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大地とうさみみ



 大地は乱暴に優輝の部屋に踏み込んだ。
 室内は本やCDで散らばっている。足の踏み場はまだあるが、油断したら誤って踏んで、転ぶ可能性は高いレベルだ。
 普通なら一瞬躊躇しそうだが、大地は慣れた足裁きでひょいひょいと壁際に置かれたベッドに向かう。
 そこには枕を抱いて眠っている幼なじみ。外はすっかり明るいのに、起きる気配が微塵もない。
「ったくこいつはよー……!」
 呆れと怒りに頬を引き攣らせ、大地はまず毛布をひったくった。
「起きろ! 学校だぞ学校!!」
「んんー……寝る」
「寝るじゃねーだろ、寝るじゃ!! お前も行くの! 寝ちゃ駄目なの!!」
 大声で覚醒を促すが、優輝には効果がなかった。身体を丸めて、ぎゅっと枕をきつく抱きしめ、その表面に顔を埋める。
 優輝は寝汚いところがあった。放っておけばいつまでも寝続ける。そして起こすにも骨が折れる面倒さも兼ね備えていた。
 しかし大地も負けていられない。優輝の母親にも「大地君だけが頼りなのよ」と頼まれている。多少乱暴な方法をとっても構わないと許しまで得てるのだから、しっかり成果をあげなければ。
 大地は毛布を床へ投げ、優輝の肩を掴んだ。力任せに自らの方へ身体を向かせ「起きろ! 起きろ起きろ起きろ!!」と耳元で喚きたてた。
「お前今日小テストあんだろ! 俺もだけど! それで赤点取ったら追試なの分かってる!?」
「……だいちがかわりにうけてくれるからだいじょうぶだ。もんだいない」
「問題ありすぎるわ! バカバカバカバカ! 馬鹿!!」
「だいち……うるさい……」
 目を閉じたまま眉間に皺を寄せる優輝に「お前のせいだっつーの!」と大地は反論する。すんなり起きてくれたら、こっちだって朝から叫んだりしない。
「ああもういいから起きろ。目を覚ませ!」
「んん……めんどう……」
 あ、起きる気ねーわこいつ。
 いつもよりも手ごわい幼なじみに、大地はこのままでは学校に遅刻してしまうと悟る。一旦手を離して上体を起こす。クロゼットに仕舞われている制服を取り、ベッドへ戻ると「着替えさせてやっからその間に起きろよ! 起きろよ!?」とまずは抱きしめている枕を取り上げる。無理矢理起こした優輝の身体を壁に預けて「ほらバンザーイ!」と両手を挙げさせた。
「んん……」
 抵抗がさっきより少ない。これなら、着替えさせながら声をかけているうちに目が覚めるだろう。大地は優輝が寝巻き代わりに着ているTシャツを脱がせ、代わりにベッドに投げていたカッターシャツの袖を腕に通す。
「だいちのえっちーえっちー。おれをぬがせてどうするき」
「着せてやってんだろぉおおおおおおお!? 人聞きの悪いことを言うなよぉおおお!!」
 半分泣きたい気持ちになりながら、大地はせっせと幼なじみを着替えさせる。こいつ俺がいなくなったらどうすんの、と思いながらすっかり慣れた手つきで首に巻いたネクタイをきゅっと締めた。

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