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マフラー




 日増しに寒くなっていく朝に冬の到来を感じながら、陽介は家を出た。吐いた息が一瞬白く煙り、すぐ消える。この分だともうそろそろ、手袋とかマフラーとか暖かいものが必要になりそうだと思いながら、通学路を歩く。
 歩くうちに指先が冷えてきた手をズボンのポケットに入れて歩いていると、後ろから「陽介」と誰かが呼んだ。振り向く間もなく、日向が鞄片手に走って陽介に近づいてくる。
「おはよう」
「おはよーさん。わ、お前なんだ? 暖かそうなもの着けちゃって!」
 日向に挨拶を返しながら、陽介は彼が巻いているマフラーを見た。淡い青色のもので、しっかりと日向の剥き出しになっている首筋を守っている。
「これか?」
 日向は巻いているマフラーの端を持って見せた。
「今日外出たら、やたらと寒くて。一回家のなかに戻って巻いたんだ」
 そして、はぁ、と白い息を吐き、空を見上げる。
「稲羽って、結構寒いんだな冬」
「もうちょっとしたら、もっと寒くなるぜ。俺も去年びっくりしたし」
 一晩経って、カーテン開けたら雪一色でした、なんて体験をした時には、驚いて開けたカーテンを掴んだまま呆然としたものだった。そうしみじみと語る陽介に、日向は小さく笑う。
「笑い事じゃねーから。その後雪掻きで死ぬかと思ったんだから」
 笑われてむっと口を尖らせた陽介は、日向が巻いているマフラーを改めて見つめる。
「今年も雪降ること考えたら、マフラー欲しいかも。な、お前のどこで売ってるんだ? 俺もそういうの欲しい」
 興味津々で尋ねる陽介に、「これか?」と日向はマフラーを指差して答えた。
「これは完二の手作り」
「……まぁ、ありそうだと思ってたけど」
 しかしどこまで器用なんだか、と陽介は思う。一見してどこかで買ったと言われたら、信じてしまうそうな出来映えだ。
 じっとマフラーを凝視する陽介に「陽介も頼んでみたら?」と日向が言った。
「これ、すごくあったかくていいぞ」
「うーん……」
 陽介はマフラーの端を摘んで弄びながら考える。
「いいかもしんねぇけど、俺が頼んで素直に聞いてくれるかな」
 明らかに完二は日向と違って、陽介を先輩として敬っていない節がある。だが日向は「大丈夫」とすぐに頷いた。
「俺も一緒に頼むから」
「……なら大丈夫、か?」
「じゃあ今日にでも頼んでみよう」
「そだな」
 日向が一緒なら、まず平気だろう。なんとなく日向とお揃いになれるんじゃないかと、頬が緩む陽介の横で「あ、でも材料代はこっち持ちだから。あと何色にしとくか決めとけよ」と日向が付け加える。
「陽介だったらやっぱり明るい色かな。赤とか?」
「赤は天城の色って感じがするから他のがよくね?」
「じゃあ橙とか……」
「じっさい見てみねーと分かんないかもな」
 すっかり完二に作ってもらうことが決まっているように話しながら、二人は歩いていく。その脳内には断られる可能性はもうないようだった。

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