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疑惑

長瀬×一条風味も含まれてます




 もうそろそろ部活が終る頃だろう。
校内で適当に時間を潰していた陽介は、腕時計で時刻を確認し、サッカー部の部室に向った。
 今日はこの後、日向と一緒にジュネスで買い出しに付き合う。お一人様一つの数量限定セール品を少しでも多く買うために使われているような気もするが、あえてそこには瞼を伏せておく。陽介としては、日向と居られることのほうが重要で、シチュエーションに文句をつける程贅沢は望まない。そうでなくても、二人きりになる時があまりないのだから。
「――あれ、花村?」
 部室が並ぶプレハブ小屋の壁に凭れていた一条が顔を上げ、見つけた花村に軽く手を振った。
「ツレのお迎え? 相変わらず仲良いね」
「うっせ。お前だって同じようなもんだろ」
 茶化してくる一条もまた、長瀬を待っているのを花村は知っている。
 しかし一条は「分かってないな」とゆるく首を振った。
「オレはさっきまで部活あったし。帰宅部のお前のがより長く待ってたことになるよな」
 そう言われたら返す言葉もない。
 得意そうに笑う一条を睨み、サッカー部の部室に向う。
「あ、ちょっと待てって!」
 どうせ行く場所同じだろ、と追いかける一条を無視し、引き戸に手を掛けた陽介は、中から聞こえてきた声に眉を潜めた。
「……ちょっ、長瀬……」
 うわずったような日向の声に、思わず陽介は固まった。後ろで追いついた一条がきょとんと陽介を呼ぶ。
「どこ、触って……っ!」
「いいだろ別に。減るもんじゃないし」
 日向に続いて聞こえてくる声は、長瀬のものだ。今度は一条も聞こえたらしい。眼を剥いて口をぱくつかせていた。
「……な、なにやってんのかな、アイツら」
 思わず腕を掴んでくる一条に「俺に聞くなよ」と陽介は投げやりに答える。そんなもん、こっちが知りたい。
 開けようかどうか、引き戸に伸ばしていた手が宙を彷徨う。開けたら密会の途中でした、なんて、自分にとっても――恐らく一条にとっても心臓に悪すぎる。かと言って、このままにしておけない。
「――長瀬っ!」
 逡巡している陽介を押し退け、一条が焦ったように引き戸を勢いよく開けた。
 暗い部室内に、傾きかけた太陽の光が差し込む。
「陽介?」
「お、一条」
 青ざめた陽介と切羽詰まったような一条を迎えたのは、いつもと代わり映えない日向と長瀬の姿。どちらもきっちり着替え終っていて、陽介たちが危惧していたことなどは微塵も感じさせない。
「どうしたんだお前ら」
 唖然としている様子に、長瀬が「悪いものでも食ったか?」と眉を寄せて尋ねる。
「ばっ、違うって!」
 かっと顔を赤くして、一条がずんずん部室に入り込み長瀬に詰め寄る。
「さっき変な声が聞こえてびっくりしたんだよ!」
「変な?」
 長瀬は首を傾げて考え込み、ああ、と思い至ったように頷いた。
「変な、ってこのことか?」
 そう言うなり、長瀬は横にいる日向に突然手を伸ばす。だが脇腹を狙ったそれは、すんでの所で交わされ空振りに終わった。
「避けたな」
「避けるだろう」
 言い返し、ロッカーから取り出した鞄を手に、日向は呆然としたままの陽介に近付く。
「誰が好き好んでくすぐられるか」
 帰ろう、と日向が陽介の腕を引いて歩き出す。足がもつれかけながら、陽介は何とか体勢を直した。
「また明日なー」
 後ろから聞こえる長瀬の声に振り向く。
 呑気に手を振る長瀬の横で、一条が喚いていたが、陽介には何を言っているのか分からなかった。


「……で、何やってたんだ?」
 日向のほうに顔を戻し、陽介は聞いた。日向と長瀬のやり取りを聞いた限りでは、陽介の恐れることはないだろうと分かっても、気になってしまう。
「部活が終って着替えてたら、長瀬が筋肉ついてるなって」
 前を向いたまま、日向が答えた。
「で、俺がそうか、って返したらいきなり脇腹を触られて」
 くすぐったくなり、日向はつい変な声が出してしまったらしい。どうやら陽介が聞いたのはその時の声だったようだ。
 やっぱりさっきの不安は杞憂だったようだ。陽介は胸を撫で下ろす。
「にしても、お前そんなに脇腹弱かった?」
「不意打ちだったからな。びっくりはした」
「じゃあ俺も今度不意打ちしようかな」
 悪戯心が沸いて言った陽介を振り向き「いいよ」と日向は薄く笑った。
「そうしたら、すかさずやり返すから」
 その言葉と笑みに壮絶なものを感じ取った陽介は「……怖ぇよ」と首を竦め、日向から逃げるように上体を後ろへ反らした。

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