忍者ブログ
二次創作(小説のみ)やオフラインの情報を置いてます。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

サングラス 完主



 テレビの画面を潜り降り立った中央広場を日向はぐるりと見回した。相変わらず深い霧に包まれている世界は、ほんの数歩先でさえはっきり何があるのか見えにくい。
 どこからこの霧は出ているんだろう。初めてここに来てから疑問に思っていることを考えながら、日向は制服のポケットから取り出した眼鏡をつけた。
 一気に視界が鮮明になる。
 クマはどんな素材を使って、眼鏡を作っているのか、さらに不思議になった。答えの出ない疑問に首を捻りつつ、日向は眼鏡のつるを摘んで軽く上下させる。
「……何してんスか、先輩」
 眼鏡をずらしては直す日向の奇行に、完二が後ろから恐る恐る尋ねた。
「いや、どうしてクマの眼鏡が霧を通すのか気になって」
 眼鏡をちゃんとつけなおし、日向は完二に向き直る。そして完二がつけている眼鏡に眼を止めた。
「完二のは眼鏡って言うよりもサングラスだよな」
「そういやそうっスよね」
 日向を始め、陽介や千枝たちの眼鏡に比べて、明らかに完二のそれはレンズに色がついている。クマが作っていることを考えると、渡す人物によってそれなりにどんな眼鏡にするのか見極めているんだろう。
 クマは人を見る目が確かそうだ、と日向は感心した。
「完二。それ貸してくれないか?」
 サングラスに興味が出た日向の言葉を聞いて、完二は身を引きつつ眼を眇める。
「またヘンなこと考えて……」
 文句を零しながらも、完二は素直に眼鏡を外して日向に差し出した。ありがとう、と受け取り日向は早速自分のを外して、完二の眼鏡をつける。
 おお、と小さい歓声を上げ、日向は辺りを見回した。
「うん。サングラスだから、ちょっと暗く見えるな。動くのに支障ない?」
「慣れれば平気っスよ。ペルソナで雷出しても眩しくなんねぇし」
「そうなのか」
 霧の中、いつもと違う視界を面白がる彼を見た完二は、その様子を見て思わず吹き出した。
 元々視線の鋭く目つきの悪い日向は、一見威圧感を感じる。そして今度はサングラスを掛けたことにより、さらにそれが増長していた。妙に似合っているのも、完二の笑いを誘ってしまう。気の弱い人間なら、近寄ることすら難しそうだ。
 口元をにぎりしめた拳で押さえる完二を、日向は不思議そうに見た。
「どうした?」
「……いや……先輩」
 それ外したほうが良くないですか。そう言いかけた完二を遮るように「橿宮くん、今日はどうするの?」と雪子が近づいてくる。そして、振り向いた日向の顔を見て、ぴたりと動きを止めた。
「今日は」
「ちょ、橿宮くん、何それ……、……似合いすぎ……っ!」
 何かのスイッチが押されたのか、雪子は腹を抱えて爆笑し出す。いきなり広場に響く笑い声に、他の仲間が怪訝な視線を日向たちに集中させた。雪子に対しては、またか、と呆れたような感情が入り混じっている。
「そんなに可笑しい?」
 呆然とする日向に、完二はゆるく首を振った。
「ちょっとは面白いって思いましたけど。でもこの人ほどじゃねっスよ……。つか、何であんな爆笑できんだ?」
「きっと天城にしか感じられない何かがあるんだな……」
 日向は小さく呟き、とりあえず少しでも早く雪子の爆笑を静めようと、つけていたサングラスを外した。

拍手[0回]

PR