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心が狭い



 終礼が済み、柏木が教室から出ていく。
 それと同時に、雪子と千枝が席を立つ。帰る支度を終えたカバンをそれぞれ手や背中に装着済みだ。
「それじゃ、帰るね」
「また明日!」
 おざなりな挨拶を残し、雪子は前の扉から、そして千枝は後ろから急ぎ足で帰ってしまった。あっという間の出来事に、日向と陽介は返す言葉もなく、二人を見送る。
「すげーな、アイツらの速さ」
 頬杖を突きしみじみと言う陽介に、日向が苦笑した。
「まあ、急いでるみたいだし。仕方ない」
 雪子は急な団体が入ってきた、と助けを求める電話が、さっき携帯から掛かってきている。千枝も千枝で、待ち望んでいたDVDの発売日が今日らしかった。
 取り残された男子二人はそろりと目を合わせた。
 陽介が尋ねる。
「俺らも帰っか」
「そうだな」
 日向は頷き、鞄を取った。

 それから十数分後、日向らは途中で鉢合わせした完二を伴い、四六商店の軒先に置いてある冷蔵ケースの前にいた。完二から聞けば、りせも直斗を引きずり、どこかに行ったらしい。
「隣のクラスにまで声聞こえたんすよ。何やってんだか……」
 顔をしかめ、完二は蓋を開けたケースに手を突っ込む。取り出されたホームランバーに「お前、いっつもそれだな。あきねえの?」と陽介が呆れた。
 完二は「いいだろ。好きなんだし」と陽介を睨む。
「仲良しなのはいいことだろう」
 完二の横から冷蔵ケースを覗き込み、日向は「これにしよう」とソーダバーを取り出す。二本の棒がさされた、半分に割って食べるタイプのものだ。
 それを見た陽介が「あ、橿宮。それ半分頂戴。割り勘で」と頼んだ。
「うん。そういうと思った」
 じゃあ買いに行こうか、と店内に入りかけた時、完二が「ここはオレに奢らせてください」と申し出る。
「あん時奢ってもらいましたから、そのお礼っす」
「あれは俺が好きでやったことだから気にしないでいいのに」
「いーや、もう決めましたから。いいですよね?」
 念を押す完二に、日向は折れた。
「じゃあお言葉に甘えようかな」
「うっす!」
 嬉しそうに完二は笑い、買ってきます、と二つのアイスを持って店内に入った。
 逆に面白くなかったのは陽介だ。自分の知らない場所での出来事を持ち出され、急に疎外感を味わう。
 腕を組み、俯いて口を尖らせる陽介に「怒らない怒らない」と子供をあやす口調で日向が、その頭を撫でた。
「花村陽介はなんだかんだと心の広い人間だと俺は思っているが」
 撫でる手を跳ね退けず、しかし不機嫌に陽介は言った。
「お前に関してはちょっと狭いの」
「ちょっと?」
 僅かに身を乗り出し、日向が陽介を見つめる。気まずそうに視線を反らし口ごもった陽介は「……いや、かなり」と言い直した。
「そうだな」
 別段気を悪くする様子もなく、日向は口元をおかしそうに緩めた。
「俺も陽介に関してはかなり心が狭いし」
「……」
 それはよく知っている。陽介は以前、いちゃもんをつけた女子高生の件を思い出した。あの時の日向を見て、もうコイツを本気で怒らせる馬鹿な真似はするまい、と心底感じたものだ。
「お互い様だろうけど、完二は仲間だし。大目に見てやってほしい」
 分かっている。完二が日向に懐くのは、純粋な尊敬なんだと。
「分かったよ」と組んだ腕を解いて、軽く上げた。ここでいやだ、と言ったら、心が狭すぎる男になってしまう。
「でも、この後に愛家で何か奢れよ」
「はいはい」
 口許を押さえ、小さく笑う日向の後ろで、「お待たせしました」とアイスを買ってきた完二の声が聞こえた。

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