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ゆく年



 大晦日の昼過ぎ。日向は、ジュネスから家路へと歩く。今年も今日で終わり。全快した堂島と菜々子の為に両手にぶら下げたビニル袋には、食材が押し込めるように詰められていた。
「はー、今日で今年も終わりかぁ」
 寒空を見上げていた陽介が感慨深く呟き、首に巻いたマフラーに顔を埋めた。左手には、日向と同じくいっぱいになったビニル袋。いくら日向でも三つ一遍に持てないので、堂島家まで持って行く手伝いを買って出ている。
 食材でいっぱいのビニル袋は重く、取っ手が指に食い込むが陽介には苦にもならない。右隣りにいる日向の存在を確かめながら、一緒にいられる幸福を噛み締める。今年はこれでおしまいだと思うと、尚更。
「うん」
「今年はすごかったよな。たぶん俺、今までで一番密度が濃い年だと言えるかも」
「それだったら、俺だってそうだよ」
 ははっ、と日向が笑った。
「俺だけじゃない。里中や天城や……。みんなそうじゃないか?」
「そりゃ言えてる」
 陽介も笑い、大きく息を吸った。そして吐き出された息が白く濁り、すぐ冬の空気に流されていく。
 会話が途切れ、歩く音だけがする。それを聞きながら、陽介はちらちら横目で日向の様子を窺った。
「あのさ、正月いつあたり暇になんの?」
 思い切って、陽介はここ最近言いたかったことを、口にした。緊張で心臓の打つ動きが早くなっていく。
 日向がきょとんとして、陽介を見た。そして「ん?」と首を傾げて聞き返す。
「だからっ、年明けたらいつ会えんのかって、聞いてんの」
「明日会える」
「それはみんなでだろ」
 元旦は、特捜メンバーで初日の出を見た後、辰姫神社へ初詣に繰り出すことになっている。日向はそのことを言ってるんだろう。
 微妙に気持ちがすれ違っている会話に、陽介は視線を爪先へと落として口を尖らせる。
「俺は二人っきりで会う時のことを言ったつもりだったんだけどさ」
 納得がいった日向が「ああ」と頷いた。ビニル袋を持ち直し、宙を仰いで考え込む。
「元旦はなるべく家にいたいから、それ以降かな」
「曖昧だな、それ」
 なるべく明確な答えが欲しかった陽介は、不満そうに唸った。
「拗ねない」
 日向が微かに苦笑して、陽介を窘める。
「……だったら、初詣の待ち合わせ」
「ん?」
「待ち合わせ。みんなより早くする? そうしたらその分二人でいられる」
 陽介が眼を丸くして、日向をじっと見た。笑みを深くし、日向は言葉を続ける。
「それにその間で今度はいつ会うか決めたらいいんじゃないか。陽介だって、新年はジュネスで忙しいんだろう? どうせなら、確実に会えるよう決めておかないと」
「橿宮」
「その代わり、電話入れてほしい。たぶん寝てるだろうし」
「……お前、そこら辺はこれからも変わらないんだろうなぁ」
 呆れて肩を竦め、陽介は笑った。近くなってきた堂島家の屋根を見つけ、気合いを込めて呟く。
「じゃあ、時間が来たらお前が起きるまで携帯鳴らしてやっから」
「その調子で頼む」
 日向は眼を細め、意気込む陽介に気づかれないよう頬を緩める。そして、ぶら下げたビニル袋を見下ろし「がんばってやること終わらせないとな」と小さく呟いた。

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