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ドンマイ 完主



 特捜本部と呼んでいる、フードコートのいつもの席。そこで日向が食べているものを見て「先輩も好きなんスか、おっとっと」と完二が言った。
 隣に座る完二に、日向は首を振る。
「最近は食べてなかったけど、完二やりせが食べてるの見て気になったから」
「あー、ありますよね。そゆ事って」
 普段は気にならなくとも、近くで誰かが食べてるのを見たら、つい食べたくなってしまう。完二にも覚えがあることだ。
 日向は口を開けた袋から一つずつ取り出して、じっと摘んだおっとっとを見つめる。
「ひとで」
「よくあるうちの一つっスね」
 口に摘んでいたものを運び、日向はまたもう一つ取り出す。そして出てきたものに、首を捻った。
「これはなんだ?」
 差し出されたそれを見て、完二は答えた。
「あーっと……。それはマンボウっスね」
「前より種類が増えてないか?」
「クリオネとかもありますからね。どんなのか考えんのも結構面白いんスよ」
「凝ってるなぁ」
 しみじみ呟き、日向はマンボウの形をしたおっとっとを口に放った。
「でも、完二がいつも大切そうに食べる気持ちが分かった気がする。これで潜水艦とか見つけちゃったら嬉しいもんな」
「そりゃ、滅多に見れないんすからね」
 よくおっとっとを買っている完二も、潜水艦にはあまりお目にかからないでいる。袋を開ける度、レアな存在に会えるかどうか、いつもわくわくする。だから林間学校で陽介が勝手に食べた時――しかもどんなのが入っているかよく見もしないでだ――割と本気でムカついていたりも、していた。
「お」
 散々だった林間学校のことを思い出し、何とも言えない顔で首の後ろを掻く完二を余所に、黙々と食べていた日向がふと驚いたような声を上げた。
「なぁ、これってもしかして?」
 そう言って再び差し出された日向の指に摘まれていたのは。
「あっ、これ! これっスよ、潜水艦!」
「やっぱりか」
 運が良かったな、と嬉しそうに頬を緩めた日向は、まじまじとそれを見つめた後「あげる」と完二の手のひらに乗せた。
「……橿宮先輩?」
「見つけたら、あげようと思ってたんだ。いつも頑張って探してるみたいだったから」
「……あざっす」
 こういうのは、自力で見つける方がより達成感がある、と完二は考えている。しかし日向が、自分のことを考えながら潜水艦を探してくれた、と思うと嬉しい。
 完二は手のひらに転がった潜水艦を見つめ「……へへ、何か食べるの勿体ねえな」としまらない口許を隠さずに呟いた。
 次の瞬間、ぴぽぴぽと気の抜けるような足音が聞こえてくる。それが何なのか、察知するより早く「ならこれはクマがいただクマー!」といきなりやってきたクマが潜水艦目掛けて突進してきた。
「うわっ!」
 完二は咄嗟に潜水艦が乗った手を握り締め、上に伸す。そして素早い身のこなしで席を立ち、突進してきたクマを「何しやがんだテメーは!」と渾身の力を込めて突き飛ばす。
 人間の形を取ってからも、着ぐるみを着た状態のクマは、少し押しただけで容易に転がる。完二に手加減なしで突き飛ばされ、クマはごろんごろんと、地面を転がっていく。仕事中らしい、手に持っていた子供に配る風船が、幾つか空へ飛んでいった。
 あー、と手で庇を作り日向が飛んでいく風船を見上げる。
「ひっどいクマねー。クマのプリチーな身体に傷がついたらどうするね。カンジ、責任取ってくれるクマか?」
 立ち直り、怒りながら近付いてくるクマに「誰が取るか!」と肩で息をしながら、完二は真っ赤になって言った。
「テメエが悪いんだろ! 人のモン勝手に取ろうとしやがって……。自業自得だ!」
「だってカンジ、食べたくないって言った」
 クマは口を尖らせ、不満たっぷりに完二を睨む。
「だからクマが代わりに食べたげようかと思ってたのに」
「誰も食べねーなんて言ってねーよ! これはなぁ……」
 先輩が自分の為にわざわざ探してくれたものだ。
 そう言おうと、クマに潜水艦を握り締めた拳を突き付け、完二はある事に気付いた。青ざめながら、恐る恐る拳を開く。
「あー」
「ありゃま」
 完二の手のひらを覗き込んだ日向とクマの声が重なった。
 握りこまれた手のひらの中で、潜水艦は無残に粉々になっていた。最早原型を留めていない。
 さっきまでの喜びが一気に萎み、脱力感となって完二は力なく椅子に座る。
 気まずい空気が流れた。
「……さ、さぁってクマは仕事仕事……」とわざとらしく言い、クマの逃げるような足音が遠ざかっていく。
「……潜水艦。せっかく先輩がくれた潜水艦が……」
 今までの比ではなく完二は落ち込む。その肩を「ドンマイ」と日向が叩いてくれたが、完二の気分はそれからもしばらく浮上しなかった。

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