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ジュンゴ主

ジュンゴがけもみみで半獣化なパラレルっぽい話なので折り畳み



 その夜、純吾を見つけたのは偶然だった。
 すっかり夜も更けている時分。ジプス東京支局内も静けさをたたえている。
「……ジュンゴ?」
 ふと目が覚めトイレに行っていた優輝は、一瞬目の端で彼の姿を捉えた。遠目だったがジプスの制服を着ていない長身の男と言えば、純吾に間違いないだろう。
「ジュンゴ?」
 姿が見えた方へ呼びかけてみたが、純吾は気づかない。優輝に気づかずそのまま地上に続くエレベーターに乗ってしまった。
 純吾を追いかけた優輝は、エレベーターの扉に行く手を阻まれて立ち往生する。一瞬しか見ていなかったが、自分の身体を抱きしめ足を引きずって歩く彼はどことなく苦しそうだった。
 もし怪我をしているなら早めの治療が必要になる。だけど、このまま乙女へ知らせに言っていいものか。人目を避けるような行動に優輝は逡巡した。
 隠し事の苦手な純吾がこっそりと動いている。もしかしてただ事ではない事情があるんだろうか。だが、夜一人で出歩くのは危険だ。悪魔だってうろついているし、東京にも暴徒は存在する。襲われる可能性も捨てきれない。
 追いかけるべきか、そっとしておくべきか。悩む優輝に焦りの色が見え隠れした。ここでずっと迷い続っていたら、いざ純吾を追いかけても見つかりにくくなってしまう。
「……あーもう!」
 煮えきらない自分に苛つく。迷ってる場合か、と優輝はエレベーターのスイッチを素早く何度も押した。


 ジプス東京支局のエレベーターは、国会議事堂に繋がっている。完全に機能が停止している場所はかなり広い。人一人探すにも骨が折れそうだった。外に出ている可能性も高いだろう。純吾が国会議事堂に用事があるとは思えない。
 どうやって探そうか、と国会議事堂の廊下を歩く優輝は上着のポケットに手を入れた。
「あ……そうか」
 ポケットの中にあった携帯電話の感触に、優輝は電話をすればいいんだ、と気づく。ジプスのメンバー同士なら通話は可能だ。
 優輝は早速携帯を取りだし、純吾に電話をかける。
『…………もしもし』
 通話の向こうから聞こえてきた声は、苦しさに耐えているみたいに聞こえた。これは早く見つけないと。優輝の歩調が自然と早くなる。
「ジュンゴ、どこにいるんだ」
『……ダメ、言えない』
「言えない、じゃない。ジュンゴとても辛そうじゃないか。声だけでもわかるぞ」
『言えない。優輝に迷惑かける、から』
「迷惑なら今この瞬間にもかけてる」
 見つけなかったら、今頃ベッドで眠りこけているだろう。だけど純吾を探しているせいで眠気は吹き飛んでしまった。寒い中、心配して探していて――。
「だから迷惑なんて今更だ。いいから早くどこにいるのか教えろ」
 尊大な物言いに純吾が黙り込む。やがて諦めたのか優輝に居場所を教えた。
「わかった、すぐ行くからそこ動くなよ」
 しっかり言い含め、通話を切った優輝は廊下を走り出す。教えてもらった道を辿り、着いたのは国会議事堂にある個室の一つだった。扉を開けるとそこは真っ暗で、扉の横にある明かりのスイッチを手探りで見つける。
 明るくなった部屋の片隅に、純吾がうずくまっていた。
 ほら、やっぱり調子が悪いんじゃないか。純吾に近づこうとした優輝は、ふと彼の身体の変化に気づき足を止めた。
 まず目が向いたのは純吾の頭だった。いつもかぶっている帽子がなく、黒々とした髪から同じ色合いの毛に包まれた耳が飛び出している。
「ジュンゴそれ――」
