毛繕い 主人公+クマ+陽介 ペルソナ34Q小話 2013年05月03日 陽介はジュネスのフードコートで、日向とクマの姿を見つけた。クマは長椅子に着ぐるみの格好で座り、その後ろに日向が場所を取っている。 興味を惹かれた陽介は、何やってんだろう、と二人に近づく。「よぉ、クマと二人で何やってんの?」「陽介」 やって来た陽介に、日向は軽く手を上げて挨拶を返す。その手にはブラシが握られていた。すぐ側のテーブルに見慣れたロゴのビニル袋があるから、さっき買った物だろう。「ちょっとクマの毛繕いしようかと」「そうクマ!」 クマがはしゃいで両手を上げた。椅子がぐらつき、咄嗟に日向がクマの頭を、陽介が椅子のひじ掛けを押さえる。もし転んだら、後ろの日向も巻き込み、ちょっとした惨事だ。「馬鹿、椅子の上で暴れんな! こけたらどーすんだよ!」 クマが危ないことをしたら叱るのは、もう陽介の中では当たり前のことになっている。した時にちゃんと言い聞かせておかないと、クマはまた同じことを仕出かしてしまう。「そうだな。もう少し落ち着こう」 日向にも窘められクマは「……ゴメンクマ」とない肩を落とした。それを許容するようにクマの頭を撫で「じゃあやろうか」ともう片手に持っていたブラシを握り直す。 するとすぐにクマが喜色の滲んだ笑みを浮かべた。「で、何するつもり?」 倒れないよう押さえていた椅子から手を離し、陽介は尋ねる。「だからクマの毛繕い」 そう言って、日向はクマの毛に、ブラシを通した。毛の流れに逆らわず、流れるように丁寧な動き。「たまに近寄る猫にするんだ、って言ったらクマもされたいって言い出して」「それでわざわざクシ買ってまでブラッシングってか? お前もクマに甘いよな」「でもこう言うの好きだから」 そう言った日向の頬は緩んでいる。堂島家の近くをすみかとする猫を、何時間構っている彼にとっては何時までも飽きのこない楽しみなんだろう。丁寧なブラッシングに、クマも気持ち良さそうだ。 近くを通りすがった子供が「ぼくもクマさん撫でたい!」と母親に手を引かれながら言っているのが聞こえる。クマを撫でれる催し事したら、人が集まるかな、と思いながら陽介は近くから椅子を引き寄せ二人の側に座った。「そこそこ。もうちょっと右っクマ」「ここ?」「そこクマ。……っあー、気持ちよかとばいねー」 手の行き届かない場所をブラッシングされ、クマの身体が気持ちよさそうに震えた。うっとりしている目に「お前はおっさんか」と陽介は突っ込む。これで中身は金髪美少年だから、ある種の詐欺だ。「気持ちいいものは気持ちいいクマ」 横から茶々を入れられ、不機嫌にクマは陽介を睨むが、また日向がいいところをブラッシングしたのか「うおぅ」と気持ちよさそうな声を上げた。 無心でブラシを動かす日向に陽介は尋ねる。「橿宮楽しい?」「うん」 即答で答えた辺り、どうやら相当のようだ。陽介は小さく吹き出し「そっか」と言った。「でも程ほどにしといてくれよ。あんまり甘やかすとクマが付け上がるから」「大丈夫。ちゃんと代金貰うから」「えっ、お金取るクマか!? 聞いてないクマ!!」 代金と聞き、ぎょっと目を剥くクマに日向は「冗談だ」と笑う。「お前の冗談、分かりづらいから脅かしてやるなっつうの」 そう言いつつ陽介も笑い出す。二人に笑われクマが「クマを弄んだクマー!」と怒るが着ぐるみ姿では迫力もなく、笑う声はさらに大きくなっていった。 [0回]PR