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甘え



 陽介の部屋。テレビから、ゲームの音楽が流れる。
 下校の帰りに遊びに来た日向はコントローラを握り締め、真剣に画面を見ていた。クッションを枕がわりに胸の下へ敷き、寝そべった楽な姿勢だが、その視線は鋭い。
 すぐ横では陽介が、日向が操作しているキャラクタの動きをじっと見ていた。敵を避けつつ先へ進む日向に、そこはジャンプだ、とアドバイスする。
 日向は陽介の助言通りに動いた。最初こそうまくいった。だが進むにつれ、敵の猛攻は激しくなり、とうとう操作しているキャラクタはライフが尽きて倒れてしまう。
「ああー……」
 暗転した画面に赤くゲームオーバーの文字が現れ、日向がコントローラを落とした。あともうちょっとだったのに、と悔しがりながらクッションに顔を埋める。
「まぁ、ここは俺も苦労したもんだ」
 陽介は俯せになった日向の背中を撫でて慰めた。なかなか難所を突破できないジレンマを知っているので、日向の悔しさも理解し合える。
「もっかい」
 気合いを入れ直し、肘を突いて上体を起こした日向が、再びコントローラを握った。負けず嫌いに火がついて、先に進まなければ気がすまなくなったらしい。
「あともうちょっとでいけるんだ。あともうちょっと」
 呟きながらボタンを押し、日向はちらりと陽介を見る。そしてクッションごと横に移動すると、陽介に近寄った。
「橿宮?」
「この方がより安定して動けそうだから」
 ぴったりと陽介に身体を寄せた状態で、日向はプレイを再開した。
 触れ合う箇所が、服越しにほんのり暖かくなる。
 陽介はしばし驚いていたが、すぐに日向が甘えてるのだと気づいた。猫のように擦り寄り、こちらに身体を預けてくれている。
 陽介はふっと微笑み、日向の背中に置いたままだった手を肩へ移動させた。そっと力を込めて、自分のほうへ引き寄せる。日向はされるがまま。陽介を拒まない。
「……こうなったら、意地でもクリア目指してみっか?」
「うん」
 日向は画面に眼を向けたまま頷いた。
 そしてゲームがクリアするまでの長い時間、二人はずっと同じ体勢でぴったりくっつき、離れようとはしなかった。

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