厚意 主人公+花村+直斗 ペルソナ34Q小話 2013年05月03日 枝を掴み、強度や太さを確かめる。乗っても充分そうだ、と直斗は木の幹にかけていた足を枝に移動させた。 木の葉が擦れる音が耳元でする。視界を遮る枝を折らないように払いつつ、更に上を目指した。「直斗ー、行けそうかー?」 下の方から心配そうな声が聞こえる。枝と枝の隙間から、こちらを見上げる日向の姿。そしてその横には陽介と――目を真っ赤にした女の子もいた。「大丈夫です! この木けっこうしっかりしてますから!」 直斗は主に泣いている女の子に対し、大きな声ではっきり返した。そしてまた手頃な枝を見つけどんどん上を目指していく。 その先には、赤いリボンがついた帽子があった。風で飛ばされ木に引っ掛かったそれを、直斗は無事に救出する。幸い葉っぱが着いていただけで、大した被害もない。 直斗はほっとして帽子の汚れを払い、「取れました!」とまた大声で告げる。すると下から歓声が沸き上がり、その中に女の子の嬉しそうな声が混じっていた。「助かったよ。俺達じゃどうにもならなかったから」 ありがとう、と戻ってきた帽子を被り何度もお礼を言う女の子を見送りながら、日向も直斗に礼を返した。「そんな、大したことはしてませんから……」 直斗は頬を赤くしながら恐縮する。自分がしたのは、木に登って、風に飛ばされた帽子を取っただけだから。「いやいや、十分すげーよ。事情聞くなり直ぐさま木に登って、そうそう出来ないしな」 感心しながら言う陽介は「こっちは二人掛かりで取ろうとしてこの様だしな……」と腰を摩る。肩車の上になった陽介が、バランスを崩して地面に落下した結果だった。「大体肩車であの高さまで届く訳ねえし」「陽介ならやってくれると思ったのに」 そっぽを向いた日向の呟きを耳聡く聞き付け、陽介がきつく睨む。「その言葉、俺の目を見て言えよ。その場しのぎだろ絶対!」 怒る陽介を「お、落ち着いてください」と直斗は宥めた。「あの女の子は橿宮先輩にも花村先輩にも感謝していました。何とかしてあげたい二人の気持ちは伝わってるでしょう。無駄じゃありませんよ」「うん。直斗いいこと言った。だから陽介も落ち着け」「何かさ、すっげ、すっげえ釈然としないのは気のせいか……?」 憮然としながら、陽介は腰を労るかのような手つきで摩る。それを聞いて日向も「俺だって痛いの我慢してるんだ」と強かに打ち付けたらしい背に回した手を当てた。「まぁ俺らはともかく、直斗が一番かっこいいのは目に見えてる。ので、フードコート行こうか」「えっ?」 脈絡もなく出てきたフードコートの言葉に、直斗はつい困惑する。日向の中でどう話題が変わるのか、たまに直斗は不思議になった。「いいことをしたんだから、直斗にもいいことがないと。――奢るよ」「そ、そんな。いりません」 直斗は勢いよく首を振る。あれは、帽子が飛ばされた女の子の涙を止めてやりたかったから取った行動だ。直斗の中では当たり前で、そこまでしてもらう必要なんてない。礼なら帽子が戻ってきた女の子の笑顔で十分すぎる。「そう言うな」 日向が笑った。「せっかくの厚意を受け取るのも、たまには必要なことだぞ」「じゃあ俺にも何か奢ってくれるよなー相棒」 陽介が二人の間に身を乗り出して、話に割り込んだ。にっこり笑う陽介に、日向が真顔で答える。「いいよ。陽介が俺に何か奢ってくれるならね」「それ何か奢りとは違くない!?」 じゃれながら軽口を打ち合う二人に、顔を上げた直斗は思わず笑みを零してしまった。こんな時、日向を始め特捜本部の仲間と知り合えてよかったと思う。こうして笑える自分を発見出来た。「じゃあお言葉に甘えてもいいですか? 先輩方に事件のこととか色々聞きたいですし」 そう前言を翻すと日向は笑い、ああ誘いを受けてよかった、と直斗は思った。 [0回]PR