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二次創作(小説のみ)やオフラインの情報を置いてます。

釣り曜日 二年生組

 雨の日だから、予感はしていた。
 アイツのことだから、きっと無茶をするんじゃないかって。
「は!? 橿宮の奴帰ったのか?」
 放課後、トイレから教室に戻ってきた陽介は、素っ頓狂な声をあげた。陽介の前である日向の席は、既にもぬけの殻となっている。
「うん。そうみたい」
 空になった隣の席を見て、千枝が陽介を見上げる。
「あたしは雪子と話してて気づかなかったけど……。雪子は?」
「私はちらっと見えた」
 座っている椅子ごと千枝の方を向いていた雪子もまた、陽介を見上げる。
「こそこそ隠れるように教室出て行ったけど……」
 声を潜め「……もしかして、喧嘩?」と不安そうに雪子が聞いた。
「ああ、いや、違う。喧嘩とかじゃねえから」
 陽介がすぐ首を振って、雪子の懸念を否定した。しかしその表情はありありと日向に対しての不満を表している。
「じゃあ、何でそんなに怒ってんの?」
 首を傾げ、千枝も疑問を口にする。陽介の表情と、先程雪子が言っていた、逃げるように教室を出ていった日向。二つを合わせて考えると、日向が陽介に隠し事をしているんじゃないかと思ってしまう。
 陽介は腰に手を当て、雨が降る外を見る。
「お前らも来てみれば、きっと俺の気持ちもわかると思うぜ」
「……?」
 訳もわからず、千枝と雪子は顔を見合わせる。


「あー……、なるほどね」
 陽介に連れられるまま、河川敷にやってきた千枝は、苦い顔をしている陽介の視線の先にあるものを見て、納得した。横では雪子が「すごいね」とさしている赤い傘の柄を持ち直しながら、感心している。
「雪子、そこは褒めるところじゃないと思う」
 千枝は降りしきる雨の中、川辺に立っている日向を見下ろす。傘もささず、彼は制服のまま、釣竿を垂れていた。長時間粘るつもりなんだろう。すぐ横にはバケツや釣り道具が置かれていた。
「こうなるだろうから、雨の日は橿宮のことも気をつけてんだ」
 釣りに勤しむ日向を睨み、陽介は言った。
「夏だからってずっと雨にうたれたら風邪引くし、せめて合羽着ろって言ってんのに、雨の日は釣り曜日なんだって聞かねーし」
 こめかみを押さえ、陽介が深く息を吐いた。呆れと怒りが篭るそれに、千枝は「そうだね……」と同意する。これは全面的に陽介が正しい。
「そんなに夢中になれるものがあるってすごいね」
「凄かろうが、それで風邪引いたらしょうもないだろ」
 状況とは的外れなことを言う雪子に言い捨て、陽介は「ちょっと行ってくる」と走り出す。雨で滑りやすい階段を、駆け足で降りても転ばない辺り、止めるのは初めてじゃないんだろう。
「花村君、橿宮君のことが本当に心配なんだね」
 仲良いね、と微笑む雪子に頷き、千枝は思う。今日はあたしも説教に入らせてもらおう、と。雨の日だから釣れる魚もあるだろうが、それでも心配なものは心配だ。
 陽介が日向の元にたどり着き、何やら大声で言っているのが聞こえる。千枝もさっきの陽介と同じような気持ちを込め、ため息を吐くと「あたし達も行こっか」と雪子を促し、川辺の方へ向かった。

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