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川辺にて 完主




 夏の陽光が川面にきらめく。
 反射する光に眼を細め、手で庇を作った完二は川につけた足を軽く上げる。すると、ばしゃと水が跳ね、川の流れの上に小さな波紋が浮かんで消えた。
「あー……。暑いっスね」
「うん」
 完二の言葉に返ってきた相槌は、さほど暑いと思っていないような平坦さがあった。完二は、庇を作った手を膝の上に落とし、隣を見る。
 隣には完二と同じようにジーンズの裾を捲りあげ、足を川の水に浸している日向が座っていた。いつもと変わりない様子で、ぼんやりと向こう岸を眺めている。まさか暑さを感じていないんじゃ、と完二は思ったが、よく見ると、日向の眼が普段よりぼおっとしていた。しっかり暑さにやられている。
 そして日向の向こう側には釣り道具。今日は一度も釣れておらず、ついに諦めたらしい。
「なぁ先輩」
「うん?」
「そんな日もあるって。また日を変えて挑戦すりゃあいいんスよ」
 完二が励ますと、日向は溜め息を吐いた。
「……でもヌシが」
「……そんだけデケェ獲物なら尚更でしょうが」
 ヌシを狙っていたとは。完二は内心びっくりする。この人はたまに大胆なことをしでかしてくる。
「魚の餌がもうないんだ」
 無念を滲ませながら、日向は声を窄ませた。
「後もう少しなのに」
 これでキツネが喜ぶのがしばらく先になってしまった。
 そう呟く日向に完二は苦笑する。言葉の通じない存在の願いごとを叶えようとする奴なんて、この人以外には知らない。
「仕方ねぇスよ。日を改めましょうや」
 完二は川から足を引き抜いて、肌についた水気を振って払い落とす。
「ジュネス行きましょうよ、ジュネス。珍しくオレがおごりますから」
「本当に珍しいな。明日は雨が降りそうだ」
 眼を丸くして見上げる日向に、完二は口許を大きく上げて笑った。
「たまには可愛い後輩の言うこと聞いてくださいよ」
 そう言って手を伸ばす。「そうだな。悪かった」と日向は伸ばされた手を掴み、川から上がる。そして、放置していた釣り道具を片付けながら言った。
「ビフテキが食いたい」
「いや、暑いんスからせめて冷たいモンに……」

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