背中合わせ ペルソナ34Q小話 2013年04月29日 秘密基地を摸したような迷宮を、日向と陽介は二人きりで走っていた。地下特有の篭った空気。一歩前へ踏み出す度にコンクリートの冷たい足音が響く。 この場所で直斗を救出する目的は果たされている。しかし頼まれごとや、だいだら.で使われる素材集めなど、まだまだやることは残っていた。 狭い通路に入りしばらく進んだ後、急に日向が足を止めた。切っ先を下にしていた刀を青眼に構え直し「陽介」と前を見据えたまま後ろの陽介を呼ぶ。 短く隙のない動作の理由を、陽介はすぐに理解した。素早く身体を反転させ、日向と背中合わせになると両手の苦無を交差させるように構える。 通路の奥から、シャドウが二人を挟み込むように現れた。後ろも前も、その数は多い。 しかし陽介は怯えもせずシャドウの群れを見て、ひゅう、と口笛を吹いた。「大歓迎されちゃってるな、俺達」「歓迎、と言うよりもうなりふり構わってられないんじゃないか?」「随分ここのシャドウも倒し続けたしなぁ」 陽介が場の雰囲気にそぐわない、呑気な口調で言った。 シャドウにとってペルソナを持つ人間は、己の存在を脅かす危険な存在でしかない。ずっと同じ場所に留まられたら、堪ったものではないんだろう。数に物を言わせ、日向らを排除しようとしている。「橿宮、お前の手持ちペルソナは?」「ランダ、ホクトセイクン、カーリー。それからゲンブ」 並び立てられたペルソナの名に「見事に攻撃重視だな……、それ」と陽介が呆れた。治癒の力を持つペルソナが一つもないところに、いっそ漢らしさを感じる。「攻撃は最大の防御と言うし。それに陽介がいるなら大丈夫」 不安の欠片もない声で、日向が言った。距離を詰めるシャドウを冷静に見据え「怪我なんてしないよ」とはっきり言い切った。「自信満々だな。――ま、俺も怪我しねーしさせませんけど!」 陽介もまた言い切り、シャドウに不敵な笑みを見せる。負けるつもりなど全くない目をしている。「後ろはまかせた」 日向が己の内に宿るペルソナを喚び出す。鋭い爪を持つ、終わりなき戦いを続ける魔女が青い光を纏い、日向の元へ舞い降りた。「ああ、任せとけって!」 陽介もまた内なる存在――スサノオを喚ぶ。 二人は互いに自分の目の前にいるシャドウに狙いを定めた。後ろを心配する必要なんてない。頼りになる相棒に、背中を預けているのだから。「よしっ――行くぜ相棒!!」「うん」 陽介の掛け声を合図に二人は目の前のシャドウへ斬り込んだ。「――お疲れ」 さほど時間が掛からなかった戦闘を終え、日向が労るように陽介の背を軽く叩いた。「ま、ざっとこんなもんだろ」 耳に当てていたヘッドホンを首へかけ直し、陽介はにっと笑って通路を見渡す。襲い掛かってきたシャドウ達は呆気なく露となって消え、日向と陽介の二人しかいない。「怪我は?」「さっきも言ったじゃん。する訳ねえって。見てのとーり元気元気」 苦無を持った両手をひらひら振りながら、陽介はそれとなく日向の様子を確かめる。向こうも先程の言葉通り、怪我一つない。あったとしてもすぐに治すけれど。 ほっとしながら陽介は「怪我よりも――腹減った方が強いかもな」と腹部を摩る。二人きりな分、今日は運動量も激しい。「なあっ、今日帰ったら愛家に食べいこーぜ。雨だし、今ならスペッシャルな肉丼完食出来そうな予感がすんだよ。アイツらには内緒でさ」 誰にも聞かれる恐れはないのに、陽介は日向の肩を抱き寄せ、そう提案した。「無謀なことはしない方がいい」 日向はやんわりと陽介を窘めた。達観したような目を遠くへ向けて呟く。「あれは根気に勇気……色んなものを合わさり持つことで初めて太刀打ち出来るんだから」「大丈夫イケるって! 俺も物体Xで鍛えられてるし!」「食べ切れなくても面倒みないからな」 微苦笑を滲ませ「ほら、行くぞ」と陽介から離れて、鞘に収めていた刀を抜いた。「愛家行く前に、素材と――頼まれた物の回収な。もう一頑張りやってこう」「そうだな、もうちょい頑張りますか!」 二人はぱん、と手を高い位置で叩き合わせると、再び走り出した。 [0回]PR