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sleep well 特捜男子メンバー


 修学旅行の初日。日向は息苦しさに目を覚ました。暑いし、胸と腹の辺りに強い圧迫感がして、身体が動かない。
 ゆっくり首を巡らせ左右を見る。元ラブホテルのベッドはその名残を強烈に示すかの如く、大人が余裕で二、三人は横になれそうなほど無駄に大きい。そしてそのほぼ中央で寝ている日向の両隣に、毛布の山が右と左に一つずつ出来ていた。
 無言で毛布をめくりあげる。
「……」
 胸の辺りに陽介の腕が、腰にはクマの腕が伸びていた。それぞれが自分の方向へ引き寄せようと力をかけている。
 俺は抱きまくらじゃない。睡眠を邪魔されて不機嫌な日向は、まず陽介の腕を力任せに剥がした。乱暴に押して寝返りを打たせ、距離を離す。
 クマにも同様の処置をして、ようやく息苦しさから解放された。呼吸も楽になりほっとする。
 起床時間までまだ時間はたっぷりだ。もぞもぞと毛布を被り、日向は瞼を閉じて意識を沈ませる。
 しかし。
「……」
 ものの数分も経たない中に蘇る息苦しさ。ベッドの端へと追いやった筈の二人が、再び日向を抱きまくらのように抱き着いてきた。本当に寝てるのかと日向は疑いたくなった。
 今度は粗暴に身体から二人を引きはがし、起き上がる。眠気で瞼も身体も意識も重い。だけどここにいたら、確実に睡眠が取れなくなるだろう。
 二人の寝息に挟まれ、日向はシーツを握りしめて考える。


「……ん」
 うーん、と低く唸りながら陽介は目を開けた。閉められたカーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。
 でももうちょっと寝てたいかな。陽介は身近にある体温に擦り寄り、二度寝の心地良さに深い息を吐く。
 しかし「……クマー」と聞こえてきた声に、意識が一気に覚醒した。ばっと目を見開くと、腕の中に見える金色の髪。まだ寝ているのか「センセーイ……」と寝言を呟きながら陽介の胸元に擦り寄った。
「うおああぁ!?」
 ぞっと走った寒気が背中に走り、陽介は思いきりクマを突き飛ばす。ごろごろ転がって、クマはベッドから落ちてしまった。
 聞こえる悲鳴を余所に、早鐘を打つ心臓を押さえながら、陽介はベッドに手を突いて起き上がる。抱き寄せたのが日向だと思っていただけに、衝撃が強い。
「橿宮?」
 首の後ろに手をやりながら陽介は部屋を見回した。ラブホテルの名残が残る内装に朝からげんなりする。昨日も思ったが何と言うところを宿泊先に選んだのか、と柏木を怨みたくなった。
 見渡す限り日向の姿は見えない。一度寝たらなかなか起きない性質だから部屋から出た可能性も低いだろう。
 もしかしてベッドから器用に落ちたのかな。真ん中で寝てたのだろうからそれはない、と思いつつ陽介はひょいとベッドから床を見下ろし――愕然とした。
 並んで寝るのは嫌だと一人床で寝ていた完二と背中合わせで、日向が気持ちよさそうに眠っていた。二人で一枚の毛布を使って包まり、寝息を立てている。
「……何で?」
 ベッドで寝てたのに、いつの間にか床で寝てるんだろう。それにどうして毛布一枚で分け合っちゃってんの。
 様々な疑問が頭を駆け抜けていったが、心地よい眠りを貪る日向を無下に起こせず、陽介は悶々とした。

