟していたが、ここまでとは思わなかったとその場にいる誰もがそんな表情をしていた。
「やっぱヒーローショー侮っちゃダメだな。フードコートがあそこまで埋まるの、俺見たことないもん」
 それでも何とか座れたのは、そのヒーローショーが始まったおかげになる。それが開催されている会場に客が大勢流れたからだ。
 深く息を吐く陽介に、日向がゆっくり頷く。朝から働きつづけ、昼過ぎにようやく最初の休憩。今までで一番忙しかったせいか、日向は肩を揉みつつ首を回した。
「……お腹空いた」
 千枝がテーブルに突っ伏したまま呟いた。面を上げ、顎でテーブルを突き陽介を見る。
「わーってるって」
 ひらひらと手を振って陽介は苦笑した。忙しいからとバイトを頼み込んだ日向と千枝には、その期間中フードコートで昼食を奢ることになっている。
「さー、お前ら何食べたい? 何でも言ってくれよ」
 疲れを気にしないように、陽介は明るく尋ねた。
 日向と千枝の視線が、陽介に集中する。
「あたしは肉! もしくはウルトラヤングセット!」
「ウニ」
 上体を起こし、元気よく挙手する千枝に淡々と一言だけ言った日向。対称的な物言いをする二人を交互に見て、陽介は後ろに背をもたれた。
「里中はまだわかるけど……。橿宮はなに。なんでウニ?」
「久保捕まえて事件が終わったお祝いにこの前みんなでお寿司食べたんだけど。ウニが一つしかなかった」
「それで?」
「食べたかったのに、足立さんに取られた」
 取られた時を思い出したのか、日向は不機嫌な顔になる。
「はー、それでウニなわけか」
 千枝が納得して感心した声を上げた。
「食べ物の怨みは怖いからねぇ……」
「だからってなんで今なんだよ。それにここにはウニ売ってねーよ」
 フードコートに並ぶ店舗は、焼きそばやファーストフードの類いばかりだ。日向の望むウニは置いていない。
 しかし日向は陽介をひたりと見据えて言った。
「ウニ」
「ここには売ってねーって言ってるじゃん」
「ウニ」
「だから、フードコートのなかで」
「さっきなんでもって言った。だからウニ」
「……」
「ウニ」
「わかったから。今日のバイト終わったら買ってやるから……」
 とうとう折れた陽介が、諦めたように肩を落とす。
 日向は「楽しみにしてる」と言った後、そして続けた。
「じゃあ昼は俺もウルトラヤングセットで」
「……」
「昼からのことも考えて力を蓄えないと」
「おっ、いいこと言うね、橿宮くん! あたしも負けてらんない!」
 張り切るように千枝は両手を握り込む。
 たくましいな、と二人を見て陽介は思った。あまり見習おうとは考えたくないけど。
 諦観を込めた息を吐き「じゃあ買いに行くか」と陽介は二人に立つよう促した。

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プレゼント 主人公+千枝+陽介



 千枝が教科書を出し授業の準備をしていると、いきなり横から何かが差し出された。がさり、とビニル袋が擦れる音の方に思わずびっくりして振り向けば、日向が「これあげる」と言う。
 瞬きをした千枝は、差し出されたものを見て「……あたしに?」と日向に視線を移した。
「うん」と頷く日向から差し出されたものを受け取り、興味心からさっそく中を覗いてみる。何の前触れもなかったせいか、少し千枝はどきどきしてしまう。
 中に入っているのはどうやらDVDらしい。手にとって袋から出した千枝の眼が、パッケージのタイトルを見るなり丸くなった。
「これって成龍伝説の新作じゃん!」
 しかも数量限定の限定盤だ。通常盤では決して見られない特典映像が多く収録されている、ファンにはたまらない仕様だが数量限定のため入手が困難になっている。千枝もまた予約をしても手に入らなかった人間の一人で、涙をのんで諦めかけていたせいか、いきなり現物を見せられ気が動転してしまった。
「こっ、こっ、これ! どしたの!?」
 上擦る声で千枝が尋ねる。酷く驚いたせいで、喉から手が出るほど欲しかったDVDを持った手は震えてしまった。
「ちょっとしたツテで貰ったんだ」
 何のこともなく日向がさらりと言った。
「本当は新品がいいんだろうけど。開封済みのしかなくって。里中はそういうの気にする?」
「ううん! 全然気にしないよ!」
 せっかく日向がくれたものなのに。そう思いながら勢いよく首を振った千枝は「でもどうしてこれくれるの?」と不思議になって日向に聞いた。
 すると日向は「里中の修業に役立つかと思って」と答える。
「里中の蹴りにはいつも世話になってるし。これからも頼りにしてるから」
「……橿宮くん」
 元々自分の蹴り技は、カンフー好きな趣味から始めたことだった。けど、こうして頼りにしてくれる言葉をかけてもらえると、心からやってて良かったと千枝は思える。
 千枝は笑顔を浮かべ「ありがとう!」と日向に感謝の礼を伝えた。
「すっげー嬉しい! これ参考にしてもっと強くなっちゃうから!」
「うん。里中の蹴りには期待している。そして、俺にもまた形教えて」
「オッケーオッケー張り切っちゃうから!」
 力こぶを作るように腕を曲げ、千枝は張り切る。せっかく日向が期待してくれているのだから、それに精一杯応えたかった。


「……」
 日向と千枝のやりとりを後ろから見ていた陽介は、深い溜め息を吐いて机に突っ伏した。またあの二人の蹴り技が鍛え上げられると思うと、心中穏やかではいられない。
 確かにシャドウ相手には有利かもしんないけど。それがこっちに向かってきたら、と思うと。
 春先に千枝に蹴られた時の衝撃を思い出し、陽介は身震いする。あれ以上鍛えられた蹴りなど喰らった日にはどうなるか。
「余計なことを……!」
 怨みを込めて陽介は呟くが、それは日向にまで届くことはなかった。

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