 どうしたんだ、と尋ねる前に「来ちゃダメだ」と苦悶の表情で純吾が近づく優輝を止めた。痛みを堪えるように自身を抱きしめるジュンゴの腕もまた獣のような異形へと存在を変えている。鋭い爪が、抱きしめる二の腕を自ら傷つけている。傷口から流れる血が、服に染みてどす黒く変色している。
「ジュンゴ――怪我してるじゃないか!」
「ダメ……来ちゃダメ……」
 力なくジュンゴは首を振り、優輝を拒絶する。
「来たら、ジュンゴ優輝を傷つけるかもしれない。だからダメ」
「ダメって言われても……。ジュンゴだって苦しそうじゃないか」
「ダメ。ジュンゴ苦しいの我慢できる。でも優輝傷つけるの我慢できない」 
 肩を上下して純吾は荒く呼吸を繰り返す。呆然と立ったまま、優輝は拳を握った。
 一体純吾の身に何が起こったのか、優輝には見当がつかない。だけど、このまま捨ておくことが優輝には出来なかった。いつも周りばかり優しくして、どうしてその反対のことをさせてくれない。
 優輝は純吾に近づき、怯える身体を抱きしめた。胸に頭を埋めさせ「バカ」と獣の耳へ囁く。
「オレだってジュンゴを放っておけるか。――傷ついたって平気だから」
「……優輝」
 泣きそうな声でジュンゴが言った。恐る恐る伸ばされた腕が、優輝の背に回る。抱き寄せる力はとても強く息が詰まりそうだったが、優輝は声を堪え、彼が落ち着くのをひたすらに待った。


 しばらくして、純吾が「ありがとうございます」と優輝を抱きしめる力を緩めた。優輝もまた腕の力を緩め、胸に抱いていた純吾を見下ろす。獣の耳は相変わらずだったが、それでも純吾は普段と同じ穏やかな笑みを敷いていた。
 もう大丈夫そうだ。ほっと胸をなで下ろした優輝は、その場に座り込んだ。携帯に組み込まれたアプリを操作してディアラハンを発動させる。癒しの光が純吾を包み込み、自らがつけた傷を跡形もなく消していく。服に染み着いた血の痕はスキルではどうしようもない。どす黒く変色した生地に顔をしかめた。
「服は後で洗濯だな……。ジュンゴ、もう痛いところはない?」
「うん、ないよ。ありがとう優輝」
「あ、当たり前だろ……」
 間近で笑う純吾に優輝の目元へ仄かな赤みが差した。部屋が暗くても、純吾には見えそうな気がし「そ、それでどうしてこんな姿になったんだ?」と焦った口調で話題を変える。
「……ん」
 声を潜める純吾に「いやなら言わなくてもいい」と優輝は慌てて言い直す。反応からしてあまり気持ちのいい話じゃないのは明白だった。
 しかし純吾は、ううん、と首を振った。
「……本当に無理するな」
 気遣う優輝に「言うよ。見つかっちゃし、それに優輝に隠し事、したくない」と純吾は鋭い爪のはえた黒い手を胸の前まで上げる。
「ジュンゴ、おつきさま丸くなっていくとこうなる。手足が毛むくじゃら……あとしっぽも」
「尻尾?」
「これ」と純吾の背と壁の間から、黒いモノが飛び出してきた。
 突然のことに「うわっ」と優輝は身体を引いた。その鼻先を追いかけてきた黒いモノは優輝の頬を撫でる。びくりと硬直した優輝は柔らかな感触に目を丸くした。
 そっと頬に当てられたままのそれを掴み、毛並みを確かめるみたいに上下へ撫でる。
「尻尾……だな」
「うん、こわくないよ。怖いのは……おつきさま」
「月が丸くなるとこうなるのか?」
「そう。おつきさま丸くなる。ジュンゴこうなる。おつきさま欠ける。ジュンゴの手足夜でも元通り」
「そういうことか……」
 純吾の身に起きている獣化は、月の満ち欠けが多大な影響を及ぼすようだ。
「ジプスからはおつきさま見えない。だけどジュンゴこうなっちゃったから。きっともうすぐ満月」
「だからここに隠れたのか?」
 あやすような口調で顔をのぞき込む優輝に、純吾は小さくうなずいた。
