忍者ブログ
二次創作(小説のみ)やオフラインの情報を置いてます。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

向上心





「――いっくよー!」
 現われた大量のシャドウに憶さず、千枝が軽く腰を落した。眼鏡の奥で眼光鋭くシャドウを睨みつける。
「トモエ!」
 宙から現われた、淡く光るカードを回し蹴りで砕いた。同時に千枝の背後から雄々しく薙刀を持つ女神が、呼び声に呼応するように浮かび上がる。
 トモエは両手で薙刀を構え直した。群れるシャドウに向かって飛び込み、縦横無尽に暴れる。無慈悲な一閃に巻き込まれたシャドウの幾つかは、悲鳴も残さず消えていく。
「まだまだ行くぜっ!」
 千枝に続いて、完二が大きな盾を軽々と振り、一番近くのシャドウを殴り倒す。それでも残っている敵に、完二は不敵な笑みを口許に浮かべた。
「――来い! タケミカヅチ!!」
 武骨な雷神が、完二の前に降り立つ。拳を振りかざし、勢いよく下ろした。
 雷が、降り注ぐ。
 トモエの薙刀から命からがら逃れたシャドウたちは、雷にのまれ、あっという間に殲滅した。
 戦闘の高揚感が漂う中、よっしゃあ!と完二と千枝が同時に勝利の声を上げる。


「アイツら、すっげー生き生きしてるよな……」
 戦っている様子を見ていた陽介は、感心して呟いた。こっちが手を出すまでもなかった。
「そうだな」
 日向は頷きながら、ペルソナを呼びだした。現われたキクリヒメが、消耗している完二と千枝の力を回復させ、消える。
 やったよー、と手を振る千枝に手を振り返して「多分、俺たちの中でこういうのに一番慣れてるのもあるし」と日向は言った。
「確かにな」
 千枝は功夫映画をこよなく愛するがゆえに、自らも鍛えて、映画からコピーした功夫の足技を実践レベルにまで高めている。完二もまた、暴走族を潰した伝説を裏付けるように喧嘩慣れしているのは、周知の事実だ。
「いや、でもこれは伸び伸び暴れすぎじゃね? いいのか、今日こんなんで」
「うん」
 心配する陽介に、日向は頷いた。
 今は失踪している人間もいないし、差し迫ったこともない。フォローはこっちでするから、と日向は完二と千枝にシャドウと好きに戦ってくれと言っている。
 陽介としても、リーダーである日向に異論はない。だが、言葉通り好きに戦いすぎている二人を見ていると、どうもはらはらしてしまう。
「大丈夫。二人のフォローする為に俺たちがいるんだから。不安そうな顔するな」
 日向がちらりと陽介を見て、小さく笑った。
「……さっきも言ったけど、俺たちの中でこういうのに一番慣れているのは里中たちだろう?」
「まぁな」
「見てたら学ぶべきところがあると思うんだ」
「お前まさかそれであんなこと」
 日向の意図に陽介は気付いた。日向は、シャドウと戦っている二人の動きを、じっと観察していた。どうして手を出さないんだろう、と不思議に思っていたが。
「俺は殴り合いの喧嘩なんてしたことないしなぁ」
 妙にのんびりとした口調で、日向が言った。暗に肯定する口振りに「俺だってねーよ」と呆れて陽介が返す。
「つか、喧嘩慣れしてるほうがどうかと思うけどな」
「そうだけど」
 日向は切っ先を床につけている剣を握り締めた。
「今はもうちょっと、力をつけておきたい」
 まだ何があるか、分からないから。
 小声で日向が呟いた。
「まだ終わるとは思えないし。力はつけれる時につけておきたい」
 ゆっくり持っていた剣を上げ、日向は刀身に自分の姿を映す。伏せた眼は、ずっと先のことを考えているように見えた。
 これから先、何が起こっても構わないように。
「――バカ」
 ぶっきらぼうに陽介が言って、軽く日向の頭を小突いた。驚いた日向は、丸くした眼を瞬かせ、陽介を見る。
「強くなろうと思うのはいいけど。少しは俺も頼ってくれよ相棒。お前にばっかり背負わせる気なんて、俺にはないからな」
 そう言って陽介は片目を瞑って笑った。
「……」
 日向は小突かれた頭に手をやりながら陽介を見ていたが、不意に笑い出し陽介を驚かせる。
「……なんだよ」
「いや。お前にはかなわないなって思ったんだよ相棒」
 頼りにしてる、と陽介の肩を叩き、日向は完二と千枝の元へ駆け寄っていく。
「……」
 日向に叩かれた肩に手を置き、陽介はその時の感触を思い出す。
「……それはこっちの台詞だよ」
 まだまだ日向には色々と勝てそうな気がしない。
 もっと強くならないとな、俺も。
 一人その場に突っ立っている陽介を、千枝が大きな声で呼ぶ。今行く、と返した陽介は、両手の苦無を握り直し、歩き出した。

拍手[0回]

PR