壇主小話 東京鬼祓師 2013年04月29日 物欲しそうな目をしていたので、俺は七代にキスをした。 首をさっと屈め、すぐ隣にいる七代の唇に自分のを合わせる。 何のことはない、ただ触れて離れただけの軽いやつだ。だが、そんな生やさしい接触に七代は「いっ、いきなりなにするんですかっ」と赤くなった顔で唇を隠した。「不意打ちなんて……卑怯ですよっ。卑怯なのは壇嫌いなんでしょう」「……確かに卑怯は嫌いだけどよ」 何事にも例外があって、俺にとっては七代に不意打ちで触れることがそれに当たる。理由を聞かれたら、そりゃ七代の反応が見ていて面白いからだ、と答えるだろう。 いや面白い、と言うのも語弊がある。面白い、と言うより、かわいい、方がもっと近い表現か。 とにかく見ているだけで俺はたまらない気持ちになってしまう。七代は「不意打ち卑怯」と怒っても、またやりたくなってしまうのだ。 俺は意地の悪さを含んで笑い「じゃあちゃんと宣言すればやってもいいんだな」と言った。七代の側にある腕を上げ、きょとんと目を丸くした相棒の頬に掌を這わせる。「――ヤらせろ」「……っ!?」 正々堂々としたいことを宣言したら、七代の顔がさらに赤くなった。びっくりして全身の毛を逆立てた猫のように身体が固まり、後ずさりして俺から逃げる。 置いてきぼりにされた手を戻し「ちゃんと正直に言っただろ」と俺は言った。「ろ、露骨すぎるんですよっ! は、は、恥ずかしいっ」 壁に背をぶつけて止まった七代は「昔の壇はどこ言っちゃったんですかね、本当に……。会ったときはひっついたらすぐに逃げる子だったのに」と俺を警戒する目つきで睨んだ。「お前がそうさせたんだろ。昔も、今も」 俺は腰を浮かし膝立ちで七代に近づいた。 七代は俺の粗暴じみた挙動にも、周りのくだらない噂にも構わず近づいてきた。それに絆され七代の隣に居場所を見いだした俺は今、自分から距離を縮める。 どっちも七代がいるからこそ、起きていることだ。「責任をとれ、とは言わねえが」 あっと言う間に距離を詰めた俺は床に手を突き、七代に顔を近づけた。「受け入れるぐらいは出来るだろ」 言ってまたキスをする。今度は触れるだけじゃなく、七代の口の中へ舌を入れた。 七代の肩がびくんと跳ねる。だけど俺はまた逃げられても困るので、右手で奴の左肩を掴んだ。 キスを深くしながら、掴んでいた七代の肩を引き寄せ、座りなおした俺の胸の中へと閉じこめる。その弾みで唇が離れ「……んっ」と七代から悩ましい声が漏れる。エロい。 抱きしめる背中に力を込め「ま、手加減してやるからよ」と譲歩を口にするが、返ってきたのは「壇の手加減は信用ならない」という七代の呆れだった。でも受け入れてはくれるんだろう。もう七代から、逃げる素振りは全く見られない。「せめて終わっても歩けるぐらいには優しくしてくださいよ」 ふてくされて言う七代に、俺は破顔した。「わかってるっつーの。優しくしてやるって」 多分。そう心の中で付け加え、俺は七代を床に寝かせる。結構な確率で無茶をしてしまうのは、何となく目に見えていたからだ。こいつがエロいのが悪い。 それを言ったら七代は怒るだろうけど、事実なのだから否定はしない。 さて、どこまで手加減できるか。自分自身に賭けをするような気持ちで、俺は七代の服のボタンを外した。 [0回]PR