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ジュンゴ主

ちょっと薄暗いジュンゴ的な意味で要注意なので折り畳み

 人は見かけによらない、とはよく言うけれど。今回ほどその言葉が身にしみたことはなかった。
 どうしてこうなった。
 不可解な気持ちを抱え、薄暗い部屋のベッドで優輝は肺から深く息を吐いた。ただそれだけの動作なのに、身体が気だるい。喉は声の出しすぎで痛めているし、泣きすぎて目は腫れている。特に下半身が重たく感じて動かすのすら億劫だ。だけど汗を掻いている。べとつく肌が気持ち悪くて早急にシャワーを浴びて、洗濯したてのさらさらなシーツにくるまって眠りたい。そうすればこの身体を支配している疲れもすぐに消えるだろう。
 しかし考えていることのどれもを、優輝は実行に移せないままでいた。身体に巻き付く二本の腕が寝返りすらも阻害する。
「――ジュンゴ」
 優輝は苛立ちながら自分の胸に抱きついている男の肩を押した。触れたたくましい胸板が、こちら同様に汗ばんでいる。生まれもった目つきの悪い視線で優輝に対し小首を傾げる。
「……ん、どうかした?」
「どうかした、じゃない」
 優輝は口を尖らせて睨みつけた。
「そろそろ離せ」
「……どうして?」
「オレが汗を流したいからだ。気持ち悪いのはいやだ。だから離せと言っている」
 少しでも触れあう面積を少なくしたい一心で、優輝は力任せに純吾の胸を押した。しかし純吾はびくともせず、そして悲しそうに眉尻を下げた。
「……イヤだ。ジュンゴ、もっと優輝とこうしていたい」
「おい……こ、らっ」
 離れるどころかさらに抱きしめられて、優輝は息が苦しくなった。着やせするタイプのようで、服を脱いだ状態は逞しく見える。がむしゃらにしがみついた背中も広くて。
 いやいや、何を考えているんだおれは。最中の光景を思い出し優輝は負けじと押し返す。ここで流されたら、朝までシャワーを浴びれない。
「ジュンゴ、離せ」
「……ヤだ」
 純吾は小刻みに首を振り優輝の胸に顔を埋める。
「ジュンゴ、もっとこうしていたい。……優輝と一緒にいたい」
 まるで母親に甘える子供みたいな仕草。さっきまでとは大違いだ。
 胸を純吾の髪の毛がくすぐる。思いがけず敏感なところまで擦り、優輝は上げかけた声を飲み込み、息を詰めた。まださっきの行為の余韻を身体が引きずっている。ちょっとした刺激ですぐに熱が戻ってきてしまいそうだ。
 耐えきれず、ふ、と純吾に悟られないようこっそり息を吐き「ばか」と窘める。全く、さっきまでこっちにがっついていた男とは思えない。力加減も限度も知らない。顔がぐちゃぐちゃになるまで泣いて請いて、それに気づくまで内部を突き上げられて。
 また思い出しそうになって、ダメだったら、と優輝はぎゅっと瞼を閉じて脳内に浮かんだ映像を追い払う。
「離してくれないんなら、もうジュンゴとくちきかない。それでもいいのか?」
「……それは、イヤだ」
 渋々純吾は優輝から腕を離した。ようやく身軽になって優輝は身を起こした。右手で擦った二の腕はやっぱり汗でべたべたしている。気持ち悪くて、うへえと優輝はげんなりした。
 手を突きながら床に足を着いた優輝の後ろで、純吾もまた起き上がった。悲しそうにこちらへ向けられた視線に聞こえないようそっと溜め息を吐く。


