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二次創作(小説のみ)やオフラインの情報を置いてます。

泊まりに行きたい 花村+クマ




 突然、クマが泊まりに行きたいと言い出した。
 ナナチャンと最近遊んでない、だから遊び行きたい。一度こうと決めたら、クマは梃子でも考えを変えないので陽介は困り果ててしまう。
「……じゃあ、電話で聞いてみて駄目だったら諦めろよ」
 陽介は妥協策を提示して日向に電話をかけることにした。だが内心、絶対断られると踏んでいる。こんないきなり泊まってもいいか、なんて聞いてすぐに了承する奴なんてそうそういない。
 だがどんなことにも予想外はつきものだ。
「いいよ」
 電話の向こうで、日向はさらりと泊まりを承諾した。
 あっさりした日向に慌てたのが陽介だ。すぐ後ろで爛々に目を輝かせるクマを一瞬だけ振り向き、会話が聞こえないように背を丸めて声を潜める。
「……いいのかよ突然来ちゃっても。しかも泊まりだぞ?」
「だからいいって言ってる」
 最近また堂島の帰りが遅くなってるらしい。今日に至っては泊まりになってしまい、菜々子は落ち込んでしまっていると日向が教えてくれた。
「だからクマが来てくれると菜々子が喜ぶし、正直ありがたいんだよ」
「あー……」
 菜々子のことを持ち出されてしまうと、反対気味だった陽介も気持ちがぐらついてしまう。超、がつくほどのシスコンである日向には負けるが、陽介も菜々子には弱い。
 でもなぁ、とぼやく陽介の受け答えを聞いていたクマが焦れて、丸まった背中を叩き出す。
「ねーヨースケー! 良いの悪いのどっちクマァー?」
 泊まりたくて仕方ないらしい。叩く力がどんどん強くなっていく。
 うるさい、と追い払うように軽く手を振り、念を押すように尋ねる。
「うるさくていいのか……?」
「陽介も来るんだろ?」
 当たり前のように言って日向の笑い声が聞こえた。近くにいるのか、今日陽介とクマが泊まりに来るぞ、と電話の向こうで菜々子に話しかけている。そして聞こえるはしゃぎ声。
 もう降伏するしかない。
「じゃあお世話になるな。お礼に何かおやつでも買ってくっから」
「うん待ってる」
 通話を切り背を伸ばす。そして、そわそわしながら答えを待つクマに向き直った。
「迷惑かけないこと!」
「クマ!」
「じゃあ準備してこい。終ったらジュネス寄って橿宮んとこ行くぞ」
「クマー!」
 嬉しそうにクマが頷き、寝床がわりの押し入れへ準備をしに走っていく。さっきまでのごねっぷりが嘘のような素直さだ。
 現金な奴だな。
 陽介は呆れたが、その口元には笑みが零れていた。

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