共通点 ペルソナ34Q小話 2013年04月29日 差し迫った事態もなく安穏な日が続く中、陽介は日向と一緒に下校していた。今日はジュネスのバイトもないので、このまま花村家で遊ぶことになっている。「家帰る前にジュネス寄っておやつでも買っとく?」「んー……」 日向は生返事をして、目前にある家をぼおっと見ていた。何か気になるものでもあるのか、不意にそっちへと歩きはじめてしまう。「橿宮?」 不可解な行動に陽介は首を傾げつつ、日向についていく。 門前に立った日向は、陽介に構わず辺りを見回した。何かを探しているようにも見えるが、不審人物に間違えられるんじゃ、と陽介は思わず冷や汗を流してしまう。 あ、と突然日向が嬉しそうな声を出した。 門の向こう――庭から茶色い子犬が駆けてきた。生まれてまだ外の世界を知らないのか、それとも人懐っこいのか。日向の元まで近づき、勢いよく尻尾を振っている。 日向がしゃがみ、門の間から差し入れた手で、子犬の頭を撫でた。柔らかな毛の触り心地に、日向が目尻を下げて微笑む。「この子、最近産まれたみたいなんだ」 子犬を撫でる手はそのまま、日向は後ろで膝に手をつき屈む陽介を振り返った。「たまに出てきて。その度撫でさせてもらってる」「ここの家の人は何も言わねえの?」「向こうは俺のこと、叔父さんの甥だって知ってるみたい。この前も顔を合わせたけど、挨拶して普通に会話した」 どうやら日向の名前は、良い意味で稲羽に知られているようだ。そっか、と頷き、陽介は再び子犬へ視線を戻した日向の様子を眺めていた。 無心で撫でる手が心地良いらしく、子犬はうっとりと眼を細めされるがままになっている。こうしてまた一匹手なずけていくんだろう。 陽介は河川敷の猫も同じように手なずけていることを知っている。そのうち日向が歩くだけで、稲羽中の動物が寄って来るんじゃないか。そう思うと、陽介はほんのり空恐ろしくなった。「何か、陽介みたい」 日向がぽつりと呟く。馬鹿な想像をして薄笑う陽介は、その言葉を拾い損ね「何が」と聞き返した。「この子犬が陽介みたいだって言った」「俺が? コイツに?」 陽介は眼を丸くして、子犬を指差す。「どこが?」「そうだな……」と日向は考え、そして陽介を見て答えた。その唇には薄く笑みが敷かれている。「気に入った相手には、とことん甘えるところとか」「……」「そういうかわいいところが陽介そっくり」「……かわいいとか、そう言うのしみじみ言うなよ」 可愛いと言われ、陽介は複雑な心境だ。拗ねたように口を尖らせて横を向くと、堪えきらなかった笑い声が聞こえてくる。「陽介」 立ち上がった日向は陽介のほうに向き直る。そしてさっきまで子犬を構っていた手を軽く上げて、ひらひらさせた。「頭、撫でてほしい?」「い、いらねーよっ!」 顔を真っ赤にしてがなる陽介を、子犬が眼を丸くして見上げる。だが日向は「遠慮しなくていいのに」といけしゃあしゃあと笑って言った。 [0回]PR