「ずっと一緒にいたいなら、こうするのが一番なんだって」
 突然寝ぼけたことを言い純吾に押し倒されたのは、ポラリスの驚異を退け優輝が選んだ世界を手に入れてから少ししてからのことだった。当然、優輝は抵抗した。どうしてこんな展開になるのか訳が分からないし、純粋だと思っていた純吾のあるまじき行為に頭が混乱していたのもあった。
 だけど結局最後までしてしまった。抵抗もむなしく流されたからだ。体格や力の差もあったけれど、何よりも純吾の縋るような目に無碍な扱いも出来なくて。イヤだ、とはっきり拒絶するのもはばかられなくて。
 突然の性行為が終わった後、もちろん優輝は純吾にどうしてこんなことに至ったのかと詰問した。
「ジョーが教えてくれた。好きな人と一緒にいたくてもいれない。そんな時の最終手段は、既成事実作ることだって」
 出てきた名前に目眩がしたのは言うまでもない。どうやら譲はとんでもない知識を純吾に植え付けてくれたようだ。ふつふつと沸き上がる怒り。今度顔を合わせたらアバドンをけしかけて頭から丸飲みにしてやると心から誓う。
「……で、まさか、おれにやったことの仕方も教わったりしたのか?」
 優輝は恐る恐る次の質問をする。
「仕方?」
「だから……その、せ、せ、」
「……せ?」
 小首を傾げる純吾にはちゃんと言わなければ伝わらない。優輝は顔を真っ赤にして「だから、セックスの仕方!」とやけくそに叫んだ。
「ま、まさかそれもバカジョーから聞いたんじゃ」
 もしそうだったらただじゃおかない。息巻く優輝に、純吾は「……ジュンゴ、したことあるよ?」と驚愕の答えを返した。
「……は?」
 思考が停止する。今、聞きたくない事実を聞いてしまったような。
「あんまり、思い出したくないけど……」
 肩を落とす純吾に、優輝は初めてでどこもかしこも浸食してる痛みも忘れ「もうちょいくわしく!」と食いついた。そして片言の言葉を自分の中で組み合わせ、答えを導き出す。
 どうやら世界がセプテントリオンの襲来に遭う前、板前の見習いをしていた純吾は仕事場の先輩からよからぬ遊びに無理矢理つきあわされていたようだった。
「……色々発散したほうが、楽だって先輩言ってた。けどジュンゴは」
「……もう言うな」
 どうしてこう、純吾の周りはろくでもない大人ばかりなんだ。優輝は呆れと共に頭が痛くなる。
「ジュンゴ、優輝好き。だけど優輝好きなのはジュンゴだけじゃない。ダイチもイオもヤマトも……みんな優輝好き。優輝の傍、いたがってる」
 呟き、純吾は切ない目で優輝を見る。
「だけどジュンゴが一番優輝の傍にいたい。ずっと居たい。離れたくないから」
「だからって……」
 これは行き過ぎだろう。優輝は下を見た。とりあえず適当な形で下半身に巻いたシーツ以外身につけていない身体。身体の至る所に痕が残って数える気すら失せる。それに初めてだったから気持ちいいよりも痛みの方が勝ったし。それよりもこんな形で――まさかセックスとか縁遠いだろう純吾相手に初めてを捧げることになるなんて。
 人生は驚きの連続っしょ。頭の中で幼なじみの言葉が浮かび、優輝は心から同意する。本当だったよ大地。おれは今、心の底から驚いている。
「――優輝」
 純吾が身を乗り出してにじり寄り、優輝を抱きしめた。
「ごめんなさい、優輝」
「ジュンゴ……?」
「本当は分かってる。これはいけないこと。人のいやがることはしちゃだめ」
 だったらどうして。そう問いかけた優輝は間近に見える純吾の表情に言葉を失う。縋る目。今優輝を離してしまったら生きていけない、まるで捨てられた小さな動物みたいに。
 引き剥がそうと肩に伸ばした手が宙でさまよう。
「だけどジュンゴ、どんなことをしても優輝と一緒にいたいから」
「……」
 ああ、もう。純吾に見えないように俯き、優輝は唇を尖らせる。こんな風につなぎ止めるのはよくないと叱るべきだ。だけど心のどこかでほだされている部分を見つけてしまい、優輝はどうしようと困ってしまう。
「優輝」
 純吾の抱きしめる腕に力が篭もり、離したくないと無言の意思表示をする。これを突き放したら、本当に純吾が戻ってこないような気がして、優輝は純吾の肩に伸ばした手を後ろに回す。そっと頭を撫でれば心地よさに目を細められ、ますます小さな生き物みたいに思う。
 自分よりも年上なのに。そもそもこんな状況。
 どうしてこうなった。


 だけど突き放せないおれも大概だな。
 念願のシャワーを浴びて優輝は、インターホンが聞こえてくる玄関を横目にタオルを首にひっかけ、部屋に戻った。すでに片づけは終えられて、性行為の名残は欠片も見あたらない。ベッドのシーツを下だけ服を着た純吾が整えていた。
 広い背中に入り口で立ち止まっていた優輝は、つい視線を逸らす。ヤっているときは余裕なくしがみついている箇所をこうしてじっくり見ていると、無性に恥ずかしくなってくる。ドキドキしてきた胸を手で押さえ「ジュンゴ」と優輝は大股に歩きだした。
 純吾は振り向き、近づく優輝を見て口元を少し上げる。この男は感情は豊かだが、それを顔に出すのが苦手だ。そのせいで誤解されがちだけど優輝には分かる。純吾は今、おれが近くにいるのがとても嬉しいんだって。
「優輝」
 純吾は優輝にまた抱きついた。シャワーを浴びたばかりの首筋に鼻先を寄せて「いい匂い」と微笑んだ。
「今日はもうしないからな」
 ここで止めなければ、また同じことの繰り返しになる。優輝はタオルを引き抜き、純吾の顔にぶつけた。
 びっくりして身体を離す純吾に、優輝は腰に手を当て「それよりもオレはおなかが空いた」と頬を膨らませる。
「ごはんつくれ」
「……ん、わかった」
 人の体を好き勝手にしてくれているのだ。これぐらいの命令は当たり前だろう。台所の方向を指さす優輝に純吾はこくりと頷く。
「優輝。いこう」
 純吾の差し出す手を、優輝は取った。すぐにぎゅっと握りしめられ、純吾の手のひらに包まれた指は身動き出来ない。移動するときは大抵こんな感じだ。純吾はいつもおれと居たがるから。
 もう一時も離す気などないのだろう。あの、縋る目でおれを組み強いた時から。逃げようと思えばやれたことをしなかったおれは、自ら雁字搦めになったのと同じだ。
 だけど、それももう悪くない。優輝もまた純吾を少なからず好いていたし、彼が隣にいる毎日にもう全てが慣れきっている。もう、純吾が隣にいないことを想像することすら難しくなっていた。
「茶碗蒸し作るよ」
「あとおにぎりと焼き鮭とお味噌汁も食べたい」
「……ん、行こう。一緒に」
 入ったばかりの部屋から並んで出る。台所に向かう途中、玄関から呼び出し音が聞こえる。だが優輝はそれを聞こえないフリをして、純吾に「早く作ってくれよ」と笑いかけた。

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