即興ラブシーン 壇主 東京鬼祓師 2013年04月29日 「何て言うか」 真っ正面から向かい合い、膝の上に乗せたおれを抱きしめた壇がため息混じりにぼやいた。 「こうやってこそこそすんのは性に合わねえんだよな」 「いやいや、多少は人の目を気にするべきだと思いますよ」 壇の肩口に頭を凭れつつ、おれはしっかりと釘を刺した。色んな何かを自覚した壇はおれが驚くほど大胆で積極的になっている。だからこっちは、心臓がいくつあっても足りやしない。 紆余曲折ありながら、おれと壇は世間で言うところの恋人同士になった。約束したから、と色んなところでデートしたり、それなりにキスとか恋人らしいこともしている。 ……まぁ、キスはする度に酸欠になりそうなのは困りものだけど。この前だって唇腫れたし。でも、それはまだマシな部類に入る。 それ以上に困るのは――。 千馗、と掠れ気味の声で呼ぶ壇の、抱きしめる力が強くなり、おれはどきっとする。このまま流されたい気持ちを必死に理性で押し止め「ちょっと待った」と壇の肩を押した。 「……何だよ」 止められて、壇は明かに不服そうな顔をする。 「嫌なのか?」 「嫌じゃないですよ」 そもそも嫌だったら、抱きしめられた時点で拒否しているし、膝の上になんて乗らない。それに今まで何回、抱き合ってきたのか。おれの中で壇との行為を止める選択肢は最初からなかった。 「……だけど」 おれはふっと顔を反らし、周りを見た。 吹き抜ける風にちょっと曇った空。下からはどこかの部活動の声や校外を走る車の音が聞こえる。 「屋上は、ないんじゃないかな」 そう、二人きりで過ごせる場所が少なすぎる現状に、おれたちは頭を悩ませていた。こうして屋上にいるのも、ここならば人が来る確率が割と低いから。でもゼロじゃないので油断禁物だ。 でもよ、とやんわり拒否するおれに反論する。 「隙あらば後ろから突進して抱き着いてきた人間の言う台詞じゃねえな」 「それとこれとは話が別だと思うんですが」 俺がしてきたのは抱き着いて怒られて、それでおしまい。だけど壇がおれにしようとしているのは、そこから二歩三歩進んでいることだ。いくらおれでも恥ずかしさのほうが上回る。ていうか今の体勢だってちょっと恥ずかしい。 「それにここは白や雉明が来るだからダメ」 「じゃあ校内のどっか」 「お前は会長の包囲網抜けられるのか?」 下校後は見回りを積極的にしているので、リスクが高すぎる。もちろん居候している羽鳥家は論外だ。朝子先生が見たら気絶どころの騒ぎじゃない。 「壇の家はどうですか」 「悪ぃが、今日俺んところもダメなんだよ」 ふと頭に思い浮かんだ考えを言うが、壇は首を振る。妹が早く帰ってくるのだそうだ。 じゃあ殆ど場所がない。でかい男二人でホテルとか目立つし、おれも壇もしっかり富樫刑事の要注意人物としてインプットされている。 「じゃあ……洞とかか?」 「いやいやいやいや、絶っっっ対、洞だけはダメ」 洞でやるのは、鍵さんや鈴に見せているようなものだ。そうなったらおれはもう二人の顔見れないし、鴉羽神社に入れない。 「…………」 壇が難しい顔をしておれを見る。言いたいことはわかる。せっかく盛り上がりかけた気分を抑えるなんて、難しいものだ。 いたたまれなくなり、おれはまた燈治の肩に頭を乗せた。おれだって、壇に触れたいたいんだよ、と手を回した広い背中をぽんぽん叩いて慰めた。 ぎゅっと壇からも、もっと強く抱きしめられる。 「じゃあ良いところ思いつくまでこうしとくか?」 出された折衷案におれは頷いた。見つかった時のために言い訳を考えておこうと思いながら。 [0回]PR