思い出作り 堂島家 ペルソナ34Q小話 2013年05月03日 こたつを囲み夕食を済ませた後、日向が堂島と菜々子を見て「ちょっと聞いてほしいことがあるけど」と話を切り出した。心なしか緊張しているようで、湯呑みを傾けていた堂島は菜々子と顔を見合わせる。「話?」と堂島は湯呑みをこたつに置き、日向へ視線を移動させた。仕事柄、つい目つきが鋭いものになり日向が眉を寄せた。考えていることを見通され「何かやらかした訳じゃない」と釘をさされてしまう。「……お父さん」 菜々子からも非難めいた声を上げられ堂島は慌てた。「いや、そういうつもりじゃないんだ。……すまん」 頭を掻きながら堂島は謝った。きっといくつになっても、娘のあの目には敵わないと思う。「菜々子。そんな顔してたら可愛いのが台なしだよ」 さりげなく堂島のフォローをした日向が、菜々子に笑いかけながら席を立った。台所にある電話の下から、隠していたらしい折り畳んだ紙を持って戻る。「これ」 紙が堂島と菜々子から読める向きにして差し出された。それは天城屋旅館のパンフレットで、宿泊プランの所に丸がしてある。「叔父さんも現場復帰はまだだし、菜々子も俺も冬休みだから」「お前まさかもう予約したとか言うんじゃないだろうな」「天城が少し負けてくれたからそこに書いてある料金より安いよ」 料金も俺持ちだし。あっさり日向は言い、堂島は呆然とする。思わずパンフレットを見返すと、高校生がおいそれと出せる金額が示されている。「菜々子、もう一回広いお風呂入ってみたいだろ?」 薄々情況を察し、そわそわしていた菜々子は日向の言葉に、「え、もういっかい入れるの?」と途端に目を輝かせた。うん、と日向が頷けば、可愛らしい笑顔が広がる。「やったぁ! かぞくみんなでおふろだね!」「ちょ、ちょっと待て」 置いていかれたまま話がどんどん進んでいく。堂島は焦って話を遮った。「気持ちはありがたいがそこまでしなくても」「叔父さん」 日向が静かに笑った。「友達との思い出もたくさん欲しいけど、家族の思い出だって俺はたくさん欲しい。それに帰るまでに少しぐらいは孝行させてくれたっていいと思うけど。迷惑もかけたし」「……日向」 迷惑、とは菜々子が失踪する前の辺りからのことを言っているんだろう。堂島はいいや、と首を振った。「子供がそんなことを気にするな。元はと言えばお前を信じなかった俺が悪い」「でもそれは」「それ以上は言うなよ」 堂島は日向の言葉を止めた。あの時甥の口から語られたことを、堂島は今も全て信じられずにいる。テレビの中の世界やペルソナなんて非常識過ぎる。でももう少し信じられたら、何かが変えられるんじゃないかと思うときだってあった。日向一人の責任じゃない。 仕方ないな。堂島はため息をつく。娘に弱いのは自覚してたが、甥にまでそうなった気がしてきた。「予約はいつ入れたんだ?」「え?」「お父さん?」 日向と菜々子が同時に驚いて堂島を見た。 堂島は苦笑を浮かべ「準備しなきゃ行けないだろ」とパンフレットを手元に寄せる。皆で行けると菜々子が「みんなでおんせんだ!」と両手を大きく上げて喜んだ。「金も俺が払う」「……叔父さん」「お前の言うとおりだ。もっと家族でも思い出を作らないとな」 何を準備しようか考えはじめる堂島に「ありがとう」と日向は目元を緩ませる。「でも料金は俺が言い出したことだし、折半にするから」 そして意見を譲らない断定とした口調で言われ、「わかったわかった」と堂島は苦笑いをした。 [0回]PR