頼りにしてます 二年生組 ペルソナ34Q小話 2013年05月03日 陽介と千枝、そして雪子は揃ってあいた席を見つめた。今日テレビで素材集めをしたいから、とフードコートに集合をかけた日向がまだ来ない。今まで早く来て仲間を待つことはあっても、仲間が彼を待つことはなかったのに。 三人の間で、日向を案じる雰囲気が漂う。「……橿宮くんどうかしたのかな?」 飲み干したジュースをテーブルに置き、千枝が遠くのエレベータを曇った表情で振り返った。「何かあったのかな……?」 雪子もまた心配そうに目を伏せる。 陽介は無言で日向に電話をかけていたが、諦めたように携帯を耳から下ろした。同時に視線を向ける二人に、ゆっくり首を振る。「駄目だ。繋がんねー」 携帯を制服のポケットにしまいつつ「ったく」と陽介が舌打ちした。どうしたんだろう、と不安になる。陽介から見れば、日向は何があっても大丈夫そうな感じだが、やはり姿が見えなくなると心配だ。 どうする、と互いに見合わせながら黙っていると、エレベータが開く音がした。反射的に見た千枝が「あっ」と嬉しそうな声を上げ、席を立つ。「――橿宮くん!」「……ごめん。遅れた」 謝りながら日向がやってきた。少し足元がふらつき、肩で息をしている。後ろを気にする様子に、陽介は腕を組んで隣に座る日向をじっと見つめた。ただ遅れたにしては変だ。「橿宮。何かあっただろ」 直球の質問に、千枝が「えっ?」と驚いて陽介のほうを向く。そして日向は丸くした眼を瞬いた。きまり悪く首の後ろを掻きながら「やっぱり分かるか」と顔を顰める。「そうだね。橿宮くんが理由もなしに遅刻なんてありえないよ」 雪子が言った。「もし遅くなったりしても、連絡入れてくれるだろうし。……そうだよね?」 にっこり笑って雪子が言葉を続ければ日向が苦笑し、両手を軽く上げて降参する。下ろした手で胸を撫で、息を整えながら日向は千枝を見た。「里中覚えてる? あのカツアゲグループ」「……あ、ああアレ!?」 覚えてる、と千枝が頷き、はっとあることに気づく。「もしかしてアイツらに追い掛けられたの!?」「運悪く眼があって……」 ジュネスに向かう途中で鉢合わせした不良たちに因縁をつけられ、今まで追い掛けられていたと日向は説明する。そのせいで待ち合わせに遅れたようだった。「別にのしても良かったんだけど」 さらりと物騒なことを言い、日向は鬱蒼とした気持ちを出すように、長い息を吐いた。「下手に警察に言われて叔父さんに迷惑かけたくなかったから逃げてきた」「そりゃあ……大変だったな」 日向を労る陽介を余所に、怒りを燃やすのは千枝だ。空になった紙コップを握り潰し「アイツら懲りもせず……許さん!」と勢いよく立ち上がった。そして日向を正義感溢れる目できっと見据える。「今度会ったらすぐ連絡して。橿宮くんの代わりにあたしがのしてあげる!」「……無茶はするなよ」 握りこぶしを作る千枝に、日向は身を引きつつ苦笑した。「……にしても良かったよ。お前が無事で」 陽介が笑って日向の肩を叩いた。もし怪我をしていたら、追い掛けた不良たちを許せなかっただろう。千枝と同じだ。 うん、と呼吸が落ち着いてきた日向が、息を吸ってから言った。「テレビの中で走り回ったのが良かったかも。お陰で体力がついて来てるし」「でもまたそんな目にあったら、すぐ助け呼べよ。里中もだろうけど、俺もすぐ行くから」「私もね」 意気込む雪子と陽介を見て「……ありがとう」と日向が頬を緩めた。「頼りにしてるよ」 その言葉に陽介たち三人は、とても嬉しそうな顔をして頷いた。 [0回]PR