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イタズラさせて




「あのー、橿宮さーん」
 部屋で寛いでいる日向に、突然後ろから陽介が抱き付いてきた。さり気なく腕を首に巻き付け、身体を密着させてくる。
 これは何かくるな。
 そう予測すると同時に、陽介が口を開く。
「今日は何の日か知ってる?」
「今日?」
 尋ねられて考える。
 今日は十月の終わりで休みで。
「……なんかあったか?」
「ハロウィンだよ。ハロウィン!」
「ああ、なるほど。そうだったな」
 わりとイベント事には無頓着なせいか、言われて初めて気がついた。そう言えば、菜々子が楽しそうにそんなことを言ってたような気がする。
「……で、ハロウィンがなに。お菓子欲しいの?」
「いや」
 陽介が即座に否定した。
「お菓子いらないから、イタズラさせてください」
「却下」
「即答かよ!」
 今度は日向が即座に否定すると、陽介が突っ込みを入れた。
「だってお前の言うイタズラって、どうせしたいとかだろ」
 顔が見えなくても、陽介の魂胆はすぐに分かる。日向は首に巻き付く陽介の腕を引きはがし、そこから脱出した。
 距離を置いて、陽介の方へ向き直る。案の定、陽介は不服そうに口を歪めて日向を睨んでいる。
「そんな顔しても駄目。大体、陽介ががっつきすぎるのが悪い」
 先日も、犯り殺されるかと思うぐらいにされて、日向からすれば辟易しているところだ。手加減を知らない、目の前の男のせいで。
「まだ腰が痛いからヤだ。当分禁止」
「……」
 陽介は俯きながら、それはお前が煽るからで、と呟いているが、聞こえないふりをする。こっちだって煽っているつもりはない。
「……じゃあさ、テレビん中行こうぜ!」
 名案を思い付いたのか、表情を明るくして陽介が言った。
「要は腰が治ればいいんだろ? だからあっちに行ったら、俺がペルソナで痛いの治すから」
「……陽介?」
 本気で言ってんのか、と言外に込め、日向は冷たく低い声で名前を呼んだ。笑顔を作っていたせいか、妙な迫力があったらしい。陽介は頬を引きつらせ、
「すいません。何でもありません」
 とすごすご引き下がる。
 流石にこれ以上ごねたらどうなるか、陽介はよく知ってるお陰で引き際もいい。そう出来る程にねだっていると思うと、少しだけ情けない気もするけれど。
 溜め息を吐きながら、日向は立ち上がる。
「今日はお菓子やるから我慢。分かった?」
「……はい」
 しょんぼりと陽介が頷く。哀愁漂う姿に、日向はもう一度溜め息を吐いて続ける。
「腰が治ったら考えとくから、そうしょげるな」
「……!」
 陽介が驚き、日向を凝視した。そして嬉しそうに緩む表情に、本当分かりやすい、と思いながら日向はまた抱き付かれる前に肩を竦めながら部屋を出た。

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