「ジュンゴ怖い……この爪で誰か傷つけるんじゃないかって」
「そう、だったのか。……バカだな」
 こんな時にまで他人のことを考えるなんて。でもジュンゴらしい。
 言葉の意味をはき違えたのか純吾が「ごめんなさい」と頭を下げた。同時に獣の耳がぺとりと前へ倒れる。
「優輝……ジュンゴのこと嫌いになった?」
「バカ」と優輝はジュンゴの頭に軽い拳骨を落とした。
「嫌いになったりしない」
 そもそも今の状況が非常識なことだらけ。悪魔に襲われたり、その悪魔を使役したり。そして毎日世界を滅ぼそうとした正体不明な化け物と戦ってきた。それに比べたらジュンゴの耳や手足の変化など些末なことだ。
「本当?」
「本当だ。それによく見たら似合ってる」
 優輝は小さく笑い、純吾へにじりよった。手を伸ばし、未だに倒れたままだった純吾の耳を優しく撫でる。
「ん……」
 気持ちいいらしい。気持ちよさそうな声を出し、純吾がうっとり目を細める。優輝はもっとその顔を眺めたくなって、耳を撫でていた手で髪を梳いた。
「優輝、くすぐったい」
「あ……ごめん」
 軽く肩を揺らした純吾に優輝は我に返り慌てて手を離した。
「でも、ありがとう。純吾、とても嬉しい。似合ってるとか言ってくれたの、二回目」
「二回目?」
「一回目、親方。似合ってるって笑って、さっきの優輝みたいに頭撫でてくれた。この手も」
 純吾はそっと優輝の目の前へ手のひらを上にして出した。鋭い爪に――肉球。ピンク色をしたそれに、思わず優輝の心は高鳴った。以前純吾と面倒を見ていた猫の肉球の柔らかな感触が脳内に蘇った。
「に、肉球……」
「さわりたい?」
「さ……さわっても、いいか?」
「どうぞ」
 ごくりとつばを飲み込み、優輝は恐る恐る純吾の手に指を伸ばした。指先で柔らかく肉球に触れる。
「おおおお…………」
 考えていたい上の柔らかさに優輝は感動した。あの時以上の感触に揉む手が止まらない。無心になって肉球を触る優輝に純吾がそっと微笑んだ。
「……いてっ」
 突然手のひらの付け根に痛みが走った。反射的に純吾から手を離した優輝が痛む場所に目をやると、いつの間にか出来ていた浅い刺し傷から血が流れていた。
「あ……ごめんなさい。爪、とてもするどい。満月の時のは、触っただけでも切れちゃう」
「え……、でもさっきは全然痛くなかった」
 純吾を落ち着かせようと抱きしめたとき、背中に腕を回した。純吾の言葉通りなら、優輝の背中はその時傷だらけになっただろう。だけど一滴の血も出ていない。
「優輝、傷つけたくない。ジュンゴ、がんばった。……でも怪我させた」
「これはオレのせいだから気にするな」
 優輝は再びディアラハンを使い、瞬時に傷を癒した。
「ほら、これで大丈夫だ」
 傷がふさがった手のひらを見せて「だからもっとふにふにさせろ」とにんまり笑ってねだる。
「今日を逃したら、次の満月までお預けなんだろ。だったら触りだめしないとな」
「…………優輝」
 驚いたように純吾は瞬きをした。そして嬉しそうに目を細め「ここ」と足を開き、間の床をたたく。
「……?」
「ここに座ったらふにふにしやすいよ? 爪も刺さらない」
「そうか? ……じゃあ」
 優輝は純吾に促されるまま彼の胸にもたれ掛かった。どうぞ、と差し出された獣の手は触れると思ったより黒い毛並みが柔らかい。そして存在を主張している肉球は、一度触れたらもう二度と離したくない気持ちよさが指先から全身へ走り抜けた。
「お、おお……これはいいな」
「うん。もっとふにふにしていいよ」
「うん。……うん」
 肉球を弄ぶ快感にとりつかれたらしい。最早相槌をうつだけで、優輝は目の前の肉球の感触を無心に確かめる。
