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ブラック



 昼食を食べ終え、教室でヘッドフォンをつけて音楽を聴いていた陽介の目の前に、突然横から拳が突き出された。顔すれすれの不意打ちに陽介は驚き、頬杖をしていた顔を上げる。そして忽然と側に立っていた日向に「何やってんだよ」とヘッドフォンを外しながら軽く顰めっ面をした。
「ゴメン」
 謝りながら、日向が陽介の机に突き出した手で持っていたものを置いた。
「コーヒー?」
「自販機で買おうと思ったら、ぼんやりしちゃって買うもの間違えた」
 目の前に置かれた缶コーヒーを見つめる陽介に、日向がもう片方の手で持っている缶を軽く振った。日向が持っているのはカフェオレで、机に置かれているのはブラック。なるほど、と陽介は納得した。日向はブラックが苦手だ。
「奢るから飲んで。俺も助かるし」
「そういうことなら」
 丁度眠気覚ましに飲みたかったところだ。陽介はありがたく厚意に甘える。プルトップを開けて口をつけると、舌にコーヒーの苦みが刺さった。
 自分の席へ横向きに座った日向が、カフェオレを飲みながら「よく飲めるな」と羨ましそうに言った。
「俺も飲めなくはないんだけど……。やっぱり甘めの方が好きなんだよな」
「いいんじゃね? 好みなんて人それぞれだろ。皆が皆一緒だったらつまんねーし」
 味覚でも何でも、人によって違うから面白い。
 しかし日向は「でも」とカフェオレを陽介の机に置き、陽介のコーヒーをさっと取った。早業に陽介も動けず、黒いラベルの缶を見つめる日向に唖然とした。
「同じものを好きになりたい気持ちを持つ人だって、いると思うよ」
 そう言って日向はコーヒーを一口飲んで――眉間をきつく寄せた。缶から口を離し「……にが」と舌を出す。
「無理するなって」
 陽介は日向の手からそっとコーヒーを取り戻し、代わりにカフェオレを握らせる。直ぐに甘いカフェオレを飲む姿に口元を緩ませ「強引に同じになる必要もねーだろ?」と言った。でも日向が、自分と同じものを好きになりたいと思っていることが嬉しい。
「いきなりブラックじゃなくてもさ、少しずつ慣れてけばいいんじゃね?」
「……そうだな」
 ブラックの苦みから立ち直った日向が、小さく息を吐いた。そして陽介の手の中にある缶を見て「じゃあ今度はミルク無しから始めてみる」と目標を立てた。

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