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二次創作(小説のみ)やオフラインの情報を置いてます。

アイス 完主




「稲羽はいつもこんな暑さなのか?」
 辰姫神社の境内。賽銭箱近くの段差に座り、日向が尋ねた。手には、銀紙を剥がしたホームランバーが握られている。
「いつもこんなもんすね」
 日向の座る場所近くにある柱に背を凭れ、完二が答える。彼の手にもホームランバーがあって、日向のはバニラ、完二のはチョコ味だった。
「そうか」
 短く返し、日向はホームランバーにかぶりつく。境内は周りを囲む木の影に覆われていたが、それでもむっとするように暑い。その煽りを受け、四六商店で買ったばかりのアイスはもう溶け始めていた。
 溶けた部分が手に落ちかけ、完二は慌ててホームランバーを食べる。大きく口を開けば、アイスはあっという間になくなってしまった。
 何も書かれていない棒を見つめ、がっかりする。当たりにはなかなかお目にかかれない。
「あっちもあっちで暑かったけど、俺はこっちの暑さのが好きだな」
 溶けたアイスが手につかないよう、器用に舐めながら日向が言った。木々の葉に覆われた空を見上げ、細切れに落ちていく夏の陽射しに目を眩しそうに細めた。
「あっちは上からもそうだけど、下からも暑いのが来るんだ」
「あー……、アスファルトから来るんですっけ?」
「うん、蒸し暑い。でも稲羽はあっちと比べて太陽からの熱が直接来る感じ」
「俺は稲羽しか知んねえから、よく分かんないんすけど。そんなモンなんすか?」
 完二の問いに、日向は悪戯っぽく笑う。
「大丈夫。完二も分かるようになるよ。来月の修学旅行、俺が住んでるところに近いから、実感できるから」
「……そう言われると、あんまり実感したくねえかも」
 夏は好きだが、暑すぎるのは苦手だ。影で涼んだって、一歩出ればまた暑さが肌を刺すし、汗で濡れた服が気持ち悪くなったりする。うんざり空を見上げる完二に「そんな顔をするな」と言った日向がホームランバーを食べ終えた。
 棒を見て、「暑いからこそ、アイスの上手さも引き立つんだ」と完二の方に腕を伸ばした。その棒の先端には完二のと違い、はっきりと『あたり』の文字が書かれている。
「四六商店にもう一回行くか」
 日向が、ズボンの汚れを叩き落としながら腰をあげる。
「せっかくあたりも出たし」
 奢るよ、と言われ、完二は「え、いっすよ」と首と手を同時に振った。さっき食べていたアイスだって奢ってもらった。なのにまたなんて。憧れの先輩に奢られっぱなしは完二の気が落ち着かない。
「いいから奢らされなさい」
 指先に摘んだあたりの棒を小さく振りながら、迷う完二に日向は笑う。それに毒気を抜かれ「はあ」と気のない返事を漏らした完二に、笑みを深くして「なんなら、ラムネをつけてもいい」と付け加えた。

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