 肉球に触れられるくすぐったさや、いつもは斜に構える優輝の無邪気な横顔に純吾は口元を優しく綻ばせた。これぐらいで笑ってくれるなら、ずっとこのままでいたい。
 純吾は初めてこの身体でいられることを感謝した。
 黒毛で覆われた尻尾をゆるりと揺らしながら、じっと優輝を眺めていると、ふと緩やかな波を描く彼の髪から耳が覗いていた。白くて、形のいいそれに、純吾の喉が思わず鳴る。
 ――おいしそう。
 乾いた唇を舌で舐め、純吾は首を屈めるように優輝の耳へ鼻先を寄せた。くん、と鼻を動かして優輝の匂いを肺へ送り込み、唇で柔らかく挟む。
 己の爪で傷つき血を流す優輝の手のひらを見た瞬間、抗いがたい衝動に純吾は包まれていた。獣の本能、とでも言えばいいのか。血を舐めとり、優輝の味を身体にしみこませたくなった。
 彼を貪り尽くしたくなる衝動が全身を包む。純吾はそれに抵抗せずに身を委ね、優輝の耳朶をそっと唇で挟んだ。
「…………っ」
 突然耳朶を口に含まれて、優輝の動きが止まった。
 噛みついては鋭い歯で優輝の耳を傷つけてしまう。それでも純吾は目の前の彼を味わいたい一心から唇で柔らかく噛み、そっと伸ばした舌で耳の輪郭をなぞる。
 優輝は耳への刺激が弱く、ますます身を固くする。肉球に触れていた手は縋るように純吾の手首を掴んで離さない。
 食べないよ。だから大丈夫。
 純吾は安心させようと優輝を傷つけないよう細心の注意を払い、ぎゅっと抱きしめたが、彼は微動だにしなかった。緩やかな波を描く髪の間から見えた首は純吾でも恥ずかしがっているんだと分かるほどに赤い。
 そこにも口づけを落とそうと首を屈め、そして優輝を抱きしめている自分の手を見た。獣の形になっているそれの指先から鋭い爪が見え、はっと我に返る。ここで理性を失ったら、腕の中の存在をすごく傷つけてしまう。
 冷や水を当てられた気分になった。純吾はそろそろと優輝を抱きしめる腕の力を緩める。
 その途端、優輝が四つん這いの格好で純吾から距離を取った。舐められた耳に手を当て、まるで再びそうされるのを恐れるようにフードをかぶった。
「……ごめんなさい」
 正座に座りなおした純吾は頭を下げた。
 優輝が振り向く。目元が赤く少し潤んでいた。
「やっぱり……出ていったほうがいい。ここにいたら、ジュンゴは優輝を傷つけるから」
 そう言って純吾は落ち込んだ。かつての親方やそして優輝がこちらを認めてくれても、やはりこの姿は誰かをたやすく傷つけてしまう。
「……ジュンゴはどうするんだ?」
 赤い頬のまま、優輝が身体ごと純吾に向き直り尋ねた。
 純吾は「大丈夫。朝になれば元に戻るから」と寂しく笑う。
「だから優輝は――――」
「そうか」
 優輝は再び四つん這って、のそのそと純吾の隣に移動した。壁にもたれて足を伸ばして座る。
「ならオレもいる」
「優輝?」
「…………さっきのはいきなり純吾がオレの耳を食べたからびっくりしただけだ。その……決してイヤだったわけじゃない」
 純吾から顔をそらし、ぼそぼそと優輝は言った。
「これなら一人でいるよりも寂しくないだろ?」
「……そうだね」
「あ、でも毛布ぐらい持ってくればよかったか」
 機能が停止している国会議事堂は空調はきいていない。じっとしていても寒さがじんわりとしみる。しかし地下まで行くにも時間がかかってしまう。
 迷う優輝に「こうすればあったかいよ」と純吾が身を寄せた。
 頭半分背が高い純吾の顔をそっと見上げ、口元を微かに上げた優輝は「それもそうだな」と自らも身体を押しつけた。

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