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ジュンゴ主




 緊張のあまり、オレの身体は硬直してしまった。がちがちになって動かないオレにキスをしていた純吾は顔を上げて「優輝、どうかしたの?」と心配そうに尋ねる。
「顔が赤くなってる。熱出た?」
「出てない」
 オレは強がりながらも、まともに純吾の顔が見れなくてそっぽを向いた。ちくしょう、何で純吾は平然としてるんだ。こっちは恥ずかしいわ、ドキドキするわで内心すごく慌てているのに。
「本当に?」
 純吾がオレのほっぺたに手の甲を当てた。
「やっぱり熱が出てる。ほっぺた熱い」
「熱じゃないって! これは恥ずかしいからだ!」
 このままではベッドに強制連行されて看病されかねない。オレはやけくそで言った。
「恥ずかしい?」
 分かっちゃいたけど、純吾はオレがどうして恥ずかしいのか、理解していない。だからこっちが一人振り回されがちになるのが少し悔しい。
「……だからっ」
「うん」
 オレの言葉を一字一句聞き逃すまい、と純吾がオレの目をじっと見て続きを待った。だから、そういうのが心臓に悪いといい加減に気づいてほしい。自然と視線が泳ぐ。
「オ、オレはこういうの慣れてない……んだ」
「でも、優輝、ダイチとよく同じようなことしてるよ?」
「全然違うってあんなの……。同じじゃない」
 大地とかとじゃれあったりもするけれど、アレは幼なじみの気安さからくるものだ。大地も同じように思っているだろうし、もう一種のコミュニケーションになっている。
「第一、オレはダイチとキスとかしてない。全然……同じじゃないって」
「……優輝は、キスするの恥ずかしい?」
「だからずばりと確信を突くのはやめろって……」
 オレは手のひらで顔を覆う。純吾は言葉をオブラートに包まないから、時折こっちが慌てるほどの発言を平気で行う。だから高い確率でこっちはいつでも顔から火が出そうだ。
「優輝、さっきよりも顔が赤くなってる。耳も真っ赤」
「だから、慣れてないって言ってるだろ……」
 大地とのじゃれあいは日常茶飯事だったけど、純吾に抱きしめられたりキスされたり――誰かに恋人として接しられるのはこれまでなかったから。経験不足な心が、勝手に竦んで慌てて、オレを混乱させた。
 くすくすと純吾の笑う声が聞こえる。ああ、ムカつく。何で純吾はオレより精神年齢低そうなのに、どうしてあんなに余裕があるんだ。悔しい。
「優輝、顔上げて?」
 そっと純吾の両手がオレのほっぺたを包み込んだ。そのまま軽く仰向けられる。恐る恐る顔を覆っていた手を離したオレの目に、微笑む純吾が映る。
 オレの心臓がばくんばくんとうるさくなる。反射的に後ずさりそうな身体を「逃げちゃダメ」と純吾が牽制した。
「ジュンゴわかった。優輝はキスに慣れてない」
「だからさっきそう言った」
「うん。だから、慣れるまでしよう?」
「は? 何言っ――――んっ……」
 口が塞がれる。純吾の右手がオレの腰に回って、逃げれないようホールドされた。心臓の音が伝わるんじゃないかって思うほど、身体が密着する。
 ちょ、ちょ、ちょっと待ってって。何だよこの展開。オレの心臓が爆発する!
 必死に反論しようにも、口は塞がれるどころか舌まで入って――っていうか、本当何で余裕があるんだこいつは。こっちは酸欠になりそうなのに。
「ん…んん……っ」
「はっ……」
 頭がぼうっとしたところで、ようやく純吾はオレを解放してくれた。唾液で濡れた唇が空気に触れて、ちょっと冷たさを感じる。だけどそれを拭う暇も惜しんで、オレは肺に新鮮な酸素を取り入れようと、大きく息を繰り返した。
 胸を擦るオレの濡れた唇を、純吾が拭った。
「……慣れた?」
「慣れない!」
 というか、あれで慣れると思ったのか。逆に余計身体がガチガチになりそうだ。
 ふくれっ面をするオレを見つめ「じゃあもっとしよ?」と純吾はとんでもないことを言い出す。
「もっとって……」
 青ざめるオレに純吾は名案を思いついて嬉しいのか「優輝が慣れるまで。たくさんしたら、すぐ慣れるよ」とにこにこ笑った。
 ……その顔が、オレには怖く見えるのは気のせいか。天然怖い。
「んなわけあるか!」
「大丈夫。優しくする」
「優しくするとかしないとかそう言う問題じゃなくて!」
 オレは怒ってまくし立てるが、全く純吾には効いていない。だから、どうして分かってくれないんだ。オレが恥ずかしいと思うのは、純吾が好きで触られるだけで緊張してしまうのがバレそうだからって。
 口に出せば済みそうな問題。だけど素直に口に出せない自分の性格が災いする。
「大丈夫、大丈夫」
 根拠のない慰めを呟き、純吾の顔が近づいてくる。鼻先が触れるところでオレは観念してぎゅっと目をつむり、大きく息を吸った。

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