怪我の功名 主人公+花村+完二 ペルソナ34Q小話 2013年05月03日 頭の痛みで目が覚めた。まず見えたのが紫色の派手な天井。眼鏡越しに眩しい光が目を刺し、不愉快に眉間へ深い皺を刻む。 何がどうなってんだ。完二は床に手を突き、起きかけた。 しかし「動かないほうがいい」と横から伸びた手がやんわり肩を押さえる。「意識ははっきりしてる?」「……橿宮先輩」 傍らに膝をつき、完二の様子を見る日向に「オレ……どうしたんスか?」と尋ねた。「シャドウにやられて気絶してたんだよ」 日向の隣で立っていた陽介が、腕組みをしながら日向の代わりに答えた。「覚えてないのかよ」「……いやさっぱり」 記憶の糸を完二は手繰り寄せる。進む先をシャドウが塞いだのは覚えている。そのシャドウが完二の弱点である疾風を巻き起こしたことも。疾風に巻き込まれ身体が宙に浮かんだと思った瞬間から先から、ぷっつり意識が飛んでしまっていた。「吹き飛ばされて床に叩きつけられたんだよ。……動かないから冷や冷やしたけど、意識が戻ってよかった」「ったく心配かけさせやがってよ」 日向は勿論、軽口を叩く陽介も心配していたようだ。二人の表情に安堵の色が見える。「心配かけてすいませんした」 ゆっくり完二は起き上がる。細心の注意を払ったが、ふとした拍子にぶつけたらしい後頭部がずきりと痛んだ。思わず呻きながらそこに手をやると、熱を持った瘤が指先に触れる。「痛い? ちょっと触るな」 断りを入れ日向が完二の頭に出来た瘤に触れた。走る痛みに「いって」と肩を竦める。「たんこぶ?」 陽介に聞かれ「うん」と日向が頷いた。「たんこぶって冷やすんだよな」「冷やすっつったって、どうやって冷やすんだ?」 陽介は辺りを見回した。「この世界にまともな水とか期待できねーし」「うーん……」 完二の頭から手を離し、日向は顎に手を当て口を尖らせつつ考え込む。「いや先輩。そこまで考えなくても」「怪我人は黙ってる」「……はい」 ぴしゃりと完二の遠慮を抑え考えていた日向は、妙案を思いついたのか「あ」と顔を上げて立ち上がった。そして二人から距離を取り、掌を上に向ける。「――ジャックフロスト」 掌に落ちてくるカードを砕き、日向はペルソナを召喚する。ヒーホー、とかわいらしい声で現れたジャックフロストが、その場でくるりと一回転し日向を見上げた。 日向はジャックフロストの丸っこい目を見て頷いた。それだけで通じたのか「ヒホ」とジャックフロストも頷き、完二の後ろへ歩いていく。 ジャックフロストは背伸びをして、完二の瘤を冷やすように頭を撫でた。最初は冷気に身体が強張った完二だが、次第に表情が嬉しそうに緩みだす。「……アイツ今、頭痛いの吹っ飛んでると思うぜ。見ろあの顔。可愛いものに触られて喜んでるし」 戻ってきた日向に、陽介は顎をしゃくって完二を指し示す。怪我してよかったと思っていそうな完二のしまらない笑みに、心配も忘れて呆れた。「癒されてるんだろうな」 日向が呑気に言う。「ジャックフロストにしてよかった。一瞬サキミタマと迷っちゃって」「その二択だったら俺もジャックフロスト選ぶな」 顔のついた勾玉より、断然いい。「だろ」と満足そうに言って、日向は完二を見た。 ジャックフロストに一生懸命頭を撫でられている完二の表情は、ここ最近で一番幸せそうだった。 [0回]PR