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共通点 完主



 傘を閉じて、表面についた水滴を払い落す。空を見上げれば、気が重くなるような曇天が広がっている。空を睨み、完二はちっと舌打ちをした。今までも雨が降る日が鬱陶しいと思っていたが、今年はまた違った意味で忌々しく感じてしまう。雨が降り続いた後、霧が出る日に人が死んでしまうなんて、愉快な話じゃない。
 今は失踪者はいないが、事件が解決しない限りまた被害は出るだろう。その時を思うと、気分が滅入りそうだった。
 空に向けていた視線を引きはがし、完二は引き戸を開け、家に入る。
「おかえり」
 入るなり、二つ重なった声で出迎えられ、完二は驚いた。
 店の座敷に母親と、何故か日向が和やかにお茶を飲んでいる。
 日向と話していた母親は息子の帰宅に、頬に手を当て、にこやかに完二を見た。
「遅かったわねぇ。橿宮くんと随分話し込んじゃったわよ」
 楽しかったけどね、と笑う母親に日向が「俺も楽しいです」と答えさらに完二は驚いた。いつの間にか二人は仲良くなったのか。いや、そもそも何の話をしているんだ。二人の共通点が見つからず、だんだん不安になる。
 戸口で固まる完二に「さっさと上りなさい」と言い、母親は日向に頭を軽く下げ、奥へと姿を消した。
「ちょっ、先輩。何でいんスか?」
 母親が奥へ行ったのと同時に、完二は足早に日向へ近付き声を潜めて尋ねた。
 日向は口に運んでいたお茶を飲んでから答える。
「神社の帰りにいきなり雨が降ったから、巽屋の軒先で雨宿りさせてもらってたんだ」
 すると、店から出てきた完二の母親が、日向を店内に招き入れてくれたらしい。
「雨宿りだけでもありがたいのに、お茶まで出してくれたんだ。優しいお母さんだな」
 空になった湯飲みを盆に置き、日向は目元を緩めて笑い、完二を見た。優しさが滲んだ表情に、思わずどぎまぎしてしまった。日向はたまに不意打ちでそんな顔をするのが、ずるいと完二は思う。どう返せばいいか、分からなくなってしまうではないか。
「……で、一体どんな話をしてるんスか。お袋と話っつったって、共通点もなさそうなのに」
「そうでもない」
 日向は首を振って否定してにっこり笑う。
「俺も完二のお母さんも、完二のことが大好きだって言う共通点があるから。話題には事欠かさないよ」
 投げ込まれた爆弾発言に、完二は顔を真っ赤にして絶句する。いきなりなんてことを言い出すんだこの人は!
 固まってしまった完二に、日向は笑みを深め「固まってないで、座ったらどうだ」と自分の隣りをぽんぽんと叩いた。
 やっぱりこの人はずるい。
 赤い顔のまま低く唸りながら、完二は心から、そう思った。

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