1/1 ペルソナ34Q小話 2013年04月29日 長時間鳴らされた携帯電話の着信音に起こされた日向は、堂島に見送られて家を出た。 元々仲間内で集まるのより数時間早い空はまだ夜の帳が落ち切ったまま。寒さで身が切れそうな空気は、暗闇へ星の煌めきを鮮やかにちりばめている。 は、と白い息を零し夜空を見上げていた日向は、歩き出した。陽介が待っている場所へ。 鮫川河川敷に建てられた東屋で、陽介は日向を待っていた。コートにマフラーを巻いた格好で、耳にはいつも首にかけているヘッドフォンを当てている。 日向はゆっくり後ろから陽介に近づいた。ヘッドフォンで音楽を聴いているのか、すぐ後ろに立っても気づかない。 リズムを取るように頭を軽く上下させる頭をじっと見て、日向は手を伸ばした。手袋を着けていない指先で、赤くなった頬に触れる。「――っ!?」 指先の冷たさに、びくりと陽介の肩が跳ね上がった。ヘッドフォンを剥ぎ取って振り返ったその眼が、手を引いた日向を見て、大きく開かれる。「おっま……、ビックリしただろ!」「ごめんごめん」 陽介を驚かせた手をひらひらと揺らめかせ、薄く笑いながら日向は謝る。そして睨んでくる視線を受け流しながら隣に座った。「いつからいたの? 結構待ってた?」「んー、30分ぐらいかな」 答えて陽介がコートのポケットに手を入れる。「クマがさ、初めての年越しでやけに興奮してさ。なかなか寝ないから、ちょっと焦った。せっかく二人で会うのに、起きられてたら外行けねーし」 それでもはしゃぎすぎたお陰か、クマが力尽きて眠ったので、その隙に家を出たと、陽介が疲れたように言った。「起きたらまた大騒ぎしそうだ」「たぶんな」 その状況を想像した陽介が、深い溜め息を吐いた。だがすぐ気を取り直し、日向に笑いかける。「まぁでも、お前と会うほうが大事だし」 へへっ、と陽介はポケットから出した手で、鼻を擦った。寒さのせいか、鼻先は赤くなっている。「うん」 日向が小さく笑う。そっと身体を移動させて、陽介に寄り添った。肩口に頭を凭れ「俺も早く会いたかったよ」と囁いた。「そっか」と陽介も笑う。嬉しそうに声を弾ませ、「良かった」と呟いた。「……それでこれからどうするんだ?」 肩に乗せた頭を擡げ、日向は陽介に尋ねた。まだ仲間との待ち合わせには、まだ結構な時間がある。なにもせず一緒にいるのも構わないが、この寒空では風邪をひいてしまいそうだ。 んー、と顎に指を添え陽介は考え、そして言った。「まぁ、こうして二人きりなのも久しぶりだし、したいことしたいけど」「言うと思ったよ」「人の言葉は最後まで聞けよ」 心外だと言いたげに、陽介は日向の言葉を遮る。わざとらしく咳ばらいし「神社まで行くか。途中であったかいもん買って」と提案した。「どうせ待ち合わせもそこだし。のんびりすんのも良くない?」「構わないけど」 意外そうに見る日向に、「信用ないね、俺」と陽介は首筋をかく。「言っただろ。会いたかったって。俺だって、それだけで十分な時があんの。この微妙な心境わかってよ」 陽介は腰を上げ、座ったままの日向に向き直る。「行こう」 そして手を差し出し、にっこり笑った。 いつもだったら、往来や仲間の眼がある場所で、手を繋いだりはしない。期待が篭った眼に、日向は口許を緩め、その手を掴んだ。 夜空で待っていた手は冷たい。けど、繋いで歩くうちに温まるだろう。 歩き出した陽介に手を引かれ、日向は立ち上がる。そして進み出した恋人の背に「陽介」と声を掛けた。 肩越しに振り返る陽介に言う。「あけましておめでとう」 これからもよろしく。 その言葉に陽介も「こっちこそよろしくな」と笑って応えた。 [0回]PR