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キスの許可




 読んでいた雑誌を取り上げ、陽介は日向との距離を縮めた。床に手をつき、眼を丸くして驚く顔を至近距離で見つめる。灰色がかかった虹彩に緊張気味の真剣な表情をした陽介の姿が映っていた。
「あの、さ」
 一拍置いて、陽介は声を絞り出すように言う。
「キスしても、いいか」
 見つめる陽介の目許が、うっすらと赤くなる。対して日向は不思議そうに陽介を見て、小首を傾げた。
「キスって、俺と?」
「お前以外誰がいんだよ。そもそも、ここには俺とお前の二人しか……いないだろ?」
「下には菜々子がいるけど」
「この部屋には二人きりだろ」
 だんだん会話の焦点がずれていき、焦りから陽介は眉間を寄せた。ただキスしたいだけなのに、時間が掛かってしまうのは、相手が日向だからだろう。頭が良いし、度胸も寛容さもあるが、極端に自分に向けられる好意に関しては鈍すぎる。それに顔を突き合わせたままでいるのも、心臓に悪かった。
「それで、していいのか駄目なのか、どっちなんだよ」
「陽介的にはしたいんだろう?」
「当たり前だ」
 言い切る陽介に、日向は眼を丸くして、いきなり笑った。
「そこまで必死になるんだな、陽介は。一々尋ねなくたって、別にお前だったらいきなりでも構わないけど、俺は」
「その言葉マジか!?」
「時と場所と状況を弁えなかったら、蹴るけど」
「……それもマジか?」
 うん、と頷かれ、思わず陽介は渋面を作った。
 それでも拒否されないだけ、希望がある。……千枝仕込みの蹴りはとても怖いけど。
「努力する。するから、今もいいだろ?」
「さっき言ったこと忘れた?」
 少し呆れて日向は言った。
「弁えてくれてさえいれば、別にいきなりでも構わないって」
「あ、そ、そっか……」
 二人は顔を見合わせる。そしてどちらともなく笑うと、静かに唇を合わせた。

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