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二次創作(小説のみ)やオフラインの情報を置いてます。

衣替え 主人公+千枝



 いつも上はジャージなあたしだけど、夏服の間だけは別だ。冬服と違って動きやすいし、デザインも可愛い。お母さんは、クリーニングとかで準備が面倒だっていっつも文句を零すけど、あたしは毎年この時期が来るとわくわくしちゃう。
 今年も梅雨が近づいて、衣更えの季節がやって来た。
 あたしは、前日の夜にクリーニングの袋から出しておいた夏服に袖を通してさっそく登校する。通学路には同じように夏服の子の姿。だけど冬服のまんまって子も中には混じっている。まだ移行期間だから校則違反じゃないけど、ちょっと変な感じ。暑くないのかなって思う。最近は夏の近づくのも早い気がするし。
「……おっ」
 あたしは目前を歩く橿宮くんの姿を見つけた。鞄を脇に挟んで、のんびりとした歩調。学ランや私服の黒い色が印象に残ってるせいか、白のシャツを着ている橿宮くんはこれまた不思議な感じがした。何て言うのかな。珍しくて、新鮮、って言うのかな。
 あたしは、おーいって大声で呼び止めて橿宮くんのところまで走った。おはよう、って挨拶をすると橿宮くんも、おはよう、って返してくれる。そして彼はあたしの方をじっと見た。
「ちゃんと夏服来てるんだ」
「さすがに暑い時に長袖ジャージは着れねーっすよ」
 すっかりあたしのイメージがジャージで定着しちゃってることに肩を竦めながら「夏の間は腰に巻いてるの」と前で結んだジャージの袖の端を掴んで見せる。
「あたし夏服のが好きなんだ。だから衣更えの時期はいっつもうきうきしちゃってねー」
「里中らしいな」
 橿宮くんが愉快そうに口元を上げる。
「うん。似合ってるよ」
 続けて言われた言葉に「もうっ、橿宮くんったら褒めすぎ!」とあたしは照れて彼の背中を強く叩く。ばしん、と音がして顔をしかめた橿宮くんはよろけてしまう。
「里中、元気が良すぎ」
「あはは……」
 あたしは不可抗力だと叩いた手をひらひらさせたが、無言の圧力にあっさり折れた。
「ごめんなさい」
「よし」
 もともと怒ってなかったのか、あっさり橿宮くんは許してくれた。とても懐が広い彼の寛容さは、見習うべき所だと思う。
 あたしは小さく笑って隣を歩く橿宮くんを見た。うん、やっぱり橿宮くんの白ってすごく新鮮だ。
「……じっと見られると照れるんだけど」
 前を向いたまま橿宮くんがぼそりと呟いた。恥ずかしがっている様子がかわいい。
「ね、朝初めて会ったのってあたし?」
 急に尋ねられ、橿宮くんは疑問詞を浮かべたような表情で「うん」と頷いた。
 あたしはあることを思い付いて、携帯を取り出す。
「じゃあさ、写メ撮っていいかな? 花村に自慢してやろーっと」
「自慢って……」
「だって橿宮くんの白って新鮮で貴重っぽい感じがするし! はーいいくよー」
 カメラを起動させた携帯を構え、チーズ、と合図を送ると、彼もノリよくピースをしてくれた。割と橿宮くんはこういうことに乗ってくれる。そのノリの良さは、どことなく雪子に似ていると思う。
「ご協力感謝!」
「うまく撮れた?」
「もち!」
 ぐっと親指を立ててから、あたしは早速花村にメールを送る。いつも橿宮くんと一緒にいるんだから、少しぐらいは優越感を覚えたい。これ見た時の花村がどんな顔をするか見れないのが残念だけど。
 メール送信の画面を見届けて、携帯を閉じた。爽やかな朝にあたしは大きく背伸びをして、隣の橿宮くんを見る。
「今日も一日、頑張ろー!」
 ガッツポーズを決めるあたしに、「うん」と笑って橿宮くんは頷いた。

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