ジュンゴ主 デビサバシリーズ 2013年04月29日 サイドテーブルにあるコンセントに携帯電話の充電器を差し込む。優輝は先端のプラグを携帯電話を繋げ、背中からベッドに飛び込んだ。身体がベッドに弾み、スプリングがぎしっと音を立てる。 大の字になって仰向けになり、ベッドからはみ出た足をぶらつかせながら天井を見上げた。ぼんやりと、自分が選んだ選択の意味を噛みしめる。 優輝は誰とも争わない道を提案した大地の手を取った。大和の言う実力主義も、ロナウドの唱えた平等主義も全く理解不能ではない。けれど、二人の思想にはどちらも極端さが見え隠れしていた。どっちも自分の考えが正しいと信じすぎて周りに対し盲目になっている。 だからこそ優輝は大地の考えに賛同した。どちらに傾くのではなく、納得いくまでぶつかって話し合って、お互いが共存しあう世界を模索していきたい。「……でも説得のまえにあいつらと戦わなきゃなんだよな」 優輝はため息を吐いた。大和とロナウドにはそれぞれ賛同するかつての仲間たちがついている。みんなの強さはこれまでの戦いから身に染みている。それにセプテントリオンもまだ残っている。 仲間との戦い――説得。そしてセプテントリオンの撃退。やることはたくさんありそうだ。優輝は充電器に繋がれた携帯電話を見やる。まだ充電は終わっていない。やることは決まっているし早めに眠って明日に備えておかないと。「優輝……起きてる?」 寝ようと靴を脱ぐ途中、ドアをノックされた。片言のちょっとたどたどしい声の持ち主を、優輝は一人しか知らない。 優輝は「寝てる」と答えた。 少し沈黙が落ちてから「……入るね」とゆっくりドアが開き、純吾が顔を覗かせた。「寝てるって言ったのに」 ベッドに転がったまま、優輝は口を尖らせた。 純吾は優しく笑って「でも……入っちゃダメって言ってない」と言った。部屋の隅にあるイスを見つけて、ベッドの側まで運ぶとそれに座った。 優輝は枕を腕に抱え、純吾に背中を向けた。「それで、何のようだ」 枕に顔を埋め、優輝は尋ねる。少しだけ頬が熱くなってきた。「ん……。本当に優輝がいるのか確かめたくなったから」 純吾が答える。「ジュンゴ、優輝が来てくれるって信じていた。だけど……不安もあった。もしかしたらヤマトやロナウドのところにいってしまうんじゃないかって」「だから、ちゃんとオレがいるのか確かめにきたのか?」「……ん」 ぎしり、と近くでマットが沈む音がして、優輝の肩がつつかれる。「こっちむいて、優輝」「……やだ」「どうして?」「恥ずかしいからだ!」 優輝は一層強い力でぎゅっと枕を抱きしめた。身体を丸め、触るなと無言のオーラを出す。さっきまで考えていたまともなことが、弾けてどこかに行ってしまった。「恥ずかしい? ……どうして?」「お前は自分でさっき言ったことも忘れたのか!?」 繰り返される純吾のどうしてに耐えれなくなった優輝が手を突いて起き上がった。振り返る勢いで掴んだ枕を純吾に投げつける。至近距離で投げつけられた枕は寸分違わず純吾の顔に命中し、そのまま膝に落ちた。「忘れたとは言わせないぞ! あの時お前はオレに、……オレに」「ジュンゴ、優輝好きだって言った」「覚えてるじゃないか!」 優輝は憤慨して純吾を睨みつけた。 純吾はきょとんとして優輝を見返す。 一緒に他の道を探すことを選んだ優輝に、大地の考えに賛同し東京に残った仲間はとても喜んでくれた。ほっと胸をなで下ろす維緒に、百人力だ、と嬉しいことを言ってくれる緋那子。そして純吾には何故か抱きつかれて。「ジュンゴ、優輝好きだ。絶対に来てくれるって、信じてたよ!」 まるで告白のような言葉に優輝は固まってしまった。そのことを思い出すと、優輝は何故かとても恥ずかしくなってしまう。他のみんなは「またジュンゴが何か言ってる」と軽く済ませているのに。「お前はオレのどこが好きなんだ?」 胡座をかき、腕を組んだ優輝は難しい顔をして尋ねた。「どこ?」「お、オレは自分が面倒くさい性格だとわかっているつもりだ」 眠たいときに眠り、食べたいときには食べる、本能に近い行動。時には不遜な態度をとることだってある。時折自分のした行動を後で後悔する時もあった。あくまでこっそりと、だけど。「ジュンゴだってわかってるんだろ。それでもオレを好きなのか?」「好きだよ」 単純明快な答えが返ってきた。あっさり打ち返された言葉のボールに、優輝は慌てた。純吾が「優輝、かわいい」と微笑むので、もっと慌ててしまう。「優輝はおいしそうにご飯食べたり、気持ちよさそうに眠る。生きることを疎かにしないところ、好き」「……」「あと、それから」「もう言うな」 優輝は手を前に出し、純吾の言葉を遮る。そっぽを向いて「ジュンゴは恥ずかしい奴だな」とぼやいた。放っておいたらもっと恥ずかしいことを聞かされそうで、発狂しそうだ。「ジュンゴ、恥ずかしいこと言ってないよ。当たり前のことしか、言ってない」「……」「だから……がんばろう、優輝」 優輝の手を純吾はそっと握りしめた。板前という職業上水を使うせいか、掌がかさかさしている。本来、人の空腹を見たし喜ばせる手が、悪魔を屠る為に振るわれるのが少し哀しいと優輝は思う。「ジュンゴ、優輝好きだから。全部終わった後、世界がどんなになっても、一緒にいたい」「……じゅんごもいる?」 純吾が拾った猫の名前優輝は出した。分かりやすい名前がいいと、自分の名前を付ける純吾に、少し呆れたのは数日前のことなのに、ずっと昔のことのように思える。今は比較的安全なところにいる猫は、すべて終わったらまた迎えに行くと、純吾は言っていた。「うん、じゅんごも一緒。優輝もじゅんごも一緒……。ジュンゴ、幸せ。……優輝は幸せ?」 少し不安そうに聞かれ、優輝はすぐに「しあわせ」と繋がった手を握り返した。純粋な行為が照れくさくて、くすぐったくて、そして温かい。 どうしておれを好いてくれるのか、疑問は解消されなかったけどこうしているとどうでもよくなってくる。それよりももっとこの温もりを感じていたくて。「いまも、しあわせ」 優輝は繋がれた手を一度離し、指を絡めて握り直した。ぎゅっと繋がれた温もりにジュンゴは驚いたように目を瞬かせ「ジュンゴも」と幸せをちりばめた笑みを浮かべた。 [0回]PR