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ごみ箱




 放課後、日直だった日向と陽介はごみ箱を持って連れ立ちながら校舎裏にある焼却炉に向う。ごみ箱の側面を蹴りながら歩く陽介は、面倒臭い日直の仕事に放課後を潰されて不満顔だ。これみよがしに溜め息をつかれ、日向に「日直だから我慢しろ」と窘められる。
「でも面倒くさくねえ? ゴミぐらい、掃除した奴が片付ければさ」
「決められてる仕事なんだからきちんとするのが当たり前」
「……お前ってこう言う時、本っ当正論ばっかり言うよな」
 駄々をこねるこっちがみっともなく思えてしまい、陽介はバツが悪くなる。
「ま、橿宮と一緒だからいいけどな」
 頬を赤く染め、陽介はぽつり呟く。声を聞き付け、「どうした?」と日向が振り返る。
「何でもねえよっ。ほらっ、とっととゴミ捨てて戻るぞ」
 聞かれないように呟いたのが日向の耳に入って恥ずかしい。陽介は早口に言って、日向を追い越し焼却炉に向かう。
 ごみ箱を逆さにして、たまったゴミを焼却炉に入れる。制服が汚れないように蓋を閉め、ようやく一仕事終えられた。
「あと、何があったっけ?」
「日誌」
 先に行った陽介に追いついた日向が、短く言った。
「……めんどくせー」
 ごみ箱を持ち直し、陽介はまだ残っている仕事にうんざりした。
「書くのは俺。だからその言葉は俺が言うべきだろ」
 頭を振り、日向は肩を竦める。そして「行こう」と陽介を促しかけ、
「……」
 じっとごみ箱を持つ陽介を注視した。
「か、橿宮?」
 いきなり見つめられ、思わず陽介は後ろに一歩後退った。視線から身を守るように、つい持っていたごみ箱を盾にする。何か汚れが顔についてるのだろうか。
 じっと日向は陽介を見つめていたが、顔を反らし掌を口に当てたと思ったらいきなり吹き出した。
「えっ、何? ここ笑うところ?」
 陽介は辺りを見渡すが、笑える要素がどこにあるのか検討がつかない。まさか、突拍子もない雪子の爆笑癖が移ったかと、不安になる。あんなのが二人分になったら大変だ。
「いや、ごめん」
 肩を震わせながら、日向が謝った。
「ちょっと……思い出しちゃって」
「思い出すって……何を」
「ほら、俺が転校したばっかりの時。ゴミ捨て場に激突した陽介が、ポリバケツに」
「……それ以上言うな」
 ろくでもない思い出が脳裏に浮かんで、陽介は日向の言葉を遮った。あれはなるべく思い出したくない類いのものだ。
「橿宮もいつまでも笑ってんじゃねえよ!」
 改めて当時を思い起こしたのか、身体を軽く折り曲げ、日向は笑い続けている。呆然と見つめ、陽介は雪子の大爆笑を目の当たりにした時の千枝の気持ちが分かった。これは、途方に暮れる。
「ごめん」と謝りつつ、日向の表情はしまらないまま、まだ笑いを引きずっている。
「お前、そんなにあの時の俺の不幸が面白いのか……?」
 若干傷つきながら陽介が呟くと「違うって」とようやく立ち直った日向が首を振った。
「アレがなかったら、こうして陽介と一緒にいなかっただろうし」
「橿宮……」
「まぁ、見てて面白かったから少し見てたのもあるけど」
「結局面白がってんじゃん!」
 道理であの時近くに人の気配がするのに、助けられるのが遅かった訳だ。突っ込みを入れる陽介の脇をすりぬけ「あー、日誌書かないと」と棒読みで言いながら日向が来た道を戻っていく。
「ちょっ、まだ話は終わってねーから!」
 盾代わりにしていたごみ箱を持ち直し、陽介が日向の後を追いかける。今日は何か奢らせてやる、と決意を燃やしながら、まだ微かに震えている肩を睨んだ。

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