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プレーンリング




 外された指輪を日向は指先で摘んだ。目の高さまで持ち上げて、まじまじと凝視する。
 シンプルなデザインをされた指輪は、それが反ってお洒落に見えた。服装だけじゃなく、細やかなところにも気を使ってんだな、と指輪の持ち主――陽介を見る。今、彼の指にはさっき見つけたばかりのチャクラリングがはめられていた。自分の手の中にある指輪と彼の手につけられたそれを見比べる。
「――どした? 指輪見比べちゃって」
 視線に気づいた陽介に尋ねられ、日向がさっと素早く持っていた指輪を握りしめて隠した。不審な行動に「橿宮?」と陽介は声を潜める。
「何でもない」
「訳ねーよな。なーに考えてたんだよ」
 考えを見透かしたように、陽介が日向の腕を突く。隠し事をされたのが不満らしく、少し怒っていた。
「別に大したことじゃない」
 ことを荒立てるつもりじゃなかった日向は、早々に思っていたことを白状した。
「二つの指輪見てさ。陽介にはこっちの方が似合ってるなって思ったんだ」
 そう言って広げた掌に乗せた指輪を陽介に見せる。さっきまでつけていたそれを見て「なんだそんなことか」と拍子抜けした表情をする。
「だから大したことじゃないって言っただろ」
「そりゃそうだけど。……ふーん、そっかぁ」
 得心がいったように頷いて、陽介は歯を見せて笑った。
「こういうのつけてるの見て、カッコいいとか思ってくれちゃってる訳か」
「カッコいいとは言ってないぞ。俺は似合ってるって言ったんだ」
「同じことだろ」
 だらしなく相好を緩ませる陽介に、日向はいい顔をしない。むっと口を尖らせ「そのチャクラリング返せ。天城か直斗に渡すから」と手を突き出した。
「そう怒るなよ」
 陽介は逃げるように素早く一歩下がる。素早く掌に転がっていた指輪をつかみ取り、日向の左手首を捕える。名案を思いついた顔をして、指先で摘んだ指輪を掲げて見せた。
「どうせならさ、お前もつけてみたらどうよ。これシンプルなデザインだし、似合うと思うぜ」
「ちょ……!」
 制止する間もなく、薬指に指輪が通されていく。日向が「なんだこの寒いシチュエーションは」と首を振った。
「寒いって言うな! 男なら一回は憧れるもんだろ~?」
「憧れる以前に俺は恥ずかしいんだよ」
 掴まれた手首を振りほどき、直ぐさま日向は陽介に背中を向ける。左手の薬指。存在を主張する指輪を外そうとした。
 が、
「……外れない」
 入れるときには難無く指の根本まで通った指輪が、途中で止まってしまった。焦って無理に力を入れてしまい、節が痛くなる。
「あー、お前もうそれはずっとつけとけって言う神の思し召しじゃない?」
 後ろからにやにやとしてそうな陽介の声が聞こえた。振り向けば予想通りの表情をしていて、日向の神経を逆なでる。
 陽介は外れない指輪を見てにっこり笑った。
「似合ってるぜ、その指輪」
「……っ!」
 反射的に握りしめられた日向の拳が、陽介の腹部にめり込んだ。


 その後指輪が外れるまで、日向は頑なに左手をポケットに突っ込んだまま、誰にも見せようとはしなかった。リーダーの不機嫌とは裏腹に、隠された左手の方に目を向けては陽介は常にだらしなく笑みを浮かべていたらしい。
 その理由は、二人以外、誰も知らない。

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