着信 陽介+クマ ペルソナ34Q小話 2013年05月03日 みかんを食べ終えたクマは、満足しきったように頬を緩め横になると、こたつに潜り込んだ。足元から伝わる暖かさに、一層の幸せを感じる。「ヨースケー、みかんもいっこ」 身じろぎしながら落ち着く場所を探し、クマは当然のように言った。「お前な……」 向かいでぼんやりテレビを見ていた陽介は、厚かましいクマに呆れる。「みかんぐらい自分で取りいけよ。お前が食べんだし」 花村家では、みかんを一箱分買っているが、その殆どをクマが消費している。いざ食べようと陽介が箱の中を覗き、中身の少なさに愕然としたほどだった。元旦早々、出された料理を勢いよく食べていたせいもあり、クマに向けられる陽介の視線は冷えている。 クマは上体を起こし「ちゅめたいなー、ヨースケは」と口を尖らせて抗議した。「クマはジュネスのためにガンバって働いてるのになー」「それと同じぐらい色々やらかしてんのも忘れんなよ……」 去年とまったく成長が見られない口論に、陽介は閉口する。そして今年もこのノリについていかなければならないのか、と軽く目眩がした。 溜め息を吐きつつこめかみを叩いていると、こたつの上に置いているクマの携帯電話が鳴った。クマがフリップを開いて、あっ、と眼を見開く。「ナナチャンから電話クマ!」 嬉しそうに笑って、何故かこたつから出たクマは興奮して立ち上がり、早速通話に出る。「ナナチャン、あけましておめでとうクマー!」 電話に出るなりクマは声を弾ませた。笑いながら、嬉しそうに正月の楽しさを語り出す。菜々子には見えないのに、大きい手ぶり身振りつきで。「うん。初めてのショーガツ、満喫してるクマ。お節とかー、お雑煮とかー。ナナチャンはどう?」 尋ねたクマは、ふんふんと携帯電話から聞こえる菜々子の声に、相槌をうつ。陽介に見せていた不遜さは、菜々子と話し出した途端失せている。 その素直さをこっちに見せてくれれば可愛いげもあるのに。態度の違いに紛然とした思いを抱えていると、今度は陽介の携帯が鳴る。「――橿宮?」『クマどう?』 携帯電話の向こうから、くすくすと笑う声がした。 陽介は苦笑して、クマを見る。「あー、喜んでんよ。さっきまで寒い寒いってこたつに潜り込んでたのに、菜々子ちゃんから電話が来るなり、立ち上がってる」 見せてやりたい、と言うと、さらに日向が笑った。『じゃあ、写メ撮って送って。菜々子にも見せるから』「わかった。これ切ったら送るわ」『菜々子も嬉しそうだよ』「うん」『もうちょっとしたら、二人で陽介ん家に行くから』「分かった。……待ってっから」 それじゃ、と簡単に挨拶を交わし、短い通話を切る。菜々子と二人日向が来てくれることに期待を膨らませながら、携帯電話のカメラを起動させ、立ったままはしゃいで話すクマにレンズを向けた。 [0回]PR