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親子の繋がり 主人公+花村+完二



 頭の痛みで目が覚めた。まず見えたのが紫色の派手な天井。眼鏡越しに眩しい光が目を刺し、不愉快に眉間へ深い皺を刻む。
 何がどうなってんだ。完二は床に手を突き、起きかけた。
 しかし「動かないほうがいい」と横から伸びた手がやんわり肩を押さえる。
「意識ははっきりしてる?」
「……橿宮先輩」
 傍らに膝をつき、完二の様子を見る日向に「オレ……どうしたんスか?」と尋ねた。
「シャドウにやられて気絶してたんだよ」
 日向の隣で立っていた陽介が、腕組みをしながら日向の代わりに答えた。
「覚えてないのかよ」
「……いやさっぱり」
 記憶の糸を完二は手繰り寄せる。進む先をシャドウが塞いだのは覚えている。そのシャドウが完二の弱点である疾風を巻き起こしたことも。疾風に巻き込まれ身体が宙に浮かんだと思った瞬間から先から、ぷっつり意識が飛んでしまっていた。
「吹き飛ばされて床に叩きつけられたんだよ。……動かないから冷や冷やしたけど、意識が戻ってよかった」
「ったく心配かけさせやがってよ」
 日向は勿論、軽口を叩く陽介も心配していたようだ。二人の表情に安堵の色が見える。
「心配かけてすいませんした」
 ゆっくり完二は起き上がる。細心の注意を払ったが、ふとした拍子にぶつけたらしい後頭部がずきりと痛んだ。思わず呻きながらそこに手をやると、熱を持った瘤が指先に触れる。
「痛い? ちょっと触るな」
 断りを入れ日向が完二の頭に出来た瘤に触れた。走る痛みに「いって」と肩を竦める。
「たんこぶ?」
 陽介に聞かれ「うん」と日向が頷いた。
「たんこぶって冷やすんだよな」
「冷やすっつったって、どうやって冷やすんだ?」
 陽介は辺りを見回した。
「この世界にまともな水とか期待できねーし」
「うーん……」
 完二の頭から手を離し、日向は顎に手を当て口を尖らせつつ考え込む。
「いや先輩。そこまで考えなくても」
「怪我人は黙ってる」
「……はい」
 ぴしゃりと完二の遠慮を抑え考えていた日向は、妙案を思いついたのか「あ」と顔を上げて立ち上がった。そして二人から距離を取り、掌を上に向ける。
「――ジャックフロスト」
 掌に落ちてくるカードを砕き、日向はペルソナを召喚する。ヒーホー、とかわいらしい声で現れたジャックフロストが、その場でくるりと一回転し日向を見上げた。
 日向はジャックフロストの丸っこい目を見て頷いた。それだけで通じたのか「ヒホ」とジャックフロストも頷き、完二の後ろへ歩いていく。
 ジャックフロストは背伸びをして、完二の瘤を冷やすように頭を撫でた。最初は冷気に身体が強張った完二だが、次第に表情が嬉しそうに緩みだす。
「……アイツ今、頭痛いの吹っ飛んでると思うぜ。見ろあの顔。可愛いものに触られて喜んでるし」
 戻ってきた日向に、陽介は顎をしゃくって完二を指し示す。怪我してよかったと思っていそうな完二のしまらない笑みに、心配も忘れて呆れた。
「癒されてるんだろうな」
 日向が呑気に言う。
「ジャックフロストにしてよかった。一瞬サキミタマと迷っちゃって」
「その二択だったら俺もジャックフロスト選ぶな」
 顔のついた勾玉より、断然いい。
「だろ」と満足そうに言って、日向は完二を見た。
 ジャックフロストに一生懸命頭を撫でられている完二の表情は、ここ最近で一番幸せそうだった。

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怪我の功名 主人公+花村+完二


 頭の痛みで目が覚めた。まず見えたのが紫色の派手な天井。眼鏡越しに眩しい光が目を刺し、不愉快に眉間へ深い皺を刻む。
 何がどうなってんだ。完二は床に手を突き、起きかけた。
 しかし「動かないほうがいい」と横から伸びた手がやんわり肩を押さえる。
「意識ははっきりしてる?」
「……橿宮先輩」
 傍らに膝をつき、完二の様子を見る日向に「オレ……どうしたんスか?」と尋ねた。
「シャドウにやられて気絶してたんだよ」
 日向の隣で立っていた陽介が、腕組みをしながら日向の代わりに答えた。
「覚えてないのかよ」
「……いやさっぱり」
 記憶の糸を完二は手繰り寄せる。進む先をシャドウが塞いだのは覚えている。そのシャドウが完二の弱点である疾風を巻き起こしたことも。疾風に巻き込まれ身体が宙に浮かんだと思った瞬間から先から、ぷっつり意識が飛んでしまっていた。
「吹き飛ばされて床に叩きつけられたんだよ。……動かないから冷や冷やしたけど、意識が戻ってよかった」
「ったく心配かけさせやがってよ」
 日向は勿論、軽口を叩く陽介も心配していたようだ。二人の表情に安堵の色が見える。
「心配かけてすいませんした」
 ゆっくり完二は起き上がる。細心の注意を払ったが、ふとした拍子にぶつけたらしい後頭部がずきりと痛んだ。思わず呻きながらそこに手をやると、熱を持った瘤が指先に触れる。
「痛い? ちょっと触るな」
 断りを入れ日向が完二の頭に出来た瘤に触れた。走る痛みに「いって」と肩を竦める。
「たんこぶ?」
 陽介に聞かれ「うん」と日向が頷いた。
「たんこぶって冷やすんだよな」
「冷やすっつったって、どうやって冷やすんだ?」
 陽介は辺りを見回した。
「この世界にまともな水とか期待できねーし」
「うーん……」
 完二の頭から手を離し、日向は顎に手を当て口を尖らせつつ考え込む。
「いや先輩。そこまで考えなくても」
「怪我人は黙ってる」
「……はい」
 ぴしゃりと完二の遠慮を抑え考えていた日向は、妙案を思いついたのか「あ」と顔を上げて立ち上がった。そして二人から距離を取り、掌を上に向ける。
「――ジャックフロスト」
 掌に落ちてくるカードを砕き、日向はペルソナを召喚する。ヒーホー、とかわいらしい声で現れたジャックフロストが、その場でくるりと一回転し日向を見上げた。
 日向はジャックフロストの丸っこい目を見て頷いた。それだけで通じたのか「ヒホ」とジャックフロストも頷き、完二の後ろへ歩いていく。
 ジャックフロストは背伸びをして、完二の瘤を冷やすように頭を撫でた。最初は冷気に身体が強張った完二だが、次第に表情が嬉しそうに緩みだす。
「……アイツ今、頭痛いの吹っ飛んでると思うぜ。見ろあの顔。可愛いものに触られて喜んでるし」
 戻ってきた日向に、陽介は顎をしゃくって完二を指し示す。怪我してよかったと思っていそうな完二のしまらない笑みに、心配も忘れて呆れた。
「癒されてるんだろうな」
 日向が呑気に言う。
「ジャックフロストにしてよかった。一瞬サキミタマと迷っちゃって」
「その二択だったら俺もジャックフロスト選ぶな」
 顔のついた勾玉より、断然いい。
「だろ」と満足そうに言って、日向は完二を見た。
 ジャックフロストに一生懸命頭を撫でられている完二の表情は、ここ最近で一番幸せそうだった。

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泊まりに行きたい 花村+クマ




 突然、クマが泊まりに行きたいと言い出した。
 ナナチャンと最近遊んでない、だから遊び行きたい。一度こうと決めたら、クマは梃子でも考えを変えないので陽介は困り果ててしまう。
「……じゃあ、電話で聞いてみて駄目だったら諦めろよ」
 陽介は妥協策を提示して日向に電話をかけることにした。だが内心、絶対断られると踏んでいる。こんないきなり泊まってもいいか、なんて聞いてすぐに了承する奴なんてそうそういない。
 だがどんなことにも予想外はつきものだ。
「いいよ」
 電話の向こうで、日向はさらりと泊まりを承諾した。
 あっさりした日向に慌てたのが陽介だ。すぐ後ろで爛々に目を輝かせるクマを一瞬だけ振り向き、会話が聞こえないように背を丸めて声を潜める。
「……いいのかよ突然来ちゃっても。しかも泊まりだぞ?」
「だからいいって言ってる」
 最近また堂島の帰りが遅くなってるらしい。今日に至っては泊まりになってしまい、菜々子は落ち込んでしまっていると日向が教えてくれた。
「だからクマが来てくれると菜々子が喜ぶし、正直ありがたいんだよ」
「あー……」
 菜々子のことを持ち出されてしまうと、反対気味だった陽介も気持ちがぐらついてしまう。超、がつくほどのシスコンである日向には負けるが、陽介も菜々子には弱い。
 でもなぁ、とぼやく陽介の受け答えを聞いていたクマが焦れて、丸まった背中を叩き出す。
「ねーヨースケー! 良いの悪いのどっちクマァー?」
 泊まりたくて仕方ないらしい。叩く力がどんどん強くなっていく。
 うるさい、と追い払うように軽く手を振り、念を押すように尋ねる。
「うるさくていいのか……?」
「陽介も来るんだろ?」
 当たり前のように言って日向の笑い声が聞こえた。近くにいるのか、今日陽介とクマが泊まりに来るぞ、と電話の向こうで菜々子に話しかけている。そして聞こえるはしゃぎ声。
 もう降伏するしかない。
「じゃあお世話になるな。お礼に何かおやつでも買ってくっから」
「うん待ってる」
 通話を切り背を伸ばす。そして、そわそわしながら答えを待つクマに向き直った。
「迷惑かけないこと!」
「クマ!」
「じゃあ準備してこい。終ったらジュネス寄って橿宮んとこ行くぞ」
「クマー!」
 嬉しそうにクマが頷き、寝床がわりの押し入れへ準備をしに走っていく。さっきまでのごねっぷりが嘘のような素直さだ。
 現金な奴だな。
 陽介は呆れたが、その口元には笑みが零れていた。

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頼りにしてます 二年生組




 陽介と千枝、そして雪子は揃ってあいた席を見つめた。今日テレビで素材集めをしたいから、とフードコートに集合をかけた日向がまだ来ない。今まで早く来て仲間を待つことはあっても、仲間が彼を待つことはなかったのに。
 三人の間で、日向を案じる雰囲気が漂う。
「……橿宮くんどうかしたのかな?」
 飲み干したジュースをテーブルに置き、千枝が遠くのエレベータを曇った表情で振り返った。
「何かあったのかな……?」
 雪子もまた心配そうに目を伏せる。
 陽介は無言で日向に電話をかけていたが、諦めたように携帯を耳から下ろした。同時に視線を向ける二人に、ゆっくり首を振る。
「駄目だ。繋がんねー」
 携帯を制服のポケットにしまいつつ「ったく」と陽介が舌打ちした。どうしたんだろう、と不安になる。陽介から見れば、日向は何があっても大丈夫そうな感じだが、やはり姿が見えなくなると心配だ。
 どうする、と互いに見合わせながら黙っていると、エレベータが開く音がした。反射的に見た千枝が「あっ」と嬉しそうな声を上げ、席を立つ。
「――橿宮くん!」
「……ごめん。遅れた」
 謝りながら日向がやってきた。少し足元がふらつき、肩で息をしている。後ろを気にする様子に、陽介は腕を組んで隣に座る日向をじっと見つめた。ただ遅れたにしては変だ。
「橿宮。何かあっただろ」
 直球の質問に、千枝が「えっ?」と驚いて陽介のほうを向く。そして日向は丸くした眼を瞬いた。きまり悪く首の後ろを掻きながら「やっぱり分かるか」と顔を顰める。
「そうだね。橿宮くんが理由もなしに遅刻なんてありえないよ」
 雪子が言った。
「もし遅くなったりしても、連絡入れてくれるだろうし。……そうだよね?」
 にっこり笑って雪子が言葉を続ければ日向が苦笑し、両手を軽く上げて降参する。下ろした手で胸を撫で、息を整えながら日向は千枝を見た。
「里中覚えてる? あのカツアゲグループ」
「……あ、ああアレ!?」
 覚えてる、と千枝が頷き、はっとあることに気づく。
「もしかしてアイツらに追い掛けられたの!?」
「運悪く眼があって……」
 ジュネスに向かう途中で鉢合わせした不良たちに因縁をつけられ、今まで追い掛けられていたと日向は説明する。そのせいで待ち合わせに遅れたようだった。
「別にのしても良かったんだけど」
 さらりと物騒なことを言い、日向は鬱蒼とした気持ちを出すように、長い息を吐いた。
「下手に警察に言われて叔父さんに迷惑かけたくなかったから逃げてきた」
「そりゃあ……大変だったな」
 日向を労る陽介を余所に、怒りを燃やすのは千枝だ。空になった紙コップを握り潰し「アイツら懲りもせず……許さん!」と勢いよく立ち上がった。そして日向を正義感溢れる目できっと見据える。
「今度会ったらすぐ連絡して。橿宮くんの代わりにあたしがのしてあげる!」
「……無茶はするなよ」
 握りこぶしを作る千枝に、日向は身を引きつつ苦笑した。
「……にしても良かったよ。お前が無事で」
 陽介が笑って日向の肩を叩いた。もし怪我をしていたら、追い掛けた不良たちを許せなかっただろう。千枝と同じだ。
 うん、と呼吸が落ち着いてきた日向が、息を吸ってから言った。
「テレビの中で走り回ったのが良かったかも。お陰で体力がついて来てるし」
「でもまたそんな目にあったら、すぐ助け呼べよ。里中もだろうけど、俺もすぐ行くから」
「私もね」
 意気込む雪子と陽介を見て「……ありがとう」と日向が頬を緩めた。
「頼りにしてるよ」
 その言葉に陽介たち三人は、とても嬉しそうな顔をして頷